星の導くその先へ
 〜 願わくば… 〜




 すでに魔族からも離れた波動を感じるピサロの城。だが、導かれし者たちはそれを妙に 哀しい波動と感じていた。それは、あまりにも以前のものとかけ離れすぎていたから。
 愛する者を失い、謀略により自らの心を亡くさねばならなかったもの。
 ほんの少しのすれ違い。それが大きく運命を変えてしまったもの。
 だが、許される事ではないのだ。ピサロは…一つの村を、一つの幸せを無残に壊したのだから。
 結界に隠されていた城の中へと足を踏み入れる。
 そこには、デスパレスのような統制も、忠誠を誓う魔物の姿も無かった。ただ、ひたすらに 自分の欲望を満たす化け物たちがうろつく、地獄だった。

「なんて…酷い場所…」
「魔物の誇りも・・・意思さえも感じぬな…」
「これが…ピサロの本拠地なの?」
 四つの結界に守られしもの。だが、とても信じられなかった。ここがピサロのために用意された場所だとは。 あまりにも醜悪だった。様々に凝った仕掛けがより、不気味さのみを引き立てた。
「いきましょう…。闇の波動はだんだん強くなってますわ…」
「進化とやらが完成しつつあるっての?急いだ方が良さそうよね。」
 双子に促され、八人は足を速める。
 不気味な彫像。美しい装飾。ここは最初から進化を深める為に作られたものなのだろうか。
「…なんだかちぐはぐですね。…こんなに立派なお城なのに中はこんなに空虚で…」
「そうじゃな。…そもそも魔術を使って進化をするなど、間違っておるからの。生きてるものは 生きる力のみで今まで進化を続けてきたのじゃ。…無理をしてもちぐはぐにしかならぬじゃろうて。」
「そう言えば…」
 鑑定するような目で、トルネコはラグを見た。
「エスタークのところで、ピサロとラグさんの気が似ていると思いましたけど…今伝わってくる波動は…まるで 違いますね。」
「捻じ曲がったピサロは既にピサロではないのであろうな。」
 曲がることを許さなかった自分。力を手にする為に、自らを曲げた…ピサロ。
(なんでか判らないけど、きっとピサロは、鏡に映った僕だから)
 この手で、決着をつけよう。そのために今までやってきたんだから。


 マグマのうなりが聞こえる山。その先に、感じている方がくるわんばかりの気が溢れていた。
「…後戻り…出来そうにないわね…」
 ライアンがにやりと笑って言う。
「逃げたいか?マーニャ殿?」
「なにいってんのよ!望む所でしょ?」
 すこし震えた足に叱咤激励したマーニャがライアンに啖呵を切った。
 ラグが、最初に足を踏み入れた。そこは通ってきた城とは違い、ただの岩肌目立つ洞窟だった。
「魔の気が・・・集まってます。ここにいます。必ず。」
 ミネアが言うまでもなく魔の気が濃い。そして。
「あそこに…いるのは…」
 トルネコが指差す所。そこは玉座と言うには余りにも質素で大きい椅子。だが、その上には――
「化け物…いやエスタークによく似ているようじゃな…」
 ブライが言うとおり、アッテムトにいたエスタークに似た、不気味な化け物だった。
「これが、ピサロなの?全然違うわ…?」
「これが…究極の進化の結果と言うのなら…進化というのはこれほどに神に逆らう醜悪なものなのでしょうか…」
 歪んだ物体。その姿をあらわすに、これほど相応しい言葉は無かった。
 余りの代わりように、動揺が走る。そして覚悟してたとはいえ、その強大さにしり込みしたのもまた事実だった。
「大丈夫です。…あれは、きっとあまりに力が強すぎて、この世に存在してはいけないものなんです。」
 ただひとり、ラグの目が、まっすぐ化け物を射抜いていた。
「行きましょう。きっと今の僕達なら大丈夫です。」
 清らかな目。まっすぐな心。
 七人は。この目に、この心についてきたのだ。最初から、最後まで。
 ああ、大丈夫だ。この人についていけば、きっと大丈夫だ。
 ラグは、希望なのだから。


「デスピサロ!今こそ、僕はお前を討つ!」
 ラグの声が朗々と響いた。その化け物はゆっくりとこちらを向いた。
「…何者だ、お前たちは……?わたしの名は…デスピサロ。魔族の王として目覚めたばかりだ…」
 切れ切れにそう言うとデスピサロはうなっていた。慣れぬ体を押さえつけているように見えた。
「…僕はラグ。お前に全てを滅ぼされた者だ!…仇を討ちにきた、あの時の仇を!」
 全員はラグを見る。その表情は辛そうに歪んでいた。ラグはこの短くて長い旅の間、片時も あの光景を忘れなかったのだろうと、確信できた。
「そうよ!お父様を返して頂戴!」
 そのラグの名乗りにアリーナが続く。ラグ一人に背負わせないために。自分の意思を確認する為に。
「神の名において、貴方を倒します!」
「サントハイムへの恥辱、今こそはらそうぞ!」
 それにクリフトとブライがすかさず続く。
「バドランドと、世界を平和をつぶさんとする者を、我は見逃してはおかぬ!」
「ささやかな人の営みを、つぶそうとしないで下さい!」
「父さんとオーリンと、バルザックと!皆、あんたのせいで苦しめられたんだからね!覚悟しなさいよ!」
「お父さんの研究、返していただきますわ!」
 全員の言葉がすべて終わらぬ内に、デスピサロはまたうなり始めた。
「うぐおぉぉ……!わたしには 何もわからぬ……。何も 思い出せぬ……。お前達は…何を言っているのだ!」
(何も、判らない…?)
 その言葉を聞いて、ラグが叫ぶ。
「お前は、お前は何のために強くなろうとしたんだ!どうして力を求めたんだ!そんなんじゃ、何の意味も無いじゃないか!」
「何のため…?…わたしには、わからぬ…だが、何をやるべきか、それだけはわかっている……。 お前たち人間どもを根絶やしにしてくれるわっ!!」
 すると体に似合わぬすばやさで、真っ先にラグへと切りかかってきた。ラグはとっさに天空の盾で攻撃をかわす。 だが、その攻撃は余りに重く、ラグの体が吹き飛ばされた。
「ラグ、大丈夫ですか?」
「大丈夫です、ミネアさん。それより皆さんを守ってください!」
「はい!」
 そう言うとミネアはフバーハをかけた。その空気に包まれるや否や、アリーナが飛び出した。
「情けないわね!進化を極めたって、力がいくら強くなったって、そんなんじゃ、何も意味がないわ!」
 そう言って切りつける。たやすく、意外なほどたやすく傷がつく。
「負けないんだから!」
 ピサロの攻撃をさけ、アリーナは叫ぶ。
 そして、長い長い戦いが始まった。


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