星の導くその先へ
〜平和の褥に眠る村〜





 僕は、幸せだったんだ。ついさっきまで。なのに、何故?どうしてこんな事に?

「ラグ、そろそろご飯にしようと思うんだけど、お父さん、ご飯の時間に帰ってこないと思うから、お弁当、持っていってくれない?」
「お父さんは、また釣り?」
「そうよ、今度こそ、大物を釣り上げる、だって」
「あはは、判ったよ、行ってくる!」
 ラグは父のお弁当箱を持って家を出た。小さな村、ここがラグの世界の全てだった。20人にも満たない村。 全てが知り合い、全てが家族。小さな頃からラグとシンシアに 魔法を教えてくれる先生、剣を教えてくれる師匠。宿屋のおじさん…退屈だけど平和な村。
「やあ、ラグ!」
「こんにちは、今日も見張り?」
 ラグに声をかけてきたのは、ときどき、剣の相手をしてくれる近所の見張りのおじさんだった。ずっと村の入り口見張りをしている。
「なんだ、ラグ、外に出たいって言うのか?駄目だぞ、外は魔物がうじゃうじゃだからな。大人になるまで、待つんだ」
「外に出たいなんて言ってないよ。皆、二言目にはそれなんだから。いずれは、出てみたいけどね」
「そうだな、まず俺に勝って、それから師匠に勝てるようになったら出してやるよ」
「…それは、まだまだ出るなってこと?」
 ラグの実力は、まだまだ剣の師匠に適うほど強くは無かった。見張りのおじさんにようやく最近、引き分けが増えてきた、 といったところである。 師匠には魔法を使えば20回中1回引き分けられるか、なのだ。
「まあ、気にするな、お、噂をすれば影がさす、だぞ」
 ふと向こうを見ると、剣の師匠が歩いているのが見えた。
「あ、挨拶してくるよ、じゃあ!」
ラグはそう言って、手を振って師匠の方に向かっていった。
(早く強くなれ、ラグ。この村の誰もかなわなくなるくらい…)

「ししょー!」
 ラグは剣の師匠の方に駈けて行った。すると!
  バシ!
 師匠が木刀を振るった!ラグはとっさに腕で受ける。
「痛って〜!何するんだよ!」
 鋭い木刀の一閃を受けたラグの手首は、赤くなっていた。
「油断大敵だぞ、ラグ。これが木刀だったから良かったものの…」
(うわ、説教だ…)
「あ、お父さんにお弁当届けるんだった!じゃあ!」
 そうしてラグは、逃げ出した。その後姿を見ながら感心するように男は思った。
(この私の一閃を、とっさに受けられるまでに成長したか…素質もさるものながら…もうすぐ、かもしれんな…)

「うっわー、やばっかったよ…ん?」
 ラグは宿屋の窓に、見慣れない顔があることに気がついた。
(…ここの村に知らない人がいる…?この宿屋、もう何年も、営業してないって、おじさん言ってたのに…)
 銀色の髪、緋い目の男。不思議な格好、不思議な雰囲気。 好奇心の強い年頃のラグは、物怖じせずに窓を開け、その男に話し掛けた。
「ねえ、貴方、誰ですか?どこから来たの?」
「ほう、この村に君みたいな少年もいたんですが…私は、吟遊詩人」
「吟遊詩人って…なんだっけ?」
「いろんな国を周って歌や伝説を聞かせる商売ですよ。しかし道に迷ってしまって。ここの亭主に助けられたのです。まさか… こんな所に村があったなんてね…」
「へえ、伝説って…どんなの?なんか聞かせて欲しいなあ。僕、この村から出たこと無いから、外のこと 何も知らないんだ。」
 この村から出してくれない大人達。この村の外のことを知りたくないなんていったら嘘だ。だけど、出たい、そういうと 大人たちは皆寂しそうな顔をする。だからラグはいつしか言わなくなった。だが、この吟遊詩人は村の人じゃない。 何か聞かせてくれるだろう、そんな期待に満ちていた。
「そうですね…では、勇者の伝説なんてどうでしょう?」
「勇者ってなに?」
「ご存じないと?勇者というのは、神に選ばれた伝説の人物で、 人々を救い、魔物を退治し、正しき行いをし、世界を平和に導くという人物です。」


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