星の導くその先へ
〜 tradition 〜





 その森は、深く、そして広かった。誰もいない、目的もない、そんな思いがより、その森を深くさせた。 心にのしかかる想いは、森の木々と共に垂れ下がり、空の色の移り変わりのごとく、徐々に暗くさせていった。 今までの世界である村よりも広い森。世界から考えればとても狭い森でも、ラグには果てしなく続くような気がした。
 灯りが見えた。その灯りは暖かく、自分を救ってくれるような気がした。そうしてラグは走り出す。

 目の前には小さな小屋があった。木でできた小さな家。暖かい場所。ラグはこの前に立ち尽くした。
(つい昨日まで、僕はこの中にいたんだ…。なのに今はあの森を抜け、こんな遠くまで来なければ たどり着かない…遠く遠く離れた場所なんだ…)
 この木の家が、その灯りが、ラグを拒否しているように感じた。遠いところに来てしまった。その事実が、 ラグの心を沈ませた。

「なにしてやがんだ!こんなところで!」
 突然の大きな声にびっくりし、ラグはハッとした。目の前には怖そうなきこりと、ずっと吼えて いたらしいき犬がこちらを見ていた。
(確か…犬だよな…図鑑で見たことあるけど…)
 村にはいなかった生き物をまじまじと眺める。それに対し、この家の主らしき、きこりの男が不思議そうな声を出した。
「この家になんか用か!じっと見やがって。」
「あ…ぼく…旅の者なんですが…家が見えたので…」
 どなり声にとっさにそう言うと、きこりはじろじろこちらを見回し、ラグの村があったほうを指差して言った。
「あっちの方からきやがったガキか?」
「はい…そうですけど?」
 そう言うときこりは、犬を指差し、ラグにどなった。
「ふん、ここに立ってやがると、こいつがうるさくってしょうがねえ!とっとと入りやがれ!」
「え…?」
 こわそうな外見から予想もしない言葉に面食らい、思わずボケた声を出すラグ。
「しんきくせぇ!とっととはいりやがれ!」
 きこりはそう怒鳴り、中に入っていく。そのあとについていくラグ。小さな家の庭の片隅には、ちいさなお墓があった。

「おめえ、旅は初めてか?」
 家の中にはいったきこりはラグに聞いた。
「はい…初めてですが…」
 言われるまま答えるラグ。一つ恐れる事は旅の理由の質問。聞かれたくなかった。言葉にしたくなかった。だが、 きこりはそんな事は聞かなかった。ただ機嫌の悪そうな声でこう言い立てる。
「へん!おめぇみてえな若造が、こんな夜中にそんな装備で外をほっつき歩いてたらおっちんじまうさ! てめえみたいなガキはとっとと泊まって行きやがれ!」
「へ…?」
 機嫌の悪そうな声とは似合わぬ提案に、またもやラグは拍子抜けした。とっさに聞き返す。
「いいんですか…ここにはベット、一つしかないみたいですけど…?」
「ガキが遠慮すんじゃねえ!わしはてめえと違い鍛えてる!気持ち悪い遠慮せず、とっとと寝やがれ!」
 そういってそっぽむいた。わけがわからぬままだが、気が付くとくたくたに疲れている。 ラグはそれ以上遠慮せず、布団に入る。
 布団は暖かかった。ほっとした。心も体も疲れていた。慣れない事の連続だった。遠い世界に 放りこまれたような気分だった。布団の暖かな現実感に安心し…ラグは深い眠りに付いた。

 ハッと目がさめる。夢も見ない眠りだった。
(やっぱり現実…か…)
 見慣れない周りに昨日の出来事が夢でない事を確かめ、ため息をつく。
 横を見ると、スープとパンがあった。そしてきこりの男が、椅子に座っていた。
「おはようございます。ありがとうございました。」
 まだ寝ぼけた頭でそう言った。
「は、起きやがったか。じゃあそこにある飯食っていきな!」
「え…でも…」
 更なる親切にとまどうと、きこりはまたもや声を声をあげる。
「遠慮すんじゃねえ。勿体ねえじゃねえか!」
 その言葉にベットから降り、きこりの顔を見ながら”いただきます”を言ったあと、 もくもくと食べ始めた。
 あんな事があったのに、やっぱりご飯はおいしかった。気が付けば2日ほど何も食べてなかったのだ。
「ガキはそれでいいんだよ!そうだ、そんな装備じゃくたばっちまう。そこの箪笥と隣の部屋の壺にいらねえ防具だの 薬草だのがあるからよ!それでも持っていきやがれ!」
 その言葉にとっさに出た”悪いですよ”の言葉を閉じ込める。言ってもきっと無駄だろうから。
(口は悪いけど…でも、優しい人だ…)
 そう思い、ありがたくいただく事にする。
「ありがとうございます。あの…僕に何かできること、ありませんか?お礼したいんですけど。」
「ガキが生意気言ってんじゃねえ!はん、じゃあな、外に墓があっただろう。あれに祈っていけ。」
 それだけ言うときこりは立ち上がり、隣の部屋に行く。どうやら斧の手入れをするようだ。 ラグはゆっくりと食べ、”ごちそうさま”を言う。そして箪笥に向かった。
 そこには皮の鎧が入っていた。大体自分のサイズのようだ。たしかにきこりには小さすぎるだろう。 それがここにあることに何の疑問も持たず、身につけた。自分を守ってくれるような、 そんな頼もしい気分になった。そして隣の部屋に行き、つぼの中にある道具を、 ありがたく貰う。中には薬草の袋があった。袋の口を縛っている革紐を取った。 そして、金色の鍵を取り出し、穴に紐を通した。そして首につける。
 …これは、自分の戒め。自分のおろかさを忘れたくない。自分は弱いんだという事を。 そして今の胸の痛みを、忘れないように。
 そして斧の手入れをしているきこりに、話し掛けた。
「ありがとうございました…本当に助かりました。」
「こっから南東に向かうと城があるからよ、そこに向かいやがれ。」
 その言葉は相変わらずぶっきらぼうだった。だが何故だかとても暖かかった。

 そうして外に出た。庭の奥に行き、お墓の前に立つ。祈りの体制をとり、祈った。そうして 門の方へ歩いていき、ふりむいて一礼した。お墓と、きこりに向かって。
 そうして南東にむかい歩いた。途中モンスターと遭ったが、鎧のおかげかたいしたダメージは受けなかった。

 そして、ブランカ城の前に着いた。

 
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