星の導くその先へ
 〜 天空支えし翠の柱 〜




 樹木の透き間から、光がシャワーのように降り注ぐ。
 空気は澄み渡り、神聖なる気を放っていた。
「なんて…なんて綺麗なのでしょう…」
 ミネアがうっとして見惚れていた。まるで空を覆い尽くすように伸びた樹の枝。青々と茂る葉。 気を感じるだけで心が癒されそうな…翠の結界。そう、もっとも似たものを現わすならば、まるで…
「これが…世界樹…」
 首が痛くなるほど見上げながらつぶやくラグ。世界樹はこの世にたった一人の勇者 を連想させた。その樹はこの世にあるどんなものよりも大きく、そして美しく見えた。
 気球で山脈を越えた。山と山の間。宝の地図の印の場所。隠されたようにその樹はそびえていた。
「こんな所にも…エルフの隠里があったのですね…」
 哀しそうにトルネコがつぶやく。ロザリーが商人の手により失われたことにより、一行は痛いほど エルフが隠れなければいけない理由がわかっていた。
「この樹のことなのだろうか?あの宝の地図の印は。」
「いや、ライアン殿。確かにこの樹は素晴らしいが…わしはなにか違うような気がするのじゃ。」
「そうね、宝物というのとは違う気がするわ。宝って言うのはやっぱりもっとぴっかぴかじゃないとね!」
「で…では…やはりこっ…この樹に登るのでしょうか?」
「なによ、クリフト。さっきまで気球に乗ってたくせに、木登りが怖いの?私は平気よ!腕が鳴るわ!」
 仲間達がわいわいと騒いでいる。だが、ラグは、ラグの体の周りが騒いでいるような気がして、じっと何かを感じようと していた。もっと言うならば、盾が、鎧が、兜が何かを呼んでいる様な気がしていた。
(あと印は…天空の剣なのだろうか?)
 そんな予感がした。天空の武具、最後の一つ。天空の剣、それがこの先にあるのだろうか。
『天空の剣、天空の鎧、天空の兜、天空の盾、この四つを集めた者だけが、天空の城に登れる』  それはいつかどこかで聞いた伝説。その最後の一つが、もうすぐ集まる。そしたら、天空の城へ登り、 竜の神へ逢う事が出来るのだと。そう感じていた。
(竜の神さまに逢えば、どうして僕が『勇者』なのか、判るだろうか…デスピサロが、今どこにいるのか、知っているの だろうか…だけど…)
「あの…もしもし…」
 ラグの肩を叩く女性の声がした。思索を打ち切り、ラグが振り向く。そこにはエルフの娘が三人立っていた。
「どうかしましたか?あ、僕達は別に貴方達に危害を加えに来たのではないですよ。」
 ラグはいたわるように言った。そのエルフ達は少しだけ悲しそうな瞳をしていたからだ。だが、 肩を叩いたらしいエルフは首を振った。
「い、いいえ、そんな事を疑っているわけではないのです。あの、あなた方、この樹に登るの?」
「そうですね、多分登ると思うのですけれど…なにかまずいですか?」
 ラグが尋ねると、一瞬ラグをまぶしそうに見たあと、三人のエルフは口々に言い出した。
「実はこの間から上から声がするんです。『助けて』って。」
「ですが、最近この聖なる世界樹にも魔物が住みだして、とても私たちでは…」
「世界樹へ登る為の階段はあちらにあります。よろしければその方を助けて下さいませんか?」
 よろしくお願いします、そうエルフは頭を下げ、音もなく立ち去っていった。

「…とりあえず登りましょうか?あっちに階段もありますし。」
 あっけに取られながらラグが仲間の方を向くと、仲間たちはすでに階段を見ながらなにやら盛り上がっていたようだ。
「ですがラグさん、私はちょっとここを登るのは遠慮したいですな。たとえ世界樹といえども私の体重に耐えられるかどうか…」
 トルネコがおなかを叩きながら言うと、クリフトが
「ひ、姫様が行くならば…耐え、耐えて見せましょう…で、ですが、もし風に揺れて振り落とされる事があれば…」
 と振るえ、ブライが
「この年になって木登りをする羽目になろうとは…」
 と落ち込み、ミネアがいまだうっとりと木をみつめ、
「これだけ世界樹の葉があるのでしたら、回復はラグさんだけで十分かもしれませんわね」
 と評し、最後にライアンが
「とりあえず余り大勢で行くのは難しいのではないかな?」
 とまとめた。そして結局は、
「おっ宝おっ宝、この世界樹の葉を石にしたような綺麗な宝石だったらいいわねえー」
 と言うマーニャと
「うふふふふ、ブライに何にも言われずに木登りができるなんて!」
 と燃えているアリーナが世界樹に登る事となった。もっとも、
「こ・の・あ・い・だ・の・こ・と、忘れてないでしょうね!」
「アリーナ様、マーニャ殿、くれぐれも木を燃やさないで下され!」
 としっかりお小言を聞いてからの出撃となったが。


「うっわー、下が遠いわー。ここで踊ったらさぞかし気持ちいいかもしれないわねえ。」
「ねえねえ、バンジ―って知ってる?ここのてっぺんでやったらちょうどいいと思わない?」
 二人のはしゃぐ声を聞きながら、ラグは周りを見渡した。
 緑に囲まれた場所。それは昔の村、それはロザリーヒル。
 蒼く澄み渡る空。それはあの時見上げた空。ロザリーが逝ってしまった空。風に揺れる奇跡の葉が、自分自身を責め立てた。 この場所は、余りにも『命』に近い場所だった。
 世界樹からみあげる空に映るは、いつもただ一人。想いを告げることも、いやその前に、想いに気づく事もできなかった、 生涯ただ一人の、女性。世界中を巡っても、たくさんの女性に出会っても、それは変わらなかった。
 世界樹の葉を使っても、生き返らすことはできない。肉体は、すでに跡形も残っていなかったから。この樹を昇りきり、 天空へあがれば、きっと敵が討てるのだろう。けど…
(ピサロと自分はどこが違う?)
 想い人が苦しめられ、その敵を討とうとしている。お互い、ただそれだけじゃないか。そう想う。自分も そうなっていたかもしれない…なのに討つ権利なんてあるのだろうか?
 けれど、未だ忘れることのできない、胸の痛み。二度と触れられないからこそ、想いは募るばかりで。
(シンシア…僕はどうしたらいいんだ…)


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