星の導くその先へ
 〜 はじまりへの帰還 〜




「最後の一つですね。」
 ピサロの城の方を見る。結界を作るものが1つになったせいか、それとも進化が 徐々に深まりつつあるせいか、邪悪な気配がますます強くなっていた。
 トルネコが城に向かって石を投げる。石は城の近くまで飛ぶといきなり木っ端微塵に なった。
「やっぱりまだ駄目ですね。3匹も倒したんですから、結界が維持できなくなってたらいいと思ったんですけれど…」
「そうですわね。小さくなっているとはいえ結界を一匹で維持できるわけですから…」
「とっても強いってことよね!」
 言葉を濁したミネアの言葉の続きを嬉しそうに言うアリーナ。
「姫様…」
 ブライが冷たい目線で見るがアリーナはどこ行く風だった。
「あそこに何か見えますけど…」
「祠か?ラグ殿?」
「いいえ、ライアンさん。…塔みたいに見えます。」
 一同が目を凝らす。そこには確かに高い塔が建っていた。
「…アリーナ様の言葉は真実のようですね…」
 クリフトがため息混じりに言う。
 特別立派な建物。中にいるのは他よりも強い敵だと推測するのは簡単なことだった。
「ええ、それに…今まで感じた事のないほどの邪な空気を…あの塔から感じます…なんだか…とても 嫌な空気…」
「あー、あんたがそう言うなら、そりゃ相当やな奴よね。」
 マーニャが頭を抱えた。アリーナがマーニャの背中をドンと押した。
「っもう、言っててもしょうがないわ!どうせ戦わなきゃいけないんだから!大丈夫よ、私達なら。ね?」
「そうですね。きっと大丈夫です。」
 ラグが明るく答える。少し軽くなった足取りで、最後の結界を守る塔へと八人は向かった。

 ぎぎぎぎ…嫌なきしみをたてて扉が開く。ラグたちは、体中にずしんとした重さを感じた。
「怖いですか、ラグ?震えてますよ?」
 ミネアが心配そうに顔を覗き込んでいた。ラグは、自分の体を見直してみた。
「いいえ?震えてませんよ?そう見えますか?」
 ミネアはもう一度目を凝らす。先ほど震えているように見えたラグの体に脅えを見せるようなところは 何もなかった。
「ごめんなさい、見間違いですね。それとも私が震えていたのかもしれませんね。」
「怖くはありません。ですけれど…何か嫌な感じがします…とても」
「うーん、確かに強そうな気だけど…でもエスタークのところで見た、デスピサロのほうが上だと思うわ、ラグ。 大丈夫よ。」
「そうだな、私もそう思う。心配する事はない、ラグ殿。私達なら必ず討てる。」
「ええ。」
 アリーナとライアンの言うとおり、結界からもれるデスピサロより、強い波動ではない。だが、 何かが『嫌』だった。まとわりつくような波動。払っても払っても体の中へと入り込もうとする…
 高い塔。ただそれを上へと登る。静寂を嫌うマーニャが、それを打ち破る為に口を開く。
「でもこんな高いところへいるってことは、とりあえず四天王の中で一番偉いのかしらね?」
「そうじゃな、マーニャ殿。このように手間がかけられた場所にいるということは、それなりに 王に信頼が置かれていたのじゃろうな。」
「もしくは、よほどの手柄を立てたのでしょうな。王様と言うのは手柄を立てた人間に褒美を与えるのが 好きですからなあ。」
 そのトルネコの言葉に、クリフトが反応した。
「そういえば…なにか手柄をたてたモンスターの話を、どこかで噂に聞いた事があったような…」
「手柄…ですか?」
 ラグの言葉にクリフトがうなずき、言葉を続ける。
「なにか…とても大きな手柄を立てて…それでとりなされて…ああ、とても重要な事を言っていたような気がするのです。 名前も聞いたような…ですが…」
 のどの手前まで出掛かっていると言わんばかりにクリフトは喉に手を当てて考える。
 かつん…
 先頭のアリーナが階段の最後の一段を上りきった。

「人…神官だわ…」
 そのアリーナの声に、クリフトははじかれたように顔をあげた。
 だが、クリフトが声をあげる前に、アリーナは気がついた。この邪悪な波動の持ち主を。
 全員はとても緊張しながら距離を詰める。その神官は楽しげに、こちらをむいた。

「とうとう来たようだな。導かれし者たちよ。」
 全員が構える。だが、神官は目に入らないように言葉を続ける。
「だが、すでに遅すぎる。デスピサロはすでに進化の秘法を使い、究極の進化を遂げ、 やがて異形のものとなり目覚めるのだ。」
「ふうん、で、あんたはその異形のものに仕えるってわけ?人の物盗んでいい度胸してるじゃない?」
 そのマーニャの言葉はいつもの軽口だろうか?それとも…自分の心を奮い立たせる為だろうか? そんな言葉をエビルプリーストは笑い飛ばす。
「はっはっはっはっは。愚かな。変わり果てた奴の心には、最早人間に対する憎しみしか残っておらぬはず。… 仕えるなど、できるわけがあるまい?」
 ミネアが叫ぶ。
「では、なんのためにデスピサロに進化の秘法を使わせたのですか?!」
 神官は答えなかった。ただ、にやり、と笑うだけだった。
「そしてデスピサロは二度と魔族の王に君臨することなく、自ら朽ち果てるのだよ。…はっはっはっは」
 笑う神官。クリフトは静かに声をかける。…剣を構えながら。
「貴方が、エビルプリーストですね?」
 その言葉に、アリーナとマーニャとライアンが反応した。そう、デスパレスで確かに聞いた名。
「お前は私を知っておったか。」
「ピサロを蹴落とそうとしていると。そのために、人間を使おうとしている、そう聞きました。」
 静かに、恐ろしいほどの静けさで、クリフトは言う。事実、クリフトは怒っていた。
「あなたは、一体何をしたのです!!!!」
「そんなに聞きたいか、愚かな人間め。人間どもを利用し、ロザリーを攫ったのはこの私だということを!!!!」

 全員の頭にロザリーの顔が浮かぶ。塔で助けを求めるロザリー。ピサロを助けてと泣くロザリー。 ピサロに最後の呼びかけをする、ロザリー。
「貴様は自分の主君を陥れるために、ロザリー殿を殺すようなことをしたのか!」
 ライアンが剣を構えた。そうしてエビルプリーストへ剣を振り下ろそうと走った。
 ライアンの足が止まる。エビルプリーストが発した魔法によって、足止めされたのだ。
「そんなに怖い顔をするものではない。…勇者ラグリュートよ。私はお前には感謝している。」
「かん…しゃ?」
 一斉にラグを見た。だが、ラグは何の事だか全く判っていないようだった。
「おかしなことをいって私たちを惑わす気?ラグが何をしたって言うのよ!」
 アリーナは武器でエビルプリーストを指す。エビルプリーストはにやりと笑う。それは、とても嫌な笑みだった。
「いええ、とても感謝しているのですよ。私は強い。こんなに強いのに、なぜか四天王の座に着くことが 出来なかった。私の計画の為にはどうしても四天王につき、ピサロの側にいることが必要でしたからね。」
「…僕は…何もしてない。」
 まるで自分の声ではないような声を、ラグは喉の奥から出した。嫌な予感が消えなかった。自分の周りの空気が 震えていた。
 エビルプリーストは全身を嘗め回すようにみつめた。そして嬉しそうにつぶやく。
「お前は強くなったものだ。…昔はあれほどに弱弱しく見えたというのにな。」
「ラグ殿はこやつと戦った事があるというのじゃろうか?」
 ブライの言葉にラグが首を振る。
「僕は、お前と会った事なんて…ない…」
 こいつは、何を言っているのだろうか?そう思った。
「本当に、感謝してるのだよ。私は…」
 目の前の男の笑みが、消える。
「お前を倒す事で、四天王に取り立てられたのだからな。」


「なに!」
「なんですって?」
「嘘言わないでよ、ラグはここにいるんだから!」
 仲間達がそう言う中、ラグは何の事が理解が出来なかった。いや、理解するのを拒否していたのだろう。
 ただ、自分の胸に、初めて宿る感情があることを感じた。
「何を・・・?」

 エビルプリーストはその言葉で、さも今思い出したとばかりに言う。

「ああ、そうだ。忘れていたぞ。」

 にやり、いやらしく笑う。

 新しく生まれた感情。これは一体何ていう名だろう?

「あれは…」

 そうだ、わかった。自分の中にある、感情の名前を。

「お前では、なかったのだったな。」

 怒り、だ。


   
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