星の導くその先へ
 〜 天空の彼方に 〜




「やっと、やっとお父さまに会えるのね…」
 アリーナの目から絶えず涙が零れていた。旅に出たときから恐ろしい予感と戦っていたのだろう。クリフトは そっとアリーナの頬の涙をぬぐう。
「姫様。笑ってください。きっと王様は姫様の笑顔を見たいとおっしゃるはずですよ。今日は めでたい日なのですから。」
「そうじゃ、姫。きっと王様は一番に姫の成長を喜んでくださるじゃろう。」
 アリーナはごしごし顔をこすり、笑顔でうなずいた。
「本当にそうね!私も、お父さまの笑顔が見たいもの!」
 そうして、眼下に見覚えのある大陸…サントハイム大陸が見えた。そのまま気球はゆっくりとサントハイム城の 前に降りた。
「ラグ殿、一度王に目どおりしては下さらぬか。」
「ぼ、僕ですか?」
 ラグは首を振ったがアリーナがむりやり気球から引っ張り降ろす。
「お父さまも会ってみたいと思うわ。ラグに。」
「そうですよ。ラグさん。ぜひ!」
 クリフトの言葉に促され、ラグはアリーナの後ろについてサントハイムに入る。
 花咲く美しい城。…それは以前のサントハイム城とは違っていた。
「おかえりなさいませ!アリーナ姫様」
「お帰りになられたのですね!王様がお待ちです!」
 半分涙ぐみながらも、アリーナたちに話し掛ける城の人たち。
「綺麗ですね…」
「そうじゃ、サントハイムは世界一の国じゃ!」
 誇らしげに言うブライの顔。ラグはまぶしそうにそれを眺めた。
 アリーナは走った。ずっとずっと探していた人を求めて。
「お父さま!」
「アリーナ!」
 父の胸に飛び込む。たくましい腕がアリーナを優しく撫でた。
「よく…頑張ったな、アリーナ。ありがとう。」
「お父さま、お父さま…無事で、良かった…」
 そうして、互いに涙を流しあう。ラグはブライとクリフトの横で、その幸せな光景を見守っていた。
「ブライとクリフト。おぬしらもご苦労だったな。こうして国が再生したのも、アリーナが無事に帰ってきたのも おぬしらのおかげだ。」
 二人が礼に倣いひざまずく。ブライが口を開いた。
「お言葉、真にありがとうございます。しかし我らは姫の命に従っただけの事ございます。そしてなにより、 ここにいる勇者ラグ殿の功績あっての事です。」
 ラグがブライを見る。だがラグが口を開く前に王がラグに話し掛けた。
「ラグ殿…わが娘を、臣下たちをそして国を守ってくれたようだな。…感謝する。」
「いえ!僕こそアリーナさんやクリフトさんやブライさんにとても色々助けてもらいましたから!それに たくさんのことを教えてもらいました。こちらこそ、ありがとうございます!」
 ぺこん、と頭を下げる。アリーナがそんなラグへそっと言葉を贈る。
「本当に、ラグのおかげ。もしラグがいなかったら私きっと、途中であきらめてたわ。…ありがとう。」
「いいえ。…サントハイムが元通りになっていて、本当に良かったです。…では、僕、ほかの人たちを 送ってきますね。」
 ラグはかすかに笑みを浮かべ頭を下げて、階段に向かう。
「さよなら、ラグ!楽しかった!ありがとう!」
「ラグ殿。有意義な時を過ごさせていただいた。…気をつけてな」
「さようなら、アリーナさん、ブライさん、クリフトさん」
 アリーナとブライの声に手を振りながらラグは階段を降りた。

「ラグさん!」
 城門に向かう途中、クリフトがラグを呼び止める。
「どうしました?クリフトさん。」
「え、とあの、ラグさん。」
 ラグの笑みが、気になった。どこか儚げで、そして楽しそうなそんな笑みが。
(ラグさんは、これからどうするんですか?)
 そう聞きたかった。だが、聞けなかった。頭にラグの故郷がちらつく。あまりにも、辛く無残な事実を 思い起こさせたくなかった。
「ラグさん、ありがとうございました。ラグさんがいなかったら私は死んでおりました。道中、お気をつけてくださいね。」
 だからそれだけ言った。ラグは少しいたずらっぽい笑みをかすかに浮かべる。
「ありがとうございます。…頑張ってくださいね、クリフトさん。」
 クリフトの頬が少し染まる。そして言葉もなくうなずいた。
 そうして、クリフトは気球が空に浮かんでいくのを、見送った。


 ふわふわと気球は蒼い空を進む。吸い込まれそうな空に、ラグはずっと魅入られていた。
 そして気球はバドランドにつく。ライアンに促され、ラグは気球を降りて、バドランドに入っていく。
「サントハイムも戻っていたようですし、良かったですわね。」
 気球に乗りながら、アリーナたちの様子をラグから聞いたミネアは、嬉しそうにトルネコと姉に話し掛けた。
「そうですな。本当にデスピサロは倒され、世界は平和になったのでしょう。よかったですな…マーニャさん?」
 じっとなにやら考え込んでいるマーニャ。トルネコに名前を呼ばれ、おもむろに立ち上がった。そして 気球から降りた。
「すぐ戻ってくるわ、ちょっと待ってて。」
 それだけを言うと、反論する間もなく、マーニャはバドランドへ駈けていった。

「ライアン!」
 城に入ろうとしたとき、後ろから聞きなれた声がした。
「マーニャさん?」
 髪を振り乱し、マーニャが後ろから走ってくる。
「ラグ殿、少し城の中で待っていてくださらぬか?」
 それだけ言うと、ライアンはマーニャのほうへ歩いていく。
「マーニャ殿。」
 マーニャはライアンの前に来ると、ライアンの手をがしっと掴む。
「まだあたし、何も聞いてないわよ。」
 息を切らせてそれだけを言うマーニャにライアンがかすかに笑う。
「それだけの為に追いかけてきてくれたのか?」
 その言葉に一瞬にして、マーニャの顔が赤くなる。
「…別にそんなたいして気になるもんじゃないけど!でもやっぱり判らないまま別れるって言うのもなんだし? 未練って、なんなのよ?」
 あまりにも単刀直入に聞かれ、今度はライアンがうろたえる。
(やはり…タイミングを逃すといいづらくなるものだな…)
 言葉を選び…そしてゆっくりとマーニャの手を握り言葉を吐いた。
「おぬしが、ルーラの使い手でよかった。」
「は?」
 マーニャがあっけに取られ聞き返す。そんなマーニャの掌に、そっと口付けをした。
「また、バドランドに会いに来てはくれぬか?」
「ららら、ライアン?」
 真っ赤になって言葉にならない声を出すマーニャに確信犯的にライアンが低く囁く。
「また、私に会いに来てはくれぬだろうか?」
 こくん、と頷きそうになったマーニャがはたと自分を取り戻した。ライアンの手を痛いほど握った。
「こんないい女のあたしが行かなきゃいけないわけ?それっていい度胸じゃない?あたしに会いたきゃモンバーバラ まで来なさいよ。」
「承知した。」
 笑って答えたライアンに、マーニャはちらりと眼を向ける。
「貢物は…勘弁しておいてあげるわ。ライアン。」
 最後に、営業用じゃないとびきりの笑顔を見せると、マーニャはまた気球の方へ駈けていった。

「よくやった!話は聞いておるぞ!」
 謁見の間に入ったとたん、バドランド国王が二人を出迎えた。
「ライアンよ。おぬしは真に世界を救ったのだな。…おぬしのような者をバドランドから出せた事を、我は 誇りに思う。」
「もったいないお言葉にございます。」
 玉座に座っていた王が立ち上がり、ラグの側に行く。
「我は…初めてラグ殿を見たとき、疑っておった。おぬしは余りにも普通の少年に見えて、とても勇者になど見えなかった。 非礼をわびよう。おぬしは立派な勇者だ。」
 そう言って王が頭を下げる。周りの兵がざわついた。ラグもあせって首を振る。
「いえ!僕は、僕だけじゃ駄目でした。ライアンさんは僕を、僕達を支えてくれました。僕達は 八人でやりとげたんです。頭を上げてください。」
 そう言われ、王は元通り玉座に戻る。
「ライアンよ。今日は祝賀パーティーだ。出てくれるな?おぬしが主役だ。」
「はい、ありがたき幸せです。」
「ラグ殿、そなたもどうだ?」
 ラグは首を振った。
「ありがとうございます。ですけれど、僕にはやらなくてはいけない事もありますから。」
「そうか…残念だな。ひきとめてすまなかったな。」
「いいえ。それでは、僕は失礼しますね。」
 そう言ってラグは頭を下げた。そうして出て行こうとするラグにライアンが声をかける。
「ラグ殿。ともに過ごせた時を、私は生涯忘れないだろう!」
「ええ、きっと僕もです。楽しかったです!」
 そう言って去っていくラグの後姿。
(ラグ殿はこれからどうするのだろうか…もしよければ今度バドランドで暮らさぬかと聞いてみよう…)
 輝ける時と、少しの寂しさがそこに重なった。


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