星の導くその先へ
 〜 天空の頂上にいたる 〜




「なんかクリフトみたいな人がいっぱいいるわ…」
「…ねえ、アリーナにとって神官っていえばクリフトなわけ?」
 神に抱かれし町、天空に一番近い場所、ゴットサイド。それは神聖な雰囲気漂う、聖都市だった。
 そこは伝説の最終点。予言の力を持つ神官たちは、ラグに告げる。
「伝説のとおり、地獄の帝王エスタークは、勇者によって、倒された。」
「だが、デスピサロが第二の帝王として、この世に闇をもたらさんとしている。」
「地界にて、デスピサロは進化の秘法を使い、進化しようとしているだろう。」
「黄金の指輪があれば、エスタークよりも邪悪な進化になってしまう。」
「デスピサロを支配するのは、ただ、憎しみのみ。このまま行けば、すさまじく邪悪な進化を 遂げてしまう…早く、止めなければ…!」
 その言葉達を聞きながら、ラグはぼんやりと、本当にぼんやりと考えていた。
(そういえば…勇者って言うのはエスタークを倒す為のものだったっけ…じゃあ、僕はみんなの願いを叶えられたんだろうか…?)
 自分の心のコンパスが答えを指し示す。そんなことはない、と。
(こんなことで、僕は許されない…きっと。それに、許せない。僕とデスピサロを許す事は できない…)

 そして祭壇に抱かれた場所。
 そこには一人の年老いた神官がいた。おそらく、一番偉いのだろう。その厳粛な雰囲気は、クリフトというより むしろミネアに近かった。
 ラグを見て、そっと口を開く。ラグが何者か、一目見て、わかったかのように。
「わしは、ずっと前から予言をしていた。勇者の行いを。予言は成就した。 勇者が、エスタークを倒す。だが、今、デスピサロが迫る中、わしには何も見えぬ。 それがどういうことなのかは、わしにはわからぬ…」
 先の見えない未来。それは当たり前のことなのだ。だが、無性にラグの胸に訴える何かを感じた。

 予言を聞くラグを、七人は後ろから見ていた。ルーシアは目立ちすぎる為に、宿屋で待機をしているのだ。
「神より預かりし言葉…なんと素晴らしいのでしょう!」
 クリフトが感嘆のため息をついた。ブライが考え込んでいる。
「予言というのは、才能じゃろうか?はたまたあそこが天へ一番近いから、予言をうけやすいのじゃろうか?」
「ねえねえ、ミネアさん。ミネアさんはあそこにいて何か感じた?」
 ミネアは苦笑した。
「いいえ、私は占い師ですから。予言と言うのは…いえ、一度だけ、ありますね…」
「おや、それはどのような?」
 トルネコに促され、まさに巫女と呼ぶに相応しい口調で、ミネアがとうとうと語りだした。
「双星の一つ、堕ちる時、対となる星、輝き出さん。その星、いつか天頂に昇り、 まばゆき光を、放ち出す。その星光は、陽さえも勝り、天界、地界を照らし出す。いつかその星、堕ちるまで…」
「ミネアさん、それなあに?」
「私がこの冒険を始める前に聞いた神託ですわ。少しこのことを思い出して。」
 全員が、ミネアに注目する。マーニャがしばらく考えて、言葉を発する。
「そう言えば、あんたエンドールでそんな事言ってたわね…」
「それで、どんな意味なの?」
 アリーナの言葉に、ミネアが苦笑する。
「判らないんですわ。ただ…神託と言うからには何か意味があると思うのですけれど…これから起こることなのか… もう終わった事なのか…」
 頭の中で何度もリフレインしながらブライは考え込む。
「そうですな…しかしそのような神託は今までどの文献にも乗ってはいないじゃろう。ならはやはり ミネア殿に関係することなのじゃろうな。」
「そうだろうな、双星とはまさに、マーニャ殿とミネア殿を現わすに相応しく思えるからな。」
 ライアン達の言葉にマーニャが首をすくめた。
「だけど、あたしもミネアも元気だし、結局なんだったのかしらね?難しい事を言うだけ言って、 結局なんだかわかんないなんて、何の役にもたちゃしない。」
「そうですな、判りやすく言うことが人間関係を円滑に運ぶコツなのですが…」
 トルネコの言葉にクリフトは苦笑しながらさりげなくたしなめる。
「いえ、神は人間を余り手助けしてはいけないものですから。全てを教えてしまっては、自らで生きる 意味が無いでしょう?」
 ミネアもさりげなくフォローをした。
「ええ、それに、どんな予言でもそれが確定と言うわけではありませんからね。未来は変える事が できますわ。だからこそ、神は全てを語らないのです。」
 そこに、予言を聞き終わったラグが、その言葉を聞きつけ、大きくうなずいた。
「そうですね…決まった未来なんてないですよね。僕は、そう信じてます。」


 蒼穹へ貫く塔。その塔の雰囲気は教会や神殿と比べ者にならないほど、美しい気で満ちていた。
「…考えてみれば…私はここを登るのですね…」
 神への崇拝と、怖い場所に上る恐怖にクリフトは足を少し振るわせた。
「天空の剣、天空の兜、天空の盾、天空の鎧…これらの全てを集めし者に、この塔を登る権利を持ちます。 さあ、ラグさん。」
 ルーシアの促しで、トルネコがラグに天空の剣を渡す。そしてラグを先頭に全員が入り口までの長い階段を上った。
 入り口に立ち、そっと剣を構える。
(僕は、勇者なのか、判らないけれど、もし天の神がそれを定めるなら、どうか、ここを通して下さい)
 そう念じ、剣を掲げた。キィン…と響く音がした。
「あっさりしたものですな。」
 感心して言うトルネコに、ラグは剣を返しながら言う。
「多分、もう大丈夫です。いきましょうか。」
 そうあっさり言うラグには、間違いなく勇者の風格が宿っていた。


 神へと続く神殿にこれほど相応しいものは無いだろう。そう思える天空への塔。あくまで蒼く、白く、 美しい。
「意外と魔物が少ないのね。ちょっとがっかり。」
 アリーナが言うとおり、モンスターの数も、驚くほど少なかった。
「この床は一体どうなっているのでしょうか…」
「うーん、父さんの遺跡より、もっともっとすごいわね、これは。」
 トルネコとマーニャが言うとおり、決して今の人間にはわからない技術が、この塔には使われていた。
 そして、何よりも。
「鎧も、兜も、盾も…なんだか喜んでいるみたいだ…」
 天空の装備と同じきらめきを持つ壁が、とても美しかった。
「私には、わかりますわ。もうすぐ、マスタードラゴン様にお会いできます、きっともうすぐ、帰れますわ…」
 感慨深げに言うルーシア。その眼には、すこし水が溜まっていた。

 そして、地上で一番天に近い場所。ラグたちは、そこまでやってきていた。
「さい…だん?」
 背景に広がる茜色の空。そして目の前には、小さな祭壇。それが終着点だった。
「なあに?神様が来てくれるってわけ?」
「いいえ、マーニャさん、違いますわ。」
 ルーシアは祭壇の上に登ってこちらをむいた。
「皆さん、いらして下さい。そうすれば、天の城までいけるはずですから。」
 意外にもクリフトが一番に祭壇に歩みだした。
「…大丈夫?クリフト。」
「へ、平気です!姫様!この祭壇を登れば、神に逢う事が叶うとは…私は幸せです!」
 そう意気込むクリフトに、ブライが水をさす。
「…クリフト、手足ががちがちじゃぞ。」
「しかも右足と右手が一緒に出てますよ。」
 ブライの横でトルネコもつぶやく。ギクシャクした動きが、逆に祭壇から落ちそうに見えた。
 八人が乗るのを見届けて、ラグが一歩ずつ祭壇へ歩んだ。一段ずつ、階段を上り…そして登り終えた。
「どう…」
 すれば、と問うはずだったラグの言葉は宙に浮く。ラグ達の体と共に。
「なんて神々しいのでしょう…」
 ミネアがうっとりと見とれるその先には、どこからとも無く集まってきた真白き雲があった。
 その雲はふわり、とラグたちをのせ、ゆっくりと空に上がっていく。
「わ、私、人一倍重いんですけど、落ちませんか?」
「か、神様、い、今御許へ参ります!」
 トルネコとクリフトの不安な声があがる。そして、その不安をかき消すように、今まで聞いた事の無い、 そして、とても耳になじんだ声がした。
 ”導かれし者たちよ。我が御許へ来るがいい。そして我が眼前に立ち、全ての道を指し記せ――――”
 風に乗るように、雲に抱かれ…そして、気がつくと九人は雲の上にいた。


 雲の上。神々しい神の城。ここは天空城。
 八人は言葉もなかった。ただひたすら城を眺める。
「いままで、ありがとうございました。」
 その言葉に我に帰る。
「わがまま言って、ここまで連れて来てくださって本当にありがとうございました。ラグさんたちには 感謝の言葉を言い表せないほどですわ。」
 ルーシアが頭を下げている。ラグも頭を下げた。
「いいえ、僕こそとても助かりました。ルーシアさんがいなかったらここにたどりつけなかったかもしれません。」
「そんなこと、ありません。ラグさんならきっとここに辿り着いたと思いますわ。」
 マーニャがぽん、とルーシアの肩を叩く。ルーシアが振り向くと、皆が笑っていた。
「楽しかったわよ。この城でもこの、天下一品のマーニャちゃんの踊りを褒めてよね!」
「私たちが知らない天の奇跡を、たくさん教えてくださってとても嬉しかったですわ。」
「また、サントハイムに遊びに来てね、ルーシアさん!」
「神への教義、とても勉強になりました。もう旅が出来ないのが非常に残念だと思います。お元気で。」
「姫の面倒を見てくれて助かりましたじゃ。怪我の方もはよう治されるようにな。」
「世界樹の知識、とても為になりましたよ、ルーシアさん。これからは怪我に気をつけてくださいね。」
「またおぬしが育てておるというドラゴンなどを見せてもらいたいものだな。」
 口々にはなむけの言葉を言う。ルーシアの眼が潤む。
「ありがとう・・・ございます!短い間でしたけど、私皆さんのこと、決して忘れません。後何年たっても!」
 そういって、一人一人の手を握った。
「マスタードラゴン様がお待ちですわ。…それでは!」
 そう言って、ルーシアは城へと駈けて行った。
「何度別れを味わっても、寂しいわね…。」
 アリーナのしみじみとした言葉が、皆の胸へと染みとおった。
「行きましょうか。私はこの城にとても興味がありますから。」
 独特の深さを感じさせるトルネコの声が、皆を天空城へと歩かせた。


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