星の導くその先へ
〜心、求める。〜





アリーナは道を急いでいた。即席で作った仲間を、気遣うことなく。
(これ以上、大切な誰かを失うのは嫌。今度こそ、必ず私の手で、助けてみせる)
 自分の無力さを知らない姫君。だが、何よりも、今、力が欲しいと願った。クリフトのための、力を。
「姫さん、まってくれ。」
 連れが息絶え絶えになっていた。アリーナは止まる。
「ご、ごめんなさい。しばらく、休みましょうか?」
(いけない、そうやって、クリフトを倒れさせたんじゃないの。)
 そうやって、自分の事しか考えてないから…自分の国は…
「いや、少しだけで大丈夫だ。人命がかかってるしな。」
「姫さんに早々後れを取るようじゃ、いかんしな。」
 そう、口々に言ってくれる。みんなそうだった。父も、ブライも…クリフトも。 自分はそれに、甘えてきたんだ。だからクリフトを倒れさせ、国を魔物に 奪われた。
(亡くしはしない。これ以上、大切なものを。そして取り返してみせるわ。)
 そう思っても、不安が歩み寄ってくる。間に合わなかったらどうしよう、と。
「大丈夫だよ、姫様。連れはきっと助かるさ」
(いけない、お父様はいつも言ったわ。上にたつものは常に余裕を持って見せろと。 不安な顔をしていては、民衆も不安になると。)
 そうしてアリーナは不安さを表情から消した。
(だけど、こんな時、自分の不安を心から消してくれるのは、クリフトだったのに!)
 他の人じゃ、駄目なのだ。他の人じゃ消えないのだ。不安が。…安心できないのだ。
(クリフトが消えたら、「私」も消えちゃう。私を私だと見てくれる、唯一の人なのに…)
「そろそろ行こうか、姫様」
「ええ、行きましょう。」
 そう言ってアリーナは雄雄しく立ち上がる。その顔に不安は無い。
 荒くれの、即席の男達について行かせようというカリスマが、アリーナには確かにあった。

「あーあ、やっぱりそういうことになったか。」
「姉さん、命に関わることですわ。そんな風に言うのは良くないわよ。」
「そんなこと言ったってね、あんたもさ、気がついてたんでしょ?ミネア?」
「…けれどそれはあの方々の人格とは別物ですわ。」
 ソレッタへ向かう道。小声で話すマーニャとミネアの会話を、ラグが聞きつけた。
「何がですか?マーニャさん?」
「ああ、いいのよ、気にしないで。多分、その内わかるわよ。探し人が見つかればね。」
 ここからソレッタへは少しはなれた道のりだ。ただひたすら大陸と岩山の間を、北へ進む。
「しかし女性一人でこんな魔物の中へ行くのは少々無謀なのではないですかな?」
 トルネコの疑問にももっともなのである。ここの魔物は今までの大陸とは一味違い、てごわい魔物が 群れをなしてやってくるような所である。
「よほどあの、クリフトさん、とおっしゃいましたか、その青年が大切なんでしょうね…」
「そうね、使い捨て…とと、そん所そこらの絆じゃなさそうだし、それなりに出来た 方なんでしょうよ、アリーナだっけ。」
 ブライに聞いた名前を思い出しながらマーニャは言う。 とげのある言い方だった。マーニャは色々うるさいが、見たこともない相手を敵視するような 性格ではなかったはずだ。ラグは不思議に思った。
「マーニャさん?どうかされましたか?ブライさんと何か…?」
「ううん、なんでもないわよ。もし気に食わないならあたしがあそこに残って むりやり薬草食べさせてたわよ。でも、アリーナって…どっかで聞いたことあるんだけど…。」
「マーニャさんもそうでしたか?実は私もなんですよ…」
「トルネコさんも?有名な方なんですか?アリーナさんって。ミネアさんは?」
 ミネアは首を振った。
「私は存じませんわ。姉さん?どこで聞いたの?」
 トルネコとマーニャは首をひねる。
「ああ、だめ、思い出せない!見たらわかるかしらね。栗色の髪の…ねえ?だいたいあの手の 人種には知り合いなんていないはずなのよ。」
「私もだめですね。女の子の知り合いなんていないはずなんですが…うちの店で武闘家用の武器は扱って無かったですし。」
 気持ち悪い思いをしながら、道を下り、そして、ソレッタ王国についた。


「な、なにこの国…本当に王国なの!?」
 その国におとずれたとき、マーニャは驚きの声をあげた。他の三人も声こそあげないまでも、ただ驚愕していた。 その国は、王宮はぼろぼろ、町は畑だらけの貧乏農業国だった。
「いやだわ、皆貧乏くさいわ、牛の声なんかがするわ、なんって地味な国なの!」
「姉さん、失礼よ…コーミズだって大して変わらないわよ。」
 のんびりとした雰囲気になじめないマーニャが文句をつける。
「でも良かったです。この国ならアリーナさんを見つけるのも楽そうですから。」
 そうのほほんとラグが言う。マーニャはその言葉に立ち直った。
「そうね、とっとと見つけてとっとと帰りましょ。」
「では、手分けして探しましょうか。特効薬とアリーナさんを。」

 そうして国…というか村を手分けした。
「どうしましょう…どうやら、特効薬はもう無いらしいですわ。」
 ミネアがあせって言う。それをラグが制した。
「どうやら特効薬…パテギアというらしいんですが、もう取れなくなってしまったらしいですね。 ただ…どうやら先祖が南の洞窟に種を保管したらしいんですが、魔物が出て、取りにいけなくなったらしいです。」
「まあ、そんな話は聞きませんでしたわ…確かですの?」
 ミネアがそう返すと、ラグは苦しそうに言った。
「多分、確かだと思います…王様に聞きましたから。」
「あら?王宮には大臣しかいなかったわよ、ラグ。」
 マーニャが不思議そうに首をかしげると、ラグは汗をたらり、と流して言った。
「野良仕事…してましたから…でも王冠してましたし、本人も名乗ってましたから多分…」
 そう言いながら、ラグもどうやら信じきれないようだ。
「私はアリーナさんの噂を聞きましたな。どうやら・・・その少女はここに訪れ、パテギアが 無いと知ると、たまたま来ていた冒険者を誘って、パテギアの種を取りに言ったそうなんですが…」
 トルネコもまた、苦しそうに言う。マーニャがさもありなん、と続ける。
「あたしも聞いたわ。どういう子なのよ、それ。大の大人の男を蹴散らして、そのうち一人に 動けない怪我をさせた上に仲間にしたんですって。」
「なんですって!どういうことなのよ、姉さん。」
「だから、一人じゃさすがにやばいと思ったんじゃない?だからたまたま来てた男四人の冒険者を 仲間にしようと思ったら、『それなら俺達を倒してみろ』って言われて、あっさり倒したらしいわよ。 んで、洞窟に行ったと。…何よミネア、その目は。あたしだって疑ったけど、その冒険者の怪我した一人が 言ったのよ!?」
「ミネアさん、お疑いはもっともですが、私も聞きました。」
 トルネコがマーニャのフォローをした。ラグはうなずく
「ここまで一人で来られるんですから、相当なものですよ。」
「でもどうする?無駄足だったわよ?」
 疲れた表情で言うマーニャにミネアがにっこり笑って言う。
「あら、姉さん、人命救助は無駄足が基本ですわ。」
「僕も賛成です。役に立てないのはかまわないですが、できるところまでやってみたいです。 それにアリーナさんがこの先も無事かどうかはわかりませんし。」
「良いですよ。私もパテギアに興味があります。」
 三人はそう言って和気あいあいとしだした。そうしながら、目はマーニャのほうを向いている。 ラグとトルネコは意見を求める目。そしてミネアは…とても嬉しそうに、そして 意地の悪い目のようにマーニャには見えた。
「あー、判ったわよ、行けばいいんでしょ!まったくマーニャちゃんてば、本当にいい女よね!」

 


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