星の導くその先へ
 〜 a chicken-and-egg problem 〜




   そこは、異次元だった。
「なんなのこれ!やたら長いしめちゃくちゃだし!なんだって言うのよ!!!」
「うふふふふ、こんなに強い敵がまだこんなに居たなんて!」
 この世ならざる場所。そうとしか呼べない場所。
「頭がくらくらしてきましたな…」
「…過去の遺跡…いや、それではおかしい、これはいったいなんなのじゃ…?」
 洞窟、迷宮、溶岩、湖…老人がいる庭のような所や、聖なる気で満ちた教会…突然不思議な海の 底へ出ることさえあった。
 そしていままで見たことのない尋常ならざるモンスター達。それは地上のものとは比べものにならないほど 強かった。
「ここはどこなのですか?」
 そこにいる人たちにラグたちは何度も聞いた。その者たちはこう答える。
「ここは、神ならざるものがいる場所。」と。
 そして…なによりも頭がおかしくなる事は… かつてどこかで見た洞窟の向こうに、今まで見たことのないダンジョンが繋がっていることだった。
「…これは神が創りたまいし場所なのでしょうか…?」
「かもしれんな。だが…一体何の為に?」
 常人ならば既に頭がおかしくなっていたかもしれない。だが、ラグたちは長い旅の間に 様々な神秘に触れ、そして自らや仲間の辛い過去を知った鍛えられた精神の持ち主だった。 だからこそ現実をそのまま受け入れ、この洞窟に立ち向かう事ができたのだ。
「空間が、いえ時間すらも捻じ曲がってるのでしょうか…?不思議な場所ですわ…」
 ミネアがぼんやりとつぶやく。既に時間感覚がなくなっていた中、ただひたすら先へと 進んでいった。


 ぽっかりとした洞窟…いや、穴倉に出た。ラグがいぶかしげな声を出す。
「…?ここは…?」
   気配を感じたのだ。それも悪しき気配ではないもの。知恵を持ち、生活を営むものの気だった。
 そこにはモンスターが居た。アリーナが反射的に構え…すぐ構えを解いた。
「…ここにいるモンスターは…戦意がないわね…」
 料理をするもの。眠るもの。皆、楽しそうに生活をしているだけだった。
「なんだか楽しそうですな。ここは良いモンスターの住処なんですかな」
 トルネコがそう言ったとき…最奥の部屋に、人影が見えた。
 いや、正確には人ではなく。
「エルフ…?どうして、こんな所に…?」
 ここは穴倉で、近くに自然もない。自然を愛し、自然のままに生きるエルフが到底好みそうにない場所だった。
 悪い予感が、八人を走る。…死んでいったエルフのように、モンスターに囚われているのではないかと。
 だが。
「…扉、開いたわね。」
 ラグがノブに手を伸ばすと、何の抵抗もなく扉が開いた。
「閉じ込められているわけじゃなさそうですな。」
 トルネコがホッとした顔をした。ラグが扉をくぐる。そこに屈託のない声がかかった。
「こんなところまで、お疲れ様ですわ。」
「…あなたは…どうしてこんな所に…?」
 ラグに続いてにクリフトも聞く。
「ここは貴方にとって暮らしづらいと思いますけれど…大丈夫ですか?」
「辛いんだったら、私達と一緒に来る?」
 マーニャの言葉に首を振って、エルフはにっこりと笑う。
「いいえ、大丈夫です。私は、嬉しいのですから。」
「嬉しい…こんな何にもないところで?」
 アリーナが信じられないと言わんばかりに声をあげた。だが、エルフはうなずいた。
「ええ…世界が動くさまと…その軸になるべき者たちを…この眼で見られたのですから。」
「貴方は…何か知っておられるのか?」
 エルフの言葉に反応したのはライアンだけではなかった。だが、ライアンの言葉をエルフは否定した。
「私が知っているのはたった一つの伝説だけです。」
「伝説…とな?」
 ブライの言葉に促されたように、ゆっくりと伝説が紡がれる。

「…地上にある世界樹の樹は千年に一度花を咲かせると言われています。世界樹の花は命の源。墓標にその花を供えれば きっと奇跡が起こるでしょう。」



「妖精族の女王、お召しにより参りました。」
「うむ、入るがいい」
 水晶の音の様な美しい声にマスタードラゴンが答えると、兵士が謁見の間の扉を開けた。そこには、銀青色の髪、 萌える若草色の眼、虹色の羽根を持ち、美しい王冠とドレスに彩られた妖精族の女王がいた。
「そしてそちは…」
 さして驚きもせず、マスタードラゴンはその横に居た、少し背の低い男に眼を向ける。
「招かれもせず、この場に参上したことをお許しください。」
「申し訳ございません。マスタードラゴン様の要望を伝えた所、どうしてもと言ったものですから…」
 そう言って妖精の女王と共に頭を下げたものが何者かは、マスタードラゴンにはすでにわかっていた。
「おぬしは、確か妖精族とドワーフ族のハーフで…」
「はい、マスタードラゴン様がご要望の絵の、描き手にございます。」
 そう言ったのは女王だった。


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