星の導くその先へ
〜 altair and vega 〜




 緑の草原でくつろいでいる四人が、戻ってきた四人を見たときは、すでに人間の姿をしていた。
「姉さん?」
 ミネアが立ち上がり、そしてマーニャへかけよった。
「どうしたの?姉さん、顔色が悪いわ。」
「先ほど、デスピサロの話を聞いたときから、マーニャ殿の顔色がおかしいのだ。」
「具合が悪いんですか?マーニャさん。」
 ラグもマーニャの顔を覗き込んだ。それをみて、ようやくマーニャが笑った。
「あんたこそ、元に戻ったみたいね。安心したわ。」
「そう言えばブライ!大発見よ!お父様、生きてるわ!」
 アリーナはブライに飛びついた。
「アリーナ姫様!それは真か?」
「ええ!私も確かに聞きました、ブライ様!」
 トルネコは馬車からお茶を取り出してきた。
「とりあえず、ゆっくりと話してくれませんか?最初から。」
 そう言って一人一人にお茶を渡す。そして全員が円陣になった。


 潜入組がゆっくりと話していった。デスパレスは完全に魔物の城であり、中心は デスピサロであること。牢屋に人が囚われている事。サントハイムの王はデスピサロが作った 闇の牢に囚われていて、デスピサロを倒せば出られる事。エビルプリーストの謀反の噂。 そして。
「デスピサロが現れて、人間が地獄の帝王、エスタークを発掘した、そう聞いたわ。」
 語り手はマーニャに移っていた。少し顔色が青い。ラグが聞く。
「発掘…ですか?」
「ええ、アリーナの父さんはさっきアリーナが言った通り、それを邪魔しようとしたせいであんな目にあったみたいね。」
「そうじゃったのか…王が一度口が聞けなくなったのも、そのせいなのかも知れぬのう…」
 マーニャは言う。
「デスピサロは魔物を連れて、エスタークを仲間にする為に旅立ったわ。そこで、その会議は終わったの。」
「それで、場所はどこなの?」
 ミネアが聞く。マーニャは一瞬黙った。この妹に、あの町のことを思い起こさせるのは避けたかった。だが、 言うしかないのだ。口を開いた。
「鉱山町、アッテムト。…あたしたちはまた、あの町に行かなくてはいけないのよ、ミネア・・・」
「あの…町に、エスタークが?」
 ミネアは息を飲んだ。ガスの匂い、死の気配。魔物がはびこる洞窟。絶望の空気。ミネアは今でも思い出せる。
「アッテムトって、どこにあるんですか?」
 トルネコは地図を広げて聞いた。
「ハバリアのちょうど西。昔は鉱山町でしたけど、私達が最後に行った時は、毒ガスが出て、何人もが命を 落としていましたわ…正直、もう行きたくはありません。けれど、行かなくてはならないのですね…」
「よろしければ、マーニャさん、ミネアさんたちは…」
 ラグがおずおずと言おうとしたが、双子は同時に首を振った。
「いいわ、行くわ。あたしたち、前にもそこに入ってるから。結構掘り尽くされて迷路みたいに なってるわよ、あそこ。」
「もっとも以前に地獄の帝王の気配なんて感じませんでしたからもっと奥でしょうけれど…。それに ラグ。私は見てみたいですわ。」
「エスタークを、ですか?」
 ミネアはもう一度首を振る。
「いいえ、昔貴方を占ったとき、小さな星のような光が一つに集まり、大きな力になるのを見ました。 真ん中にいた星が、ラグ。そしてそこに導かれた7つの星が私たちですわ。 貴方を巡る、星に導かれた運命の行く末を、私はは最後まで見届けたい、そう思いますわ。」
 ミネアのその表情はなぜかとても透明で、美しかった。そして、 その言葉を聞いて、トルネコとブライがうなずいた。
 デスパレスに入っていた4人は、その表情を見て、いない間に残っていた四人に何かがあった事を感じた。
「行きましょう、アッテムトへ。僕は多分、エスタークを倒さなくてはならないんでしょう。 そして僕はデスピサロを倒したい。やっぱり…仇をとりたいですから…」
(シンシアの言葉。もし僕がいつか、勇者になれる日が来たら、そのときにはわかっているのかもしれない…)
 そう思うから、行こう。エスタークを倒した者こそ勇者だと言うのなら。そしてそのさきに、デスピサロがいると言うのなら。
 ラグの胸は高まった。
(もうすぐデスピサロに出会う。そのとき、僕はどんな気持ちになるんだろう?憎しみだろうか?怒りだろうか?戸惑い だろうか…)
「当然でしょ!お父様を助けなきゃ!」
 アリーナは飛び上がる。そして西を指差した。
「最終決戦かもしれないわね!いきましょう!アッテムトへ!」
 その言葉、その行動に元気付けられたのは、クリフトだけではなかった。


「さらに、酷くなってますね…」
「酷い、有様ね…」
 かろうじて言葉がでたのは姉妹だけだった。あとの人間はガスの匂いに当てられ、そしてとても近い死の気配を感じ、 気を滅入らしていた。
「ねえ、凄く嫌な匂いがするわ、なに?」
「姫様、余り空気を吸ってはいけません。これは毒ガスですよ。魔物に仕掛けられた毒ではないなら私にも治療できません。」
「…これが、金を求めて破れた末路ですね、マーニャさん、ミネアさん。」
 全員がトルネコを見た。
「私は、お金を稼ぐのが好きです。誰かに武器屋防具、役に立つ物を売ってお金をもうける事が好きです。…けれど それがロザリーさんのような人を傷つけ、こうして災いを呼ぶんですね…」
「いや、それは違うだろう。」
 ライアンはこころなしか遠くを見ながら心地よい声でつぶやく。
「武術も人によっては誰かを傷つける。しかし誰かを助ける事もある。全ては心がけ次第だ。」
「いきましょうぞ、このままではただでさえ少ない残りの寿命がちぢんでしまいそうじゃ。」
「そうですね…」
「そうね、ここにいても…なんにも…」

 マーニャはちらりと教会を見た。過去の自分はそこにいた。バルザックを殺すこと。 その居場所を見つけ出す為の火薬壺を探しにミネアとオーリンを連れて行った。ただ殺すこと。 血にまみれたあいつの血で自分の手を濡らす事。…その結果、二人を殺すことになっても、 自分は自分を止められはしなかった。
 何も聞こえなかった。考えたくなかった。全てを閉ざし、ただ考えるのはバルザックの事。
 教会にいた青年。妻をここで亡くし、自分もここで生涯を遂げるのだと言う青年。ミネアはつぶやいた。その青年を見て。

 ”ねえ。姉さん。 愛する人が死ぬことより、辛いことなんてこの世にあるのかしら…”

 聞きたくなかった。そんな言葉。
 愛する人が生きていて、もう死なせなくなかったミネアの気持ち。
 愛する人が狂ってしまい、殺すしかないと思い込んでいた自分の気持ち
 そんな心に蓋をした。
 だけど。その言葉に違うといえる。
(あれで良かった…バルザックは父さんの弟子の、あたしの好きなバルザックの心のままだったから。あいつの心を解放 できたから。あたしは辛くない。この世で最も辛いのは、愛する人と心通わせぬまま、道を、時を別つことだわ・・・)
 マーニャはちらりとたくましい背中を見た。そしてミネアの肩を叩いた。
「姉さん?」
「全部終わったら今度こそオーリンに逢おう。そして三人で、父さんのお墓に逢いに行こう。」
 ミネアはこっくりとうなずく。
「そうね、今度こそ、二人で逢いに行きましょう。」
「よし、いこう!そのエスタークとやらに会いに!」
 だいじょうぶ。今は仲間がいる。その誰かを殺すくらいなら、全力を尽くそうと思える自分もいるのだ。


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