星の導くその先へ
 〜 涙のかれる果てまで 〜




「あれ?あれなんでしょう?」
 そう言ってラグが指差したのは祭壇に乗っかった宝箱だった。
「あそこには確か、不死と言っていたモンスターがいた場所でしたね…あ、姫様 お一人では危ないです!」
 駆け出したアリーナをクリフトは追いかけた。アリーナがぱこ、と宝箱を開けた。
「たしかエスタークにより、と言っておった。ならばエスタークが滅んだ為あやつも消えたと 考えるのが筋だろう。」
「どっちにしろいいお宝だといいわねー。うん、ゴールドなんて素敵。」
「姉さん、こんな時まで…」
 ミネアがこめかみをそっと抑える。クリフトとアリーナは宝箱をかかえ階段を話しながら降りてきた。
「姫様、もしモンスターだったらどうなさるおつもりだったのです!」
「それなら戦うだけよ。違ったんだからいいじゃない。」
「いけません。姫様は今お疲れのはずです!」
 そう言い争う二人の横からラグはひょいっと宝箱を覗いた。そこには古びた壺のようなものが入っていた。
「これ…なんですか?トルネコさん。」
 取り出してトルネコに渡す。トルネコはしばらく眺め、そしてつぼの蓋の部分を開けた。すると ガスが立ち上がり、上へと勢いよくあがっていく。トルネコは急いで蓋をしめた。
「これはガスが詰った…いえ、空気より軽いガスを生み出す壺のようですね…」
「なーんだ、そんなもの、何の役に立つのよ?」
 マーニャがあきれたように言う。だがブライが口をはさんだ。
「いや、あのリバーサイドでトルネコ殿が言っておったことがあったじゃろう。」
「はい、学者がガスの壺を探していると。きっとこれの事に違いありません。これさえあれば 空飛ぶ乗り物が完成するのです!」
 トルネコは目を輝かせている。その横でクリフトは顔を青ざめた。
「ですが、とりあえず今はロザリーヒルへ急ぎましょう…」
「そうですね、ミネアさん。 まだ…デスピサロがいるとは思いませんけれど、ロザリーさんが気にかかりますし…」
 8人は外へと向かう。一度あった囚われのエルフの行方を確かめに。


 いつもの空、いつもの雲、いつもの風。そして一度見たそのままの村。ラグはとりあえず一息ついた。
(もし、僕の村みたいになっていたら…)
 それが恐ろしかった。だが一息つくのは間違いだったと気が付いたのはその後だった。
「あのね、いつも塔にいるお姉ちゃんがね、前からここにきてた人間のおじちゃんに連れて行かれちゃったんだよ。」
 不安そうに告げる男の子。
「うええええん、ロザリーちゃんが人間に連れて行かれちゃったよう!可哀想なロザリーちゃん!ウオーーーン」
 そう叫ぶモンスター。ラグたちの顔は真っ青になった。
「ま、まさかあの時に見た商人…」
 トルネコが震える。エルフを捕まえ商売したいと語る醜い商人をトルネコは以前に目撃していた。
「とにかくロザリーさんの所へ行きましょう。」
 ラグがそう言うとクリフトがあやかしの笛を持ち出し吹いた。床が下がる。そして皆は急いで塔を駆け上がった。
「いない…」
 ラグがつぶやく。この感覚をどこかで味わった事があった。あるはずのものがない。それだけでこんなにも、 こんなにも哀しいのだろうか。
「ロザリーさんまで、シンシアみたいに…」
 呆然とするラグの足に、スライムがぶつかった。
「えーんロザリーちゃんが攫われちゃったよう。エルフの涙は人間には持てないっていうのに…」
 アリーナがスライムへ目線を合わせる。
「…私達のせい?私たちがピサロナイトを倒してしまったから…」
 全員がハッとした。アリーナは泣いていた。クリフトがアリーナへの側にしゃがむ。
「姫様…泣かないで下さい…ピサロナイトは私たちを通してくれなかった。ですが ロザリーさんは私たちに、いえラグさんにお会いしたがっておられました。私たちにも 罪はあります。ですがその罪を恐れて見過ごす事もまた罪であったと思います。」
「そうよ、アリーナ。あいつは静寂の玉を持ってた。多分夢を見てなくても、あたしは あいつを殺してたわ。」
「姉さん…そうね。許せなかった。私たちにも罪はあるかもしれない。けれどそれを 悔いているだけではだめね…」
 マーニャがきっぱりと言う。アリーナが涙をぬぐった。
「スライムさん、デスピサロはここへは来ましたか?ロザリーさんはどうなったのですか?」
 スライムは体をぷるぷると振った。
「イムルへいこう。」
 今まで黙っていたライアンが言う。
「どうすればいいか判らぬ。だがあの時イムルの宿屋でロザリー殿の声が聞こえたのであろう?もし無事で あればまた何か見ることが出来るかもしれない。」
 ほかに手はなかった。ラグはスライムへ話し掛ける。
「僕達が、ごめんなさい…。もし間に合うようなら助けるから。間に合わなかったら、その時は かならずロザリーさんの願いを叶えるから…」
 そう言って、塔を出た。
(シンシアの為に泣いてくれた人。幸せに、なって欲しかった人だったのに…。)
「でも、さ…」
 塔から出たところでマーニャがぼんやりつぶやく。
「魔物と人間と…どっちが悪者かわからなくなるわね」
「ううん、マーニャさん。悪者なんて…きっといないのよ。」
   その言葉は、8人の胸に突き刺さった。


 

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