星の導くその先へ
 〜 心の星が煌めくように 〜




 ミネアの予言の言葉。それは、エンドールで響いた言葉。」
「それでは…ラグは…最初から…こうなる運命だったのですか?」
 ”私、私知ってたのに…止められなかった!!”
 山奥の村で響いたアリーナの声が、ミネアの頭にリフレインする。
 さだめられた運命のまま生き、決められた星の軌道のまま逝ってしまったラグ。
 震えたミネアの声が、全員の胸に響き渡った。

 溶け出した氷水が…まるで聖なる血のように、ラグの周りに波紋を作る。
 その透明な血が、この上なく似合う。…それが、哀しかった。
 神の御使いという存在のまま、ラグは生き抜いてしまったから。

「ミネア。お前は勇者のことを知ろうとした。…だから私の 思念を聞くことが出来た。…だが、止められなかったようだな。」
 何もいえなくなった七人にマスタードラゴンは言葉を投げる。
「悔やむ事はあるまい。ラグリュートの力は強大だった。もし、何をおいても生きようとしていれば、 ラグリュートはおそらく死ぬ事はなかっただろう。…そのときは、もはや今の姿を留める事が 出来たかどうかはわからぬが。」
 エスタークのような姿になり、生きるか。…生まれた姿のまま、死ぬか。逆らえぬ運命の流れの中、望まぬ 力を手に入れたものの、結論。
「おそらく、ラグリュートは知っていたのだろう。自分の身の上に何が起こったか… これからどうなるかを。そして自ら選んだのだろう。だからそなたらが悔やむ事ではないのだ。」
 それは、滅んでしまった守れなかった村で死ぬ事。
「私は全てが終りしとき、ラグリュートに言った。『私の元へ下り、私に仕えるならばその身体をこの世に留め置ける ようにしてやろう』と…だが、ラグリュートは言った。『自分の育った場所で死にたい』と。 知っていてラグリュートは選んだのだろう。自らが滅びる事を。」

 ”お前は見事やり遂げたのだ、もはや地上に戻る事もあるまい。これからは私とともに この天空城に天空人として住むが良かろう!”
 ”ありがとうございます、マスタードラゴン。…ですが、僕は僕があるべき場所へ、帰りたいのです。”

「ラグリュートが死ぬことは、変えられなかった運命なのだ。世界の定めとして、 ラグリュートは滅びねばならなかったのだ。」
 誰も言葉を発しなかった。発する言葉が、出てこなかった。
 神からの確かな定めと理。そのなかに組み込まれていたラグの死。
 そして、それは自らが望んだ事だったと。仕方なかった事なのだと、絶対である神が言う。
 もう、抗う気が残っていなかった。抗えると、思えなかったから。
 死んで欲しくないと思うのは、自分達のわがままなのだ。
 喉に張り付いた言葉を、目の前にいる絶対的な存在が、許してくれるわけがなかった。

「…それでも」
 そんな中、最初に言葉を発したのは、もっとも神への尊敬の念を抱いていた、あのクリフトだった。
 その表情は硬く、しかし迷いない、曇りの無い目。クリフトは立ち上がる。まっすぐに、マスタードラゴンの 眼をみつめて。
 そのクリフトは、今まで出逢った人間の中で一番の存在だと、アリーナは思った。
「もしも、もしも望んでいて黙っていたのなら、私は貴方を許しません!マスタードラゴン!」

 マスタードラゴンがまっすぐに立つ神官をみつめる。
「それは、どういう意味だ?神官クリフトよ。」
「貴方は言いました。…自らより強い存在を、認めるわけにはいかないと。貴方はどこかでそれを、ラグさんは 死ぬのを望んでいて、ラグさんに死を迎える事を告げなかったのではないのですか?」
「先ほど言ったであろう。ラグリュートは、知っておったと」
 凄みを増すマスタードラゴンに押されながらも、クリフトは言い募る。
「それは貴方の推測でしかありません。どうしてラグさんに言葉にして伝えなかったのですか? どうして死ぬと判っていながら、そのことを告げずにピサロを討伐させようとしたのですか?」
「ピサロを討たねばこの世は滅びた。どうしようもあるまい。」
「そうかもしれません。ですが、そうではないかもしれません。なにか手段があったかもしれません。」
 神に言うには愚かな言葉。神に逆らうこと自体が愚かなのだと、クリフトは判っていた。 神に逆らう反逆者。その立場になった事が恐ろしかった。足の 震えを無理やりに止めていると、心が凍えて震えそうだった。…マスタードラゴンの眼は そんな冷たさを帯びていたから。
「そうよ!それに、運命に流されるのと自分自身で行動して決まるのじゃ、同じ結果でも違うもの!」
 だが、そんな震えも、立ち上がって叫んだアリーナの声に打ち消された。


戻る 目次へ トップへ HPトップへ 次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送