星の導くその先へ
〜聖なる、光〜




 鎧にこだわる三人をなだめ、アネイルを後にした四人は、南へ進んでいた。
「ここから、ずっと南へ行くと、いよいよ港町ですわね!」
「海か…砂漠とどっちが大きいのだろうな…」
「ちゃんと船が出せると良いわね。」
「船なんて、僕はじめて見ます…どんなものなんでしょうね…」

 この頃になると、ラグも実践のコツをかなり覚えてきていて、戦闘でも頼りになる存在になってきていた。 少しずつの成長、それを見守る姉妹も、安心してラグを見ていられるようになっていた。

「あ、見て下さい!海鳥ですわ!きっともうすぐです。」
「本当だ…すごく白い鳥ですね…それになんとなく、空の色が違うような気がします。」
 ラグがミネアの指を先を見ると、そこには緑がかった青を彩る白い鳥。歩いていく内に、鳥の鳴き声が響き渡り、 そして港町、コナンベリ―に着いた。

 港町ならではの潮の匂い、雰囲気。町の先には白いマスト。それはラグが今まで想像もしなかったものたちばかりだった。
 そしてその雰囲気を味わうラグとホフマンに比べ、マーニャとミネアは少し精彩に欠いていた。 少し無理をしてはしゃいでるようでもあったが、その表情には曇りがあったのだ。
「港町というとハバリアを思い出します。失意のまま訪れた、あの町…」
 ぼそ、っとつぶやいたミネアの台詞を、ラグは確かに聞き取っていた。
(ハバリア…マーニャさんとミネアさんの故郷なのだろうか?)
 精彩に欠いた顔が少し心配だったが。何も言わず歩を進めた。 ここは港町だ。人が集まる場所で、人に色々な情報を聞くのは旅の基本だった。

 ミネアがハバリアの門近くでであった老人と話している。ラグは声が聞こえるように寄っていった。
「ええ、確かに、最近世の中物騒ですわね。おじいさまは何かご存知なのですか?ここは港町ですから さぞかし情報が集まると思うのですけれど…」

 思い知らされる、「噂話」を聞くたびに。
「はるかブランカの山奥で魔物たちに滅ぼされた村が、最近見つかったそうじゃ。 海の向こうのサントハイムも忽然と姿を消したらしいし…これは恐怖の帝王が 復活したと言う事なのじゃろうかのう…」
 老人の言葉がラグの頭に響く。
 心が痛かった。なじられている気がした。父や、母や、先生やシンシアは…僕が勇者だから、死んだのだと。
 塞がりかけた胸の傷が、またえぐれる。その奥の傷は、まだまだ新しく、血が滴っているようだった。
(勇者は人を助けるものだろ?なのに、勇者のために、人が死ぬなんて、おかしいよ。)
 自分が勇者じゃない、そう思う一番の理由。
 だから僕は勇者じゃなくていいんだ、とラグは思う。僕は、ただの復讐者だ。
「必ず、殺す。デスピサロを…」

 老人の台詞にマーニャは思うところがあった。
「サントハイムねえ…。誰もいなくなった、か。」
(あいつの、忌まわしい故郷。それが誰もいなくなる…何か関係あるのかしら…)
 忘れる事が出来ない、その思い。それは常に胸の中を燻り、マーニャの原動力となっていた。
「地獄の帝王とバルザックには何か関係があるのでしょうか?」
 ミネアの言葉にマーニャは考える。果たしてあいつは、進化の秘法をどんな風に使ったのだろう? 誰に譲り渡し…そして今、どこにいるのだろう?
(もう、ハバリアにいたときのあたしじゃない。次は、…)
 その先は、いまだマーニャには見えていない。暗い暗い、闇の内。
 そう、昔の自分じゃないのだ。あのときの、自分は…滅びしか、見えてなかった。
  「どうしたの、ラグ?なんか顔色悪いわよ?」
 マーニャがラグを覗き込む。あの時は、自分とあいつしか見えてなかった。だから、失敗した。 今度は見失わない。仲間を。共に、あいつを倒す仲間を。
「…なんでも、なんでもありません。」
 その暗い表情に、あの老人の言葉はラグの何かに触れた事に気がついた。
 いや、マーニャだけではない、ミネアも気がついていた。
 その村が、ラグの故郷なのだろうと言う事に。
 ラグは何もかも、本当に何もかも失ったのだと。親や家族だけでなく、生まれ育ったもの全てを魔物に奪われたのだと、 二人ははじめて知った。

「さて、船の運航状況を聞きましょう。どこまでの便があるのでしょうか?」
 あえてミネアはそう言った。自分は今、言えるだけの事は言ってあるから。 あとはラグ自身で乗り越えていく事だから。自分自身で乗り越えていく以外に、何もできないから。
 マーニャもそれに倣い、ホフマンは事情がわからないまでも、何も聞かなかった。聞かれたくない事、 の存在をホフマンも知っていたからだ。

「船がない?」
 何故だか人気が無く、店が開いていない港の商店街をいぶかしみながら、港の男に船の便を尋ねた。 そのうち、リーダー格の男は暗い顔をして言った。『船はない』と。
「なに言ってるのよ、あそこの立派な船は飾りなわけ?」
 町の入り口からも見えていた船を指差し、マーニャは聞いた。 ミネアはゆっくりと、男に事情を尋ねた。
「海が荒れているんだ。あんたら、ここの先にある灯台は知ってるか?」
「ここから東にいった大きな灯台ですよね。少しだけは。それが出来てからというもの、 この港町は栄え、船は安心して海に出れるようになったとか…」
 ホフマンが言った。旅人が集まる宿屋にいたせいか、ここらへんの事情に一番詳しいのがホフマンだった。
「そうだ、あの灯台はコナンベリーの象徴だった。だが、ついこの間からあの灯台に魔物が住みつき、 灯台の灯りがおかしくなったんだ。それ以来海はあれ、邪悪な光が船を飲み込むようになったんだ。」
「…あたしたち、船に相当嫌われてるのかしらね…」
 マーニャが小声で愚痴った。それを聞いてか、ラグは男にゆっくり尋ねた。
「どうにかして、船を出せないものでしょうか?…あの立派な船なら…」
 そう言って、ミネアはマーニャが指差した、船を目で示しながら聞いた。しかし男は首を振った。
「あの船はな、トルネコさんの船なんだ。知ってるだろう?商人トルネコの名を。」

(エンドールにある銀行の女性の、家族…)
 ラグがトルネコに持っている知識は、通ってきたトンネルと、マーニャ達に教えてもらった銀行で、働く幸せそうな女性の 姿だった。
「知ってます!あのエンドールの武器屋、トルネコさんですよね!ここにいらっしゃるんですか!」
 ホフマンが意気込み、目を輝かせた。しかし男が沈痛な表情で言った。
「そうだ、あのトルネコさんだよ。トルネコさんは、灯台がちょうど荒れ始めた頃にやってきたんだ。そして いつか海が静まった時のために、この船を作ったんだ、そりゃ大金をかけてな。立派な船だろう? 俺達は心躍ったさ。この船が完成すれば、 海に出れるんじゃないか、そんな希望の象徴そのものだったんだ。」
「確かに、凄いですね…なんだか迫力があります…。」
 船を見ることすらはじめてのラグは、つぶやきながらただ、船を見上げるだけだった。マーニャとミネアも同意した。
「そうね、そんじょそこらの船じゃないわね。」
「確かに、これなら世界中旅に出られそうな船ですわね。」
「それで?そのトルネコさんは?」
 ホフマンはトルネコが気になるのだろう、続きを急かした。
「トルネコさんもな、お金持ちなのにちっとも威張った所が無い、いい人だったぜ。優しくて景気が良くて、 よく皆で飲んだもんさ。船を建設する時だって、自分も第一線に出て、設計なんかに携わったんだ。自分で 出来る事は何でも手伝おう、そう思う人だった。かといって門漢外のことに口出しするようなうるさい人じゃない。 ちゃんと自分の領分、って奴を知ってる人だった。なのに!あの人は灯台にいっちまったんだ!」
「灯台ですって!どうしてそんなところに!」
「その灯台って、魔物がいるんじゃないのか?」
「商人さんが、危険ですわ!」
「そんなことして…大丈夫なんでしょうか?どれくらい前なんですか?」
「もう、三日も前さ。帰ってこないんだ…この海がちっとも治まらないのをみて、灯台の魔物が影響してるんじゃ ないかってな、思ったらしい。自分も少しは戦える、だからちょっと様子見だけでもしてくる、そう言って でていっちまったっきり、帰ってこねえんだ!あの人は、ただでさえ、トンネルを通した事で 魔物に狙われてるって言うのに!」
「魔物に…?トンネルって、あのトルネコのトンネルですよね?」
 ラグの疑問に男が答える。
「ああ、あのトンネルを通して、交通の便が良くなった事が、魔物には気に食わなかったらしい。執拗に狙われているんだ!それなのに 一人でいっちまった…無茶はしないから一人でも大丈夫だ、そう言うんだ…」
「危険ですわね…それに灯台の魔物が本当に海を荒らしているとしたら…。」
「相当強い魔物がいるわよね。さすがに商人が一人で勝てるかしらね?」

 姉妹がそう相談していると、周りで聞いていた港の男全員が、ラグたちに話し掛けてきた。
「あんた達、この町の外からきたんだろ?」
「なら、戦えるよな?」
「その剣も、飾りじゃないだろ?ちゃんと使い込んであるし!」
「二人みたいな美人が強いなんて信じられないけど、もしかしたら魔法が使えるんじゃないのか?」
 男たちに取り囲まれて、ラグはあせった。この質問が何を意味しているか…それを良く考えもせず、言われるがままに 答えた。
「は、はい、それなりには戦えると思います…マーニャさんもミネアさんも、立派な魔法使いですよ。」
 チームワークではどんな追随も見せない船の男達が、いっせいに頭を下げた。
「ならお願いだ!トルネコさんを助けてくれないか!」

    


戻る 目次へ トップへ HPトップへ 次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送