星の導くその先へ
〜 The private eyes 〜




「では貴方はあくまでも認めないとおっしゃるのですね」
 ここはガーデンブルグの謁見の間。裁判官のごとく告げる女王の声は厳しさと威厳に満ちていた。
「わたくしは断罪したいわけではありません。ただちに持ち主にブロンズのロザリオを返却し、この国を出てゆくのならば 罪には問いません。それでもですか?」
「僕はさっき言った通り、ただ髪の長いローブ姿の男の人に頼まれて箪笥を開けただけです。なにも盗んでなんていません」
 ラグはまっすぐ女王の目をみた。
「どうしてもというのなら、身体検査でも何でもしてください。僕は甘んじて受けます。…たしかに 勝手に部屋に入ってしまったことは謝ります。その人が部屋の持ち主だと信じてしまったのです。」
 女王はため息をついた。
「それをわたくしに、いえガーデンブルグの国民に信じろとおっしゃるのですか? やっていないという証拠もなしに、到底信じられる ものではありませんわ。報告ではこうなっております。部屋の近くの者を呪文で眠らせ盗みに及んだ、と。」
「違いますわ!それは私です!ラグではありませんわ!」
(なにやってるのよ、ミネア…)
 珍しく、非常に珍しく姉が妹の行いで頭を抱えた。
「それでも同じ事です。貴方達全員に疑いがかかるだけです。…貴方達は城に混乱を 起こし、手薄になったところで近くのものを眠らせ、ロザリオを盗んだ。…違いますか?」

 プチ
 血管の切れる音が仲間の女性の方から響いたような気がした。
「混乱を起こしたですって!それはあんた達が勝手に群がってきたんでしょ!」
 先陣をきったマーニャに続き、アリーナが一歩前へ出て、王女らしく挨拶をした。
「女王様。私はサントハイムの王女アリーナ。お会いできた事、光栄に思っておりますわ。」
 物腰は王女にふさわしくしとやかだった。だがその言葉に込めた気迫は、しとやかなどと表現できないほどの 迫力に満ちていた。
  「私たちとて迷惑したのです。私の仲間がそちらの国民の混乱の源となったことを。にもかかわらず それを犯罪の手段に結び付けるなど。本来ならば旅人を迎える礼儀を怠ったとして詫びを入れるのが 国の中心としての礼儀ではありませんか?」
「わたくしたちは貴方達を招き入れた訳ではありませんわ。わたくし達は平和に暮らしたいだけです」
 その言葉にアリーナは鋭い目を向ける。
「いいえ、女王様。それでは国として成り立ちません。人と人との係わり合いが国家を作っていくのです。」
「それに平和もですわ。」
 アリーナの言葉にミネアが同調した。
「お信じにならないかもしれませんが、私たちは自らの目標の為、そして世界の平和を目指し旅をするよう 定められた者ですわ。… もし今ここで私たちを拒めば、そしてその宿命が正しければ、この世界に平和は訪れない事になるます。 他人を断ち切ることは平和へ繋がることではないはずです。 眠りの呪文は私がラグを…その群がってきた女性たちから守る為にしたことです。…ラグに罪はありませんわ。」
 女王はただ、その言葉に耳を傾けていた。クリフトがアリーナをかばうように前に出る。
「女王様。ただ疑い、外の目をそむける、そんなことをしていては神のご加護は得られません。 私は神官として神に誓いましょう。私の仲間は盗みなどやってはいない、と。」
 クリフトの言葉にトルネコは深くうなずく。
「私も誓いましょうか。商人トルネコの名にかけて。信頼第一の商売をやってきた、その誇りにかけて」
「わしらがやっていないという証拠もなければやったという証拠もありますまい。身体検査でも 何ぞでもやるのは良いが、それでも見つからなかった時はどうなさるおつもりじゃ? ただ責めるというのならばそれは断罪でもなんでもなく、ただの決め付けじゃ。」
 ブライが知識人らしく深々と女王に告げた。
「罪は償うべきだと僕は思います。ですが、罪ではない事を罪だと認めるわけにはいきません。…ぼくは そのことも罪だと思いますから。」
 ラグはその目で女王をじっとみつめた。
「…おさがりなさい。」
 少しの沈黙ののち、自らの側近達に女王はこう告げた。
「で、でも女王様!」
「この者たちにふさわしい采配はわたくしがおこないます。おさがりなさい。」
「なにかありましたら、お呼びくださいませ。」
 深く頭を下げ、国の者が出て行く。そして謁見の間には女王とラグ達のみとなった。

「…正直判りません。ラグといいましたね。貴方の目が盗人の目だとはとても思えません。ですが ただそれだけで罪ではないと言えるわけもありません。それは国民が認めないでしょう。貴方達を 許すためには何か証拠が必要です。」
「では、私たちが犯人を捕まえるわ!」
 アリーナは元の口調に戻り、そう女王に訴えた。
「ですがそれではもしも貴方達が犯人であった場合、そう言って逃げてしまうかもしれません。」
「ならばわしが人質なろう。」
「ブライ?!」
 アリーナがブライをみる。ブライは平然とした表情をしていた。
「わかりました。どなたかお一人、こちらで預からせていただきます。人選はそちらに任せましょう。 決めた後、地下牢にきて下さい。犯人を捕らえられる事をお祈りいたします。」
 女王はそれだけ言うと、自らの部屋へ帰っていった。

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