星の導くその先へ(予告)






―それは、さまざまな人間が語り継ぐ伝説の内の一つ。―


「きこりの青年と、天空人の女性は恋に落ちたのよ」
 ブランカの王宮で、女性はラグにそう語った。
「まあ、ただの御伽噺だけどね。」

―自分が望まぬ役割を押し付けれらた、ある一人の少年の物語。―


「私たち、いつまでもこうしていられたら、いいわね」
「なに言ってるのさ、シンシア。僕たちはいつだっていっしょじゃないか。」
「ええ、そうよね。…いつまでもいっしょよ、ラグ」

―望まぬ悲劇、―


 頭上から音がする。聞いた事の無い音。だけどわかる。…これは、命が、消え行く音。
(…違う、消えさせられる、音だ)
 だけど動けなくて。
(僕は怖いのか?それとも、みんなの願いを聞き届けてるだけなのか。…それをいい訳にしてるだけなのか? …判らない、判らないよ。)
 ボクハナンデ、ココニイルノ…

―予期せぬ旅立ち。―


「僕はどうしたらいいのか、判らない。だけど」
 その先は声にせず、誓う。
 ―敵を討って来るよ、必ず―

―運命に導かれた、出会い。―


「僕の、これからを占ってもらえますか?」
 目の前の少年は、虚無な笑顔でそう言った。見覚えのある笑顔。…これは…
「?どうか、しましたか?」
 少年は怪訝そうにこちらを見た。
(いけない、仕事、しなくては。私は、占い師なのだから)
 ミネアは水晶玉を見、意識を集中させた。
「貴方の周りに、七つの光が見えます。その光、やがて一つに集まり…」
 それは、まるでデ・ジャヴ。

―独りから始まった冒険は、やがて8人の冒険になる。―

「よろしくね、勇者。ラグって、呼んでもいいかしら?」
 いつもの調子でマーニャは言った。しかし。
「ええ、かまいません、よろしくお願いします。」
 そう言った少年の魂は、既にここにないことに、マーニャは気がついていた。

「私はトルネコ。エンドールで武器屋を営む、商人です。」
 大灯台であった恰幅のいい商人が、改めて自己紹介を始める。
「どうして…」
 ラグは、トルネコを見据えた。
「どうして家族がいるのに!家族から、離れるんだ!どうして旅になんて、出ようとするんだ!」
「私も最初はわかりませんでした。」
 戸惑いながら、トルネコは言葉を返した。
「だけど思うのです。私は家族がいるからこそ、旅に出るのだと。」

 横たわる青年。その顔色は、今まで見た中で、一番悪いように思う。その横で老人は、ラグたちにこう言った。
「こんな青年でも、わしの大切な仲間なんじゃ。どうか、どうか、よろしくお願いします」
 青年の前では決して見せない顔。しかしブライは感じていた。今、目の前にいるのは、希望そのものだということを。

 アリーナは道を急いでいた。即席で作った仲間を、気遣うことなく。
(これ以上、大切な誰かを失うのは嫌。今度こそ、必ず私の手で、助けてみせる)
 自分の無力さを知らない姫君。だが、何よりも、今、力が欲しいと願った。クリフトのための、力を。

 目の前に翠の光が見える。自分はついに、神の身元まできたようだ。
 クリフトが何よりも大切に思っているはずの神の光も、今のクリフトには何の救いにもならなかった。
 今あるのは、後悔の念だけ。自分の主君に対する、申し訳なさが、ただひたすら、クリフトの胸を突く。
(申し訳ありません、アリーナ姫。私は…貴方を…)
 そう言おうとしたとき、聞きなれた声が、クリフトの耳に入ってきた。

 探し物は、二つ。まるで片腕のような友と、死した友が残した、遺言。それが今のライアンの、生きる理由だった。
 もうすぐ逢える。お告げの巫女はそう言った。それが、何よりも嬉しいような気がするし、 何か、寂しいような気もする。
「何だ、お前は」
 捕らえられている最中にもかかわらず、おびえる様子を一向に見せない戦士に、キングレオの兵士は、気分を害したようだった。
 しかし怖くは無い。自分がこの程度に遅れをとるわけでもない。そして何より。
「お前には判るまいよ。」
 ライアンはそういうと、兵士の手を振り切り、剣を携えた。
(もうすぐ来る。光が)

―定められた宿命。―


 ここまで来た。始まりの地。
(貴方は、ここから始まったのよね。)
 マーニャは笑う。愛しいかった人の話を思い出しながら。そしてこれから、逢いにいく。
(今度こそ、殺してあげるから。)

 帰ってきた。
(取り戻す、必ず)
 ここは自分の国だ。父と自分の国だ。汚す事は、許さない!
 アリーナは、見据えた。モンスターに汚されたこの国を、浄化するような聖なる炎の目で。

 思い知らされる、「噂話」を聞くたびに。
「ブランカの山奥の村が、魔族によって滅ぼされたらしい」
 父や、母や、先生やシンシアは…僕が勇者だから、死んだのだと。
(勇者は人を助けるものだろ?なのに、勇者のために、人が死ぬなんて、おかしいよ。)
 だから僕は勇者じゃなくていいんだ、とラグは思う。僕は、ただの復讐者だ。
「必ず、殺す。デスピサロを…」

―生まれる想い。―


「さぞかし、お辛かったでしょう。国王様の椅子に座った、モンスタ―を見て」
「ううん。大丈夫よ、辛くなんてなかったわ」
 海辺の音を聞きながら、アリーナは少し微笑みながらそう言った。
「無理なさっていませんか?」
 クリフトは心配だった。自分を心配させまいと、心をだまして笑うのならば、これほど辛いものは無いだろう。
「クリフトに嘘ついても無駄だって知ってるもの。何時だってクリフトは、私のことを、何もかも見破るんだもの。 隠し事なんて、しないわ。」
 ただ、とアリーナは続ける。表情が変わる。
「戻らない、お父様、みんな。そっちの方が何倍も辛いわ…」
 そういうと、アリーナは立ち上がろうとした。
「姫様!!」

「あんた、お父さんみたい。」
 汗ばんだ体を、心地よく夜の風が撫ぜる。
「お父君は、いい男だったのだろうな?」
 冗談めかした声で、それでもマーニャの髪をそっと撫ぜる。
「そうよ、最高にいい男だったわ。だから…許すわけにはいかなかったのよ」
「私には、判らぬが…お父上なら、きっとこういうであろうよ。『お前は、よくやったよ』」
 そう言って、ライアンは、きつく細い躰を、抱きしめた。
 月が、二人を照らしていた。

 
―消えゆく思い。―

「どうか、ピサロ様を、止めてください…」
 そういってこぼした涙は、まるであの日の星のように紅かった。手を伸ばしたが、手にとる事ができない。そんな事までも、 あの星と、同じ。
(ピサロも、こんな想いで、いつもいたのだろうか)
 ラグはそう思う。倒さなければいけない、けれど…勇者とは、一体なんなんだろう?

 埋める。その行為は神聖で、厳かな気分になるもの。遺体を埋める事はできなかったけれど、 せめてお墓を作りたかった。
 独りきりで、土を掘り、そして、埋める。涙は出なかった。もう、泣いてもいいのに。 周りには、誰もいないのに。
(さよなら、バルザック)
 最後に木をたて、一言心でつぶやいて、立ち去る。振り向かない。 振り向いても、何も変わらないから。
そしてマーニャはルーラを唱えた。

―変わらぬ想い。―


 暗く冷たい廊下。なれた場所も、魔物の巣窟とあっては、まるで異世界のように感じられる。
 次にここに来るときは、きっと元のサントハイムに戻ったときだろう。そう思いながら、やがて一つの絵の前に着く。
 緩やかな栗色の髪を持つ、美しい女性の絵画だ。
「必ず、必ず取り戻しますぞ。元のサントハイムを。貴女の…愛する人を。そして守ります。貴女の忘れがたみを」
 ブライは、その絵の瞳をじっと見つめながら、ゆっくりと言った。

 夢を見た。閉じ込められた、女性の夢を。目がさめたとき、まるでそれは愛しい女性にも見えて。 王族という身分。城という塔。出たいと願う気持ち。ただ、そこの纏うオーラは、まったく違うもの。
(最もアリーナ姫ならば、泣きはしないでしょう、泣いて呼びかける前に自分から、飛び出すでしょうね)
 そう思うと、笑みがこぼれる。そして。
(もしあれがアリーナ姫ならば、私は絶対にピサロを許さないでしょう)
 泣かせておいて、相手の気持ちを考える事もできないような相手に、姫を渡す事はできない。 そしてそう考えたとき、次に出たのは自嘲の笑みだった。
(ただの臣下が渡さないなどと。私は一体、何様のつもりなんでしょうね)
 それが想いの強さだと、この神官は、気づいたのだろうか。

 宿屋でため息をつく。手紙を書きながら。
 ”ネネ、元気かい?ポポロもちゃんと勉強してるかい?”そんな書き出しで始まる手紙。 近況報告や、訪れた町。出来事。そんな事を書き込む。他愛のないことばかり。 だが、大切な事。
 ”辛い思いはしてないかい?私の身勝手を許しておくれ”
 毎回の手紙に添えられる言葉。そして返事に毎回のごとく送られる言葉。
 ”辛いわよ?逢いたいわ。けど、貴方が貴方らしくないのは、もっと嫌なの。愛してるから”
 愛してるよ、ネネ。

 生きているとも思えなかった愛しい人には、既に女性がいた。
 扉をたたこうとすると、女性の声がした。…どうしてこの戸を開けられる?
 あの人の傷の痛みは自分のせい。なら、傷を癒すのは…扉の向こうの人。想いを告げなかった その報いは、世界の隔絶と言う形で、今、あらわれた。たった一枚の木の板。それは、大きな世界を 隔てる壁。ミネアはその場から、離れるしかなかった。
 でも、惜しくは無かった。声が聞けたから。生きていてくれてから。
(あの人は、これから幸せになってくれる。それが判った。)
 ねえ、他に、何がいると言うの?

 世界樹からみあげる空に映るは、いつもただ一人。想いを告げることも、いやその前に、想いに気づく事もできなかった、 生涯ただ一人の、女性。
 世界樹の葉を使っても、生き返らすことはできない。肉体は、すでに跡形も残っていなかったから。この樹を昇りきり、 塔から空へあがれば、やっと敵が討てる。けど…
(ピサロと自分はどこが違う?)
 想い人が苦しめられ、その敵を討とうとしている。お互い、ただそれだけじゃないか。そう想う。 けれど、未だ忘れることのできない、胸の痛み。二度と触れられないからこそ、想いは募るばかりで。
(シンシア…僕はどうしたらいいんだ…)

―それぞれの心の闇。―


(もう少し、早ければ。友を殺す事も無かったのに。私は亡霊。友の、その遺言を果たす為の)

(自分の事しか、考えてなかったの…だから、守りきれなかった…大切なもの)

(生涯秘めたる想い。守るは君主とその姫君。ですから、お許しくだされ。心に眠る、その想いを持ち続ける事を。 お二人の子供と一番側にいることを。)

(神につかえる身の上で、ただ一つだけ、守れぬ事。神が何よりも尊いこと言う事。手に入れたいわけではない。 ただ、許されるまで、側にいたいだけなのです…)

(何より大切なのは、なんなのでしょう…最も大切な家族と離れ、私はいったい、何をせんとしてるのでしょう…)

(罪人になるわ。殺すの、あの人を。今度こそ。なんのため?父の為?…永遠にあたしの物に、するため?)

(私の命はあの人のもの。あの人に守られたもの。だから生きなくては。宿命のために。けれど…あの人なしの幸せって… あるのかしら…)

(僕はなんなのだろう。僕はラグなのか、それとも…勇者なのか。皆や、父や、母や、村の人、そしてシンシアは… 僕をどう思っていたんだろう…そして、僕は…なんのために、生きてるんだろう…)

―そして伝説は、空へ帰依する。―


 誰も言葉を発しなかった。発する言葉が、出てこなかった。
 最初に言葉を発したのは、もっとも神への尊敬の念を抱いていた、あのクリフトだった。
 その表情は硬く、しかし迷いない、曇りの無い目。
 そのクリフトは、今までで一番の存在だと、アリーナは思った。
「もしも、もしも望んでいて、黙っていたのなら、私は貴方を許しません!マスタードラゴン!」

―これは、勇者が世界を救う話ではない。―


「僕はやっぱり許せないんだ。許す事はできないんだ!」
 ラグは剣を構えた。応えるように、ピサロが言う。
「それがお前の答えか。よかろう。私はお前の裁きを受けよう。」
 ピサロはラグの前に、緩やかに立った。

―ひとりの少年が、ひとりの少女を救うための、旅の話なのだ。―





※これは予告です。時間通りに書かれてませんので、順番が入れ替わったり、
会話や変わったり、出てこなかったりする場合があります。ご了承ください。

 というわけで、予告です。ネタばれしてそうですが、楽しいです。おいしい所だけ書けますからね。 というか、おいしい所の直前な事が多いですが。一つ、ものすごい非難轟々のカップリングがあることは否定しません。 いつかその事に関するエピソードも書きますので、気長にお付き合いくださいな。

 追記:これは星の導くその先へが書かれる前に、一度HP上にアップしたものです。が、 ちょっと都合がわるくなってこっちをいじっている事もあります(笑)ご了承ください。


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