星の導くその先へ
〜 邂逅するもの 〜




「私、そっちに行きたいわ!…海の中の洞窟…いかにも敵が出そうよねー?ああ、炎の爪の威力を試してみたいわ!」
 アリーナが元気よく手をあげる。
「そうですな、ロザリーヒルになにがあるのか、はっきりとはわからないですからな。」
「でもトルネコさん、なんか聞き覚えがあるような気がするのですけれど…」
「ロザリーヒル…ロザリーヒル…なにかひっかかりものがあるのお…」
「ブライもなの?あたしもよ…なんだっけ?こう、妙にひっかかるんだけど…」
 皆がぶつぶつとつぶやいている。ライアンとラグだけが不思議そうに首をかしげる。
「なにかあっただろうか?私には別に何も感じぬのだが…」
「私もどこか頭の隅に引っかかってるものを感じます。ラグさん、どうしましょうか?」
 クリフトが言うと、皆がラグの方を向いた。いまや疑う事なく、ラグはこのメンバーのリーダーだった。 知識も経験も少ない、年若い少年。それでも頼りたくなる何かがある事を皆が認め、慕っていた。 ラグは地図をばさりと広げた。
「そうですね、とりあえずクリフトさんがおっしゃってた洞窟に行きましょうか。そこからこう、東に向かって回れば ロザリーヒルにつけるんじゃないでしょうか?」
 押さえつけるのでも、引っ張るのでもない、「まとめる」能力。ラグがもっとも秀でていたのは この素質であった。
「そうね、じゃ行きましょう!炎の爪の威力を見せてあげるわ!」


 半島の外壁にぽっかり開けた口。中に広がるは海の洞窟。中央にはなぜか部屋のように壁に囲まれた空間があった。
「これはやはり船で入るんじゃろうか…」
「そうですね、トルネコさん、このまま進めますか?」
「大丈夫です、幅も余裕がありますから。」
 そろりそろりとするんで行く船。岩の間を船ですり抜け、わずかにある陸地を歩く。 その洞窟中も海水と海の魔物に溢れていた。そして
「不思議な光を感じます。」
 敵をなぎ倒しながら進む一行にミネアが告げた。
「ほんと?やっぱりお宝?高いのかしら…コイン何個買えるかしらね」
 ミネアは舵を取るトルネコに厳かに告げた。
「部屋をよけて北へ―――。ここの地下に私たちを永き時待ち続けたものが、眠っています。」

 少し入り組んだ入り江。それを越えた先の階段を下りて待っていたもの。
「天空の鎧…」
 ラグはつぶやく。そして一歩近づくと、鎧から白い光がもれた。
「アネイルにあった鎧より、もっともっと美しいですわね…」
「これを見た後なら、はっきり言えるわね、あれは偽物だって。」
「ラグ、装備してきたら?私の炎の爪に私が惹かれたように、ラグもこの鎧に本当は惹かれてるんじゃないの?」
「…わかりません。けど、この盾もこの兜もなんだか喜んでるみたいです。」
 そういってラグは天空の鎧の元へ、一歩一歩近づく。
 天空の装備を付けること。それは自分が勇者だと認めること。
(罪は償わなければいけない…その償いが僕が勇者になることなんだろうか…)
 世界を救う。それは今の自分にも途方のないことで。ただ自分は仇をデスピサロを倒したいだけで。 だが…多分、デスピサロが世界を貶める魔物なのだ。バルザックを操り、サントハイムを無人にし…
(なら仇を討つことで、僕は勇者になるのだろうか?)
 吟遊詩人が語る伝説。自分はあれには当てはまらないのに。シンシアの言葉の意味も、いまだ見出せないままなのに。 勇者になるよりも、ただ、許せないだけなのに。
 ラグは鎧を手に取る。そして。
(リバストさん…かまいませんか…?)
 自分に託す、そう告げてくれた勇者を思いながら、ラグは鎧を装備した。
「ラグさん…よく似合いますよ。」
 トルネコが保障するように言う。その鎧はラグの体にぴたっと張り付くようだった。
(もし、デスピサロを倒した時、僕は勇者になるのだろうか…そう思えるのだろうか… それとも、僕はいつか、『世界を救うために』だけにデスピサロを倒そうと思える日が来るのだろうか…)


「うーん、宝はあって嬉しいけど、あたしやっぱり洞窟って嫌いよ。うん、これはカジノででも一息 つかなきゃね!」
「姉さん、そんなことばっかり言って!だいたい賭け事はね、負けるように出来てるのよ!じゃないと 主催者が生活できないでしょ?」
「そうですな、やはり利潤があってこその商売ですからな。もっともある程度客側にも儲けがなければ 客は入らない。なかなかバランスが大切な商売ですよ。」
「…トルネコさん。余計な事はおっしゃらないで下さい。」
 すこし押し殺したミネアの声にトルネコが口をふさぐ。
「まあまあ、ミネア殿。とりあえずこれからなんじゃ、そのロザリー…ヒルとやらに行くのじゃから大丈夫じゃよ。」
「それはそうですけれど…」
「ロザリー…」
 ラグはつぶやく。そして顔をあげた。
「ロザリー…デスピサロの、恋人の名前です!違いましたか?」
 見ていない自分が気がつくというのもおかしな話だった。今、デスピサロのことを 考えていたからだろうか。
「そうよ!イムルの村で見た夢よ!間違いないわ!私も見たもの!」
「偶然なんでしょうか?ロザリーと、ロザリーヒル…」
「いずれにせよ、訪れなければならぬだろうな…なんらかのヒントがあるやも知れぬ。」
 ライアンの言葉を合図に皆が黙々と航海の準備を始めた。ロザリーヒルへ。奇妙な 予感を載せて。

 海を越え、川を抜ける。その間、一行は今までになく無言だった。
 デスピサロの恋人。そう、世界を危機に陥れ、様々な人々を不幸にした かの魔物には「愛する心」があるのだ。
 許す事はできない、許すわけではない。だが。

 そして川を上った奥、少し小高い丘に高い塔。それがロザリーヒルの目印だった。
「間違いありません、ラグさん。夢で見た村です。」
「ここが…」
 どことなくではあるが…ラグの住んでいた町に雰囲気が似ていた。
 少し閉鎖された空間、強い仲間意識。朴訥な村。…そして守るべき人。
(僕が皆に守られていたように、ロザリーさんも皆に守られているんだろうか…)
 なつかしさが、哀しかった。ただずっと周りを見ていた。


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