星の導くその先へ
〜 故郷と夢 〜




 スタンシアラからバドランドへはそれほど遠くなかった。スタンシアラから船へまっすぐ東、大きな 大陸の中央に塔がある。その一角が武を重んじ、志を求める国家、バドランドが治めるバドランド地方だった。
 バドランド王都。それは武人の国ながら、バランスの取れた落ち着いた雰囲気の持つ街だった。
(…空の色が…どこか懐かしい…)
 ラグは空を見上げ、ふっと心和ませた。
(シンシア…僕達、いつまでもこの空の色を、眺めていたかったね…)
 鍵をそっと握った。まぶたの裏に今も鮮やかに、さみしげなシンシアの笑顔が甦った。風がラグの周りをやさしく 纏った。
「ラグ殿、これがわが国バドランドだ。まず、王様に挨拶に伺おう。」
「そうですね。行きましょうか。」
 ラグは我に帰り、ライアンに続いて歩き出した。
「花が多くていい町ですわね。」
「うむ、武器屋もなかなかの盛況ですな。」
 街を見渡しながら、ミネアとトルネコは二人でなにやら話している。
「武人の町…強い兵士はいるかしら…手合わせしてくれるかしら…」
「アリーナ様!…サントハイムの王女として相応しい行動を取ってくだされ!」
「じゃあ、私がサントハイムの王女だとわからなければいいんでしょ?」
「そのような問題ではありませぬ!」
「そ、そうですとも!姫様の御身に何かありましたら、このクリフト…」
 いつもながらのサントハイム勢を見ながら、ライアンは笑ってなだめた。
「なかなか面白い話だとは思うのだが、こちらの兵士が他国の姫君を傷つけては色々と問題もあろうし、 姫君に勝たれてはこちらの兵士が自信喪失してしまうのでな、申し訳ないができればご遠慮して欲しいぞ、 アリーナ殿。ご不満ならば今度私と手合わせ願おう。」
「むー、仕方ないわね。約束よ!ライアンさん!」
「姫様…」
 クリフトの心配げな声と共に。一行はバドランド城に入った。

「ライアン様!お帰りになったのですか!」
「お帰りなさい!ライアンさん、ご無事で何よりです!」
 そこに待ち受けていたのは、兵士達の歓迎の声だった。ライアンは和んだ顔で挨拶を交わす。
「いや、ここへは所用で寄っただけだ。皆変わりないか?」
「はい、この国も兵にも変わりありません!最近魔物が手ごわくなってはいますが、何とか撃退しております!」
「そう言えばライアン様、先日第三部隊の…。」
 その言葉にライアンは苦笑しながら制した。
「ああ、言わずともよい。王が処理してくださったのであろう?王に用がある。ただいま王はどうされておる?」
「は、本日の王の予定は軒並み終了しているはずです!詳しいことは私ではわかりませんので、ただいま 尋ねてまいります!ライアン様、お呼びしますのでしばしお待ちくださいませ!」
 兵士は敬礼すると、王の間のほうへ歩いていった。それを見守ると、ライアンは歩き出した。 マーニャが茶化すように言う。
「へえ、人望あるのね、ライアン」
「でなければ、王の直属の戦士なぞ、できぬよ。それにおぬしほどではない。」
「でもいいんですか?ライアンさん。歩き回ったりして。」
「この城の中ならばかまわぬだろう。あやつらもなかなか頭が回るのでな。」
「あら、じゃあ色々見せてもらってもいいかしら?」
「ああ、アリーナ殿。…できれば兵士に戦いを挑むのは遠慮して欲しいが。王の準備が整えばお呼びしよう。 私は案内も出来ぬのでな。それまで適当に見てくださるとありがたい。」
「そう?じゃあ見てみようっと。強そうな人、たくさんいそうで嬉しいわ♪」
「ひ、姫様…」
 飛び出したアリーナに続き、クリフトが歩き出す。トルネコとミネアとブライは、すぐ近くにある書庫に入っていった。 マーニャはぶらぶらと歩き出していった。ラグは、どうすればいいかわからず、ライアンについていく事にした。

 しばらく廊下を歩いた後…ライアンが真剣な表情でラグに話し掛けた。
「ラグ殿。」
「はい?」
 いつのまにやら戻ってしまった王宮の口調で、ライアンは述べた。
「…ラグ殿が嫌っておるのは判っておるが…できればそなたを我が見出した『勇者』として、王に紹介したいのだ。」
「…ライアンさん、僕は…」
「おぬしが本当の、神に定められた世界を救う勇者がどうか、それは我にはわからぬ。だが、我は勇者を探すと言い、この国を出た。 …その成果を王に報告したいのだ。少なくとも我は、ラグ殿を勇者と思っている。…そう告げてもかまわぬだろうか?」
 勇者。人々に希望を与える者。…破滅をもたらした自分がそう名乗る…それは許されないと思う。だけど。
 ラグは一瞬顔をゆがめ、それでもその顔をほぐすように笑った。
「ライアンさんが、そうおっしゃるなら。」
(僕は勇者じゃない。そう思っていればいいんだ。僕は勇者なんかじゃないこと、僕自身が忘れなければいいんだ、きっと。 そんな立派なんかじゃないけど、立派になりたいと思う事は、きっと間違ってないんだから。…そうだよね、シンシア…)
 鍵は相変わらず冷たかった。その冷たさを暖めるように、鍵をずっと握っていた。
「…すまぬ…」
 そう詫びるライアンに、声をかけた者がいた。それは美しい貴婦人だった。
「ライアン様…お戻りになられましたのね…」
 すこし涙ぐんだ声。そっとやわらかく、ライアンの腕をつかむ。
「突然…突然いなくなってしまわれるなんて…わたくし、心配しておりましたのよ…」
 ライアンは困惑している。周りを見渡し、ほっとしていた。
「わたくしとは、もう終わった事だとわかってはおりますわ…いえ、始まってもいなかったのだと、 わたくしの願いに、貴方が答えてくださった、それだけだと。…けれど何も言わずに突然行ってしまうなんて… わたくしは、まだ、貴方のことを想っておりますのよ…」
 ライアンは、そっと手をのけた。そして言葉少なく語る。
「ここへは戻ったわけではない。我はまた旅立つ。…それに戻ったとしても、もうおぬしに答えられないだろう。すまない。」
 そう言うと、ライアンは歩き出した。貴婦人が部屋に駆け込むのをラグは見た。
 ライアンは、そのままその部屋を通り過ぎ…少し行った所で、マーニャに出くわした。マーニャは意味ありげに言う。
「ふうん。」
「あ、あれは!」
 ライアンのあせった声。…しかし不幸なことに、兵士の声がその声を遮った。
「ライアン様、王が謁見の許可を出されました!どうぞ、謁見の間へ!」




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