星の導くその先へ
〜 魔神伝説 〜




「ねえ、実は世界って水の中に村を作るのが普通なの?クリフト?」
「…うぬぬ、スタンシアラといい、この町といい、このような様相では敵に攻められた時、どのように 対応するのだろう…」
 そこは河の中にある村。そう言っても過言ではなかった。河をはさんで左右に人の集落があり、 河の流れと共に人ははぐくまれていた。
「人々は水によって育てられています。ですから、水の側に人は集まるのですよ、姫様。もっともこのように 大きな河の左右で村ができるのは少々珍しい例ですが。」
「そうじゃ、サントハイムとて海の近くにあるじゃろう?しかしここのように橋をかけるでなく船を 使うと言うのは、かつてここの河がよく氾濫していた証拠じゃろうかのう…」
 クリフトとブライの言葉にアリーナがうなずく。マーニャがいつものごとく水をさした。
「どーでもいいけどここの人、雨降ったらどうするのかしらね?」
「しかし船の技巧は発達しているようですな。ふむ、見たところ武器もなかなかいいものを扱っているようですな。」
「しかしここのどこに、魔物たちが集う場所があるのでしょう?村の方がご存知でしょうか?いつもどおり お話を聞きに行きましょうか?ラグ?」
「え、ええ…そうですね、そうしましょう」
 急に名前を呼ばれたラグは、とっさにそう言っていった。
 珍しい事だった。いつもは珍しい何かを見れば、それを真っ先に質問してくるラグが、 あの墓のあと、ずっと心ここにあらぬ様子であることに、皆は気がついていた。 ここまで来る途中、ただアリーナの母の伝言を言ったきりほぼずっと無言だった。

 零れる紅い涙。流れる星。つかめなかったもの。
 消えた村。滅ぼした者。魂のやすらぎすら得られなかった大切な人。
 早く倒さなければ。…倒してしまえばロザリーは泣くだろう。
 自分が仇を討たなければ、村の皆は救われないのだ。
 憎い…憎めない…苦しい…
 憎しみと揺らぎの狭間。ラグはただ、その世界を漂っていた。

「じゃあ、皆でバラバラになって色々聞いて見ましょう」
 アリーナの言葉で皆が散り散りになる。皆は何も言わなかった。アリーナたちから事情を聞き、 なんとなく、ラグの様子を理解していたからだ。そしてそのラグの様子を見て、皆が一つの決意を固めていた 事は、まだラグが知る由もないことだった。


「少し面白い話を聞きましたよ」
 小一時間ほど達、全員が集まった所でトルネコが口火を切って話し出した。
「面白い話を聞きましたよ。ここの南の家の学者が空飛ぶ乗り物を開発しようとしているらしいのです。」
「空…ってルーラの呪文で?」
「いえ、マーニャさん。魔力無しで飛べるものを開発しようとなさっているのです。」
「そんなことができるのか?」
「できるとしたらなんと素晴らしい事でしょう。ですがあと一つ、足りない物があるらしく、困っているような様子でした。」
 ブライがしばし考えた後、トルネコに聞いた。
「もしや…ガスのことじゃろうか?」
「そうです。空気よりも軽いガスがつまったつぼが、世界のどこかにあるらしいのです。もしも見つけたら それを持ってきて欲しい、そう言ってましたね。」
「け、けれどそれを飛んだところで…何かいいことがあるわけではなく…」
 クリフトがおびえながら聞く。ルーラのように一瞬ならばともかく、長時間空の上にいることを考えるだけで 足が震える思いだった。
「そうではありませんよ、クリフトさん。宝の地図を思い出して下さい。あの地図にあった印、あれは山脈に囲まれた 所でした。ですが、空が飛べれば!」
「手に入るわね…一体何があるのかしら…新しい洞窟?うふふ、楽しみ♪」
 アリーナがうっとりするように言う。クリフトは神へ祈った。ガスのつぼが見つからない事を。
 その様子を見ながらミネアが恐る恐る告げた。
「あの…笑わないで聞いて下さいね。あそこの家の人が、魔神像が動くのを見た、とおっしゃっているのですが…」
「魔神像って、なによ?」
 マーニャが胡散臭げに聞く。
「ここの南に立っている、魔力を秘めた神をかたどった像ですわ。」
「しかしそれが動くと言うのは、確かに奇怪ですね…」
「そこになにかしらの魔族の集う場所の鍵が在るかも知れぬな…」
 そうして皆して南をみつめると木の切れ間に、なにか像らしいものがあるのが見えるような気がした。
「もしかしてあの像が、その魔族が集う場所かもしれないんですね。デスピサロが、いるかもしれない…」
 南をぼんやりとみつめながらラグが言う。クリフトが驚いたように聞いた。
「見えるんですか?」
「僕、山育ちですから目はいいんです。」
 すこし普通を取り繕うようにラグが笑う。
 デスピサロは真近なのだ。決戦は目の前なのだから。迷っては、いけない。
 ラグは一歩を踏み出した。仇への、デスピサロへの道を。

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