二つの刀


 ここは、私立第二龍探学園、三年G組の教室。

「頼む!お前じゃないと駄目なんだ!!!」
 三限目と四限目の間の休み時間、暑苦しいほど顔を寄せて、男が迫っていた。
「嫌だっつってんだろがよ!大体俺じゃなくったっていいじゃねーか!」
「いや、お前しか居ない!お前がいいんだ!レオン!」
「俺はそんな趣味はねえんだ!!とっとと去れ!!」
 レオンはそうきつく怒鳴るが、男は頑として引かない。
「一回だけ、一回だけでいいんだ!来週の土曜に一回だけ付き合ってくれたら…それでいいんだ!! 頼む!!」
 そんな声を誤解した女生徒がなぜか嬉しそうに歓声を上げている。 どっからどう見ても、男に迫られている男だと、レオンも悟る。
「気色悪いこというな!!ばかやろ―――――――!!!」
 りーんごーんーりーんごーん…
 その言葉にかぶるように、チャイムが鳴り響いた。
「おら、四限目が始まるぞ!とっととてめぇの教室に戻れ!!」
 レオンに迫っていた生徒は、去年、同じクラスだった男生徒だ。たしかオスト という名前だったはずだ。今年別のクラスの割り振りになったことに、レオンは 神にすら感謝した。
「俺はあきらめないからな!うんと言わせるまで、毎日だって迫ってやるから!!」
 昼休みにまた来るからなーーー!男はそう叫びながら廊下を走り…先生にこっぴどく怒られていた。

 レオンはため息をついた。なにせ今日の朝から、ずっとオストは自分にああやって迫っていたのだ。その気がないレオンには うっとうしいことこの上ない。きっぱりと断っているにもかかわらずだ。
 日直の合図に礼をしながら、この後の対策を練っていた。
(まぁ…今日はなんとかなるだろう…)
 レオンには勝算があった。
 一つ目は、この授業の先生は、いつも5分ほど早く終わってくれること。二つ目は、五限目が体育であり、六限目 ぎりぎりまで外に居れば、つかまりにくいこと。そして、今日は掃除当番ではないので、とっとと帰れば逃げ切れることだ。 ついでに、今日は金曜日。あと二日経てば、なんとか向こうの気も変わるかもしれない、そう考えていた。
 つまり、次の昼休みさえしのげれば今週はなんとかなるはずだ。
 策をもんもんと練っているうちに、気がつくと、授業は終わりを迎えていた。

「きりーつ。礼!着席!」
 そう日直が号令をかけた瞬間、レオンは弁当を持って走り出していた。


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