「本当に、ラグさん、マーニャさん、ミネアさん、トルネコさん、ご迷惑をおかけしまして申し訳ありませんでした。」 クリフトの体が完全に復活し、食卓のテーブルに姿をあらわしたのは、パテギアの根を飲ませてから三日目の事だった。 「まったくなさけない奴じゃ。もっと体を鍛えるようにな!」 つっけんどんに言うブライの言葉をクリフトは殊勝に聞いていた。 「はい、この先、けっして姫を悲しませるようなことをしないと、誓います。…姫様。」 クリフトはそう言って、アリーナをみつめる。 「けれどあなた方はどうして旅をしてらっしゃるのですか?」 ミネアが聞いた。それはミネアならずとも気になっていた所だった。 そしてミネアは何があっても聞かなくてはならない理由があった。 「…」 三人は沈黙を守る。どこからどう切り出せばいいか、判らなかったのだ。 「しっかしさあ。」 少し重い沈黙に耐えかねたか、マーニャが乱暴に頭を掻きながら聞いた。 「なんでまた、アリーナはそんなに強いわけ?どういうお家なのよ、あんたんちは」 お家。その言葉の響きに、アリーナたち三人はドキッとした。 「いいお家なんでしょ?あんたたち。だから最初、ブライの頼みを聞いたとき、 金持ちの身勝手な道楽やおしつけかと思ったわよ、あたしは。アリーナさんが 出て行ったってきいたときもね。だけどブライはあたし達に頭を下げた。 ただの平民にね。だからあたしは頼みを聞いたのよ。いいお家の人間なんて 大っ嫌いだけどね。」 (だから、マーニャさんは妙に機嫌が悪かったのか…アリーナさんを見て、 びっくりしてたのもそうなのか…) ラグは納得した。自分はさっぱり気がつかなかったが、一体どこで聞いたのだろう? 「…ブライ、マーニャさんたちに何を言ったのよ」 アリーナはじと目でブライをみつめる。 「…どこで気が付かれましたかな?」 ブライは尋ねた。 「だって、ブライみたいな爺さんが、16歳の女に敬語使う理由なんて一つでしょ?普通。」 「アリーナさんを呼ばれる時も『あのお方』と行ってらっしゃいましたしなあ。」 「それにブライさんにも威厳を感じましたから。けれどアリーナさんを見たときには驚きましたわ。」 どうやら気が付いてなかったのは自分だけのようである。ラグは少し恥ずかしくなった。 「どうやら貴方達も只者ではないようですね。こうなっては仕方がないでしょう、ブライ様」 クリフトは微笑みながら言った。ブライはしぶしぶうなずく。そして目でアリーナをうながした。 「私は、サントハイムの王女、アリーナ。この二人は王宮に仕える私の教育係…みたいなものかしら?」 ラグたち4人に驚きの声がする。その中でもマーニャの表情はこわばっていた。 「サント…ハイム…」 上ずる声でマーニャはつぶやく。その声は誰の耳にも届かなかった。 「ああ、道理で聞いたことがあると思いましたよ。武闘大会で優勝された方ですね。」 トルネコは納得しているようだ。 「それで、お姫様がどうして旅をしてらっしゃるんですか?」 「あ、ラグさん、やめて。名前で呼んで頂戴。」 アリーナは急いでラグを制した。 (なんだか、僕みたいだな…) そう思うとなんだか可笑しかった。 「じゃあ、僕のこともラグって呼んで下さいね。…それでどうして旅に?」 「実は…わしらの国が…わしらの国から誰一人、いなくなってしまったんじゃ…」 搾り出すように言うブライの言葉。他の二人も暗い顔をしている。 「どういう…事ですの?」 アリーナはゆっくり語りだした。 腕試しの為に二人を連れて旅をしたこと。色々あって、父に許してもらえたこと。父が見た夢。 エンドールの武闘大会に出、優勝した事。そして、エンドールの城の前でサントハイムの兵士が息も絶え絶えに死んでいったこと。 「戻った時には人っ子一人いなかったわ…だから旅に出たのお父様を…皆を探す為に。」 「なるほど…だから三人、旅をしていらっしゃるわけですな…。」 「いいお家の方だとは思っていましたが…まさか王家の方だったなんて…しかも…お辛い経験をなさったのですね…。」 マーニャはショックが薄れたのだろう、いつもの表情をして、アリーナたちに尋ねた。 「…でさ、それは分かったんだけど、なんでお姫様が武道の達人なわけ?そういう家訓でもあるの? というかサントハイムって確か、魔法王国じゃなかった?そのお姫様がなんで?」 それに対し、アリーナは即座に答えた。 「趣味よ。」 「「「「へ?」」」」 四人の声がだぶる。しかしアリーナは真顔だ。そしてブライとクリフトは少し困った顔をしている。 …どうやら冗談ではなさそうだ。 「だから、ただの私の趣味。」 「ええ、アリーナ様は幼い頃から武道を趣味とされ、…幸運な事に才能も終わりでしたので…その…」 「このようになってしまわれたわけじゃ…」 最後はブライが重々しくしめた。一同は納得するしかなかった。 「それで、何かあてはおありになるんですか?」 ラグは三人に尋ねる。アリーナは自信なさげにうなずいた。 「確証ではないんだけどね、怪しい人がいるの。」 「怪しい人…?」 ミネアが首をかしげる。一同はアリーナの言葉に注意を払った。 「ええ、私どももまったく情報がないのですが、姫様が一つ怪しい、とおっしゃるものですから とりあえずその人の消息を探しているのです。」 「その人はね、武闘大会で空前絶後、そして残酷な強さを見せ付けながら、私との対戦の前に消えたのよ。」 「姫のおっしゃるとおり、そのタイミングは、わが国が攻撃されたと思われる時間帯にかぶっておりました。」 「他に何もありませんからのう・・・まあ違ったらその時、その旅をしている間に別の情報を手にするかもしれませんでの。」 四人は身を乗り出す。そして、ラグが聞いた。…その事が衝撃をもたらすとは知らずに。 「その人は、なんて名前なんですか?」 アリーナは答える。その薔薇色の唇で。 「デスピサロよ。」 ラグは勢い良く立ち上がる。顔色は白い。そして表情は、怒りとも悲しみとも取れた。 「ラグ、どうされたのですか?」 ミネアが問う。他の皆も不思議そうに見ている。 「デス…ピサロ…だって!」 その声は冴え冴えと響きわたった。 「知って…らっしゃるのですか?」 「知ってるなら教えて頂戴、ラグ!」 クリフトとアリーナの声は、おそらく聞こえていないのだろう。ラグはつぶやくように言った。 「僕の…村の…仇…」 (忘れた事なんてなかった。憎い、憎い、自分から全てを奪った者の名。…こんな所で その名を聞くなんて…) ラグはよろけるように椅子に座った。 三人は覚えていた。一度だけラグの口から聞いた名。トルネコに告げた名だ。 気になっていたが、とてもラグには聞けなかった。 (これが…運命なのですか…?全てを決めた方よ…) ミネアは言葉がでなかった。それでも喘ぐように言った。言わなくてはならない事を。 「…私達の話をしなくてはなりませんわね。皆様は、勇者の伝説をご存知でしょうか?」 「それは地獄の帝王を倒して、世界を救うといわれている伝説の方ですよね?」 唐突なミネアの問いに面食らいながらもクリフトは律儀に答える。 「ええ、その伝説が本当かは知りませんが、私は以前とあるお告げ所に言われたのです。 一つの光は伝説の勇者。その周りに七つの光が包み込み、やがてそれが大きな光になると。 その七つの光は導かれし者。私や姉さん、トルネコさんはその一人です。… そして勇者だと位置付けられているのはラグですわ。」 今度は三人に衝撃が走った。 「ラグ、貴方が勇者様なの…?」 「勇者様…神が使わされた…御使い…」 アリーナとクリフトの声がラグの胸に刺さった。 「ではそなたらは地獄の帝王を倒す為に旅をしておられるのかの?」 「違うわ。そんなもののためじゃないわ。」 ブライの問いに刺すような視線を向けるマーニャ。 「あたし達はあたし達の目的の為に旅をしているの。その結果地獄の帝王とやらに行き当たるかもしれないけどね、 それは知ったこっちゃないわ。」 「貴方がたも大変なのですね。そんな大変な旅を 私達のせいで遅らせてしまったのですね。本当にありがとうごさいます。」 クリフトが申し訳なさそうに礼を言う。それを制するようにミネアは言った。 「そして、私の占いによると、貴方達も七人の導かれし者のうちの三人なのです。」 「そうなんですか!?ミネアさん!」 真っ先に叫んだのはラグだった。デスピサロ。それを追う、別の人たち。 (運命って…こういうことなのか?) まるで、最初から全て決められていたかのように。今、アリーナたち3人に、好意をもっている、 その事すらも、運命。 (僕が勇者だと言う事も、やはり逃れられないのか、捨てられはしないのか?) 「ふうん、そうなんだ。」 「私たちも…神に選ばれし…導かれし者…」 「わしらが、勇者殿と旅をする、そう言う運命…」 「あの…」 アリーナたちにみつめられ、ラグは居心地が悪そうに言った。 「僕は…導かれし者だからとか、そんなことで一緒に旅をしようと言うつもりはありません。 だけど、僕達は同じ目的のようですから、もし、良かったら、一緒に旅をしたいと僕は思います。」 「貴方達のような方々がいらっしゃれば、私も安心して宝を探す事が出来ますな。」 その言葉にトルネコがうなずきながら、言った。マーニャもそれにうながされるように誘い掛ける。 「まあ、あんたたち、強いしね。鼻持ちならない奴らでもないみたいだし。あんたらがあたし達と 旅がしたいって思ってくれるんなら、いいんじゃない?」 「…どうでしょうか?アリーナさん、クリフトさん、ブライさん?」 最後にミネアが問い掛ける。クリフトとブライは、アリーナに問いかけようと目を向け…そして 呆れながら、笑いながらため息を付いた。 「私たちでよかったら仲間に入れてくれるかしら?」 「喜んでお供させていただきます。」 「老体には旅は辛いからのう、楽させて戴こうかの」 そう笑いあった瞬間、三人は仲間になった。見えない絆でつながれた。 今は…見えない未来まで。 |
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