星の導くその先へ
〜 星のお告げ 〜




 ミネアが酒場に戻ると、宴は終わり間際だった。幸いな事にマーニャは余り酔っていず、 ゆったりとした踊りを踊っていた。どうやら明日旅に出ることは、しっかり覚えていたようだ。 ミネアはほっとため息をついた。 そうして部屋に戻ってタオルを持って、降りてきた。踊り終わったマーニャに近寄る。
「姉さん、お疲れ様。」
 マーニャの肢体はすでに汗だくだった。もう何曲も踊ったのだろう。それでも足が笑っていないのはさすがと言える。
「あんがと、ミネア。ラグは?」
「部屋に戻ったわ。もう遅いし。」
「話は、出来た?」
「見てたの?姉さん。…言いたい事は言えたと思うわ。ラグの話も少しは聞けたわ。明日からは もう大丈夫よ、心配かけてごめんなさい。」
「その話、聞かせてくれる?」
「もちろんよ、私も姉さんに言いたい事もあるわ。」
 そう二人で話したあと、マーニャはもう一度段に昇った。
「ここでのあたしの踊りはここで終わり。だけどあたしはこれからも踊り続けるわ。もしまた見かけたら、見て頂戴。 もしもあたしの事知らない人がいたら、存分に語って頂戴、あたしの踊りを!」
 みんなの歓声が聞こえる。惜しむ声、褒め言葉、それは様々だったが、とても美しい言葉だった。
「あたしは、あたし達は明日から旅に出るわ。あたし達の旅の祝福を、どうか祈って頂戴!じゃあね!」
 そう言ってマーニャは一礼すると、手を振りながら、階段を上がった。

「あー疲れた。でもやっぱり踊りはいいわねー。しばらくゆっくり踊れないのが残念だわ。」
「ラグも感動していたわ。素晴らしかったって。」
 そう微笑んで言うミネアに、マーニャは冷やかした。
「ふうん、ラグねえ。あんたが呼び捨てで男性を呼ぶなんて珍しいじゃない?とりあえず 仲直りはしたわけね?」
「姉さん!からかわないで。ラグがそう呼んでくれって。ラグは自分が勇者なんてもんじゃない、そんな風に 思ってるのよ。」
「それはあたしも知ってるわ。」
 マーニャはゆっくりベットの上に腰掛けた。ミネアはその横の椅子に座る。
「で、何があったの?ゆっくり聞かせて頂戴。」

 話を一通り聞き終えて、マーニャは納得したようだった。
「なるほどね…だから『僕が勇者だっていうのも、運なんでしょうか?』なのね…。」
「なによ、それ。」
「カジノでね、運の話をしてたのよ。そしたらラグがそう言ったから、あたしは『 そんなもん押し付けられて、不運だったわね。』って言っといたわ。」
「姉さん!勇者は言うなれば神の御使いよ!」
「ミネア、人にはそれぞれ色々あるわ。詳しくは知らないけど、あたし達のあの事が、『導かれし者』 だかになる為に用意されてた、そう誰かに言われたら、いえ、 実際そうかもしれない、あたしはそう思うわ。あんたそれでも自分が『導かれし 者』って事に誇りを持てるの?」
「そうね…そのとおりだわ。判ってはいるのだけれど…」
「あんたの気持ちもわかるわよ。いいわよ、どっちにしてもやる事はひとつなんだから。それはラグだって一緒よ。」
「私たちも、ラグも仇討ち…これも何かの運命でしょうか…そうだ、姉さん。私、ラグのこと占ってみたの。」
「どうだったの?」
「タロットで見たのよ。過去は塔の正位置。意味は突発的な崩壊、死別。多分これが今のラグの、原因よ… 私たちと同じような、いえもっと酷い事が、あったのでしょうね…。」
「妥当なところじゃ、勇者だということで、魔物に両親を殺された、とか?」
「大切な人が、遺した言葉って事は、多分死んだのは、両親とラグが愛していた人なのかもしれませんわ。 おそらく『お前は勇者だ』と言い残して…」
「そんな感じよね。で?次は?」
「皇帝の逆位置。意味は不安定、精神的な弱さ…。まさにこの事だわ。心が本当に弱っているみたい。」
「でも、あたしとあんたで、その突破口はつかめたと、思うわ。」
「そう、信じたいわ…それで、未来なんだけど…占えなかったの。」
「あんたが占えない!なんでまた?」
「おかしな話なの。未来のカードをめくろうとすると、締め切った部屋に風が入り込んで、その風が 私に言葉を伝えてきたわ。」
「言葉?声が聞こえたって事?」
「というより、頭に響き渡った、そんな感じね。」

  双星の一つ、堕ちる時、対となる星、輝き出さん。

      その星、いつか天頂に昇り、まばゆき光を、放ち出す。

     その星光は、陽さえも勝り、天界、地界を照らし出す。

いつかその星、堕ちるまで。 



「なにそれ?予言?」
「予言というより…神託、かしら…?」
「どういう意味なの?」
「判らないわ…けれど、なんだか怖くて…なんだか不吉で…。」
「そう深く考える事、無いわよ。まばゆい光、だの、照らす、だの 結構いいこと言ってるじゃない。」
「でも私、神託の力なんてないわ!だからラグの力かもしれない、そう思ったけれど… ラグはきっと、神を信じてはいないわ。だからもしそれが神託ならば、ラグの力ではないと思うわ。 ラグは、神どころか、死んでしまった愛する人たちでさえ、 信じられないんですもの…せめて、それだけは信じられるようになって欲しいわ…」
「信じることだけが大切だとは思わないけどね。けど、あたし達も信じてもらえるように頑張らないとね。」
「ええ、けれど、なんだったのかしら…」
「それが何かより、どういう意味かも気になるけどね。大体、それ、何のことなの?ラグの事? あたし達の事?それとも世界、とか?」
「もしかしたらなんでもないことなのかもしれないけれど…もしかしたら私達のことかも知れないわね。」
 そう言ったミネアに、マーニャはうなずく。
「そうね、双星ってのは双子のあたし達って可能性が高いわね。」
「だから、もしかしたら、私たち、どちらかが…。そう思ったわ…だから、せめて、死んでしまった人たちを、 信じて欲しい…そうラグに告げたわ…」
 身を震わせながら、ミネア言った。マーニャはそれを聞き、立ち上がる。
「あたしは死なないわ。少なくとも、まだやる事があるからね。ミネア、あんたも死なせない。何に代えても。」
 そう言い放つマーニャは、まさに炎の化身。そして、バルザックに立ち向かった時の、 マーニャと変わらぬ意思と、魂を感じさせた。
「ええ、私も死にたいとは思わないわ。判ってる、私たちが今死んだら、父さんも…オーリンもきっと悲しむから。 けれど…不安であることには変わりないのよ…」
 そう不安がるミネアの頭を、ぽん、とマーニャが叩いた。
「考えてもしょうがないわよ。わけのわからない神託なんて忘れたら?とりあえず寝ましょ。」
「…そうね…。」

 そうして二人は灯りを消した。
 眠りながらもなお、ミネアは思う。自らの進む道は、あの神託の道は「正しい事」を 示しているのだろうか?それは何の事を語っているのだろうか?そして、それを語ったのは、 何者なのだろうか?と。


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