黙々とデスピサロの城から出て行く。そこに会話はなかった。会話が出来る空気でもなかった。 ラグは先頭に立ち、地上へ向かい歩いていく。 既に理性を失ったモンスターがデスピサロがいるにもかかわらず襲ってきた事が何度もあった。 デスピサロは何も言わずに唯黙々とはむかってきた者に剣を振るう。 ラグもいつもどおり戦闘に指示を出し、剣を振るい、補助をする。 だが、唯の一度もピサロに指示を出す事も、補助をする事もなかった。 意識をしないこと、ないと認識する事。それがラグに許された唯一つの自衛の手段だった。 どうしたらいいかわからない。だからとりあえず目標に向かって歩いた。 (僕は、あいつが許せない。エビルプリーストが…シンシアを殺したあいつが許せない。そして…この世界を 支配しようとしてることも、許せないから…) それに向かう事だけが、今ラグに許された、たった一つの行動だった。 「そろそろ休みましょう。」 地上に出た時には既に真夜中といっていい時間だった。めまぐるしいほどの出来事の中、おそらく 最後の夜…ラグたちはリバーサイドに宿を求めた。 ラグは意外なほどいつもどおりだった。ただ、最後の同行者を見ようとしない。それだけだった。 (今日は、初めて世界をこの目で見られるんだ。) ずっと楽しみにしていた。外の世界の事は本で聞いたり、人から聞いたり…時々禁止されてたけどこっそり 眺めてみたりもした。だが、一度もそこに立つ事は許されなかった。 (だけど、今日は初めて足を下ろすことが出来る。やっと許可がおりたんだ!) ようやく一人前だと認められた喜び。隔離された空間で来る日も来る日も、剣を振るい、魔法を学んでいた。唯一つの目的の ために。 自分には生きる目的があるから。世界の平和のために戦う事。マスタードラゴンでさえ勝てなかった 地獄の帝王をやっつける事。 (僕は、勇者なんだ!) 父や母…皆に見守られ、祝福されて旅立ったことをとても嬉しく、誇りに思った。はじめて、 マスタードラゴンに直接声もかけてもらった。 青一色に染められた空に、ラグリュートの白い翼が光る。 そして、はじめてみる「森」と言うものにゆっくりと降りていった。 (空も綺麗だけど…森って、綺麗なんだな…) 何もない空と違い、森はとても緑で生命力に満ち溢れている。それにとても癒された。 「あ、いけないいけない」 そっと翼を折りたたんだ。 「うへー…なんか変な感じ。けど…こっちの人には翼がないから変に思われるよね。」 鎧の奥にそっと隠す。そうして慣れない硬い大地を歩く。何もかも新鮮だった。 「フワフワしてないぶん、攻撃力は出そうだよな…ただ慣れない場所だからそれだけ気をつけてっと。」 ぽんぽん、と地面の感触を確かめたあと、とりあえず森の外目指して歩き出す。 「さて、と。エスタークはたしか地底にいるんだよな…マスタードラゴン様も、よりにもよって そんな面倒くさい所に閉じ込めなくても…」 硬い地面をコンコン叩く。 「…地底って、どうやって行くんだろ…?」 ぐるるるるるる… 「誰だ!!!」 うなり声がした方へ反射的に剣を構える。 (確か、エスタークの影響でモンスターが凶暴化してるんだっけ?) だてに17年間、剣の腕を鍛えてきたわけではない。自分はあの場所の中で、一番強かった。あそこでラグリュートに 勝てるのはおそらくマスタードラゴンだけだろう。 「来い!」 そう言ったとたん、モンスターたちが四方八方から攻めてきた。 「う、うわわわわ!!!」 とりあえず夢中で剣を振るう。一匹一匹はラグリュートの敵ではない。だが、群集で襲ってくるのは 初めての経験だった。ラグリュートはせいぜい三対一の戦いしか経験がなかった。 「ギラ!」 呪文を唱え、モンスターの一部を倒し、動きを鈍らせる。そしてその間に剣を振るう。だが、 後から後から沸いてきた。 大分疲れが見えてきたそのとき。 「わわわわわ!!!」 自分が倒したモンスターに足を一瞬取られた。 そして、今のラグリュートにとって、その一瞬は致命的だった。後ろからモンスターが迫り来る。 (もう、駄目だ!) 「真空波!!」 目の前の敵から血が湧き出る。ラグリュートは攻撃が来た方をとっさに見上げた。 「あら…?こんな時間に何を…?」 少し開いていた扉。ふと覗くとミネアとトルネコは二人でお茶を飲んでいた。 「ロザリーさんこそ、眠られていたのではないのですか?」 トルネコの問いかけにロザリーが暗い顔をして言った。 「ええ、寝ていたのですけれど、目が覚めてしまいまして…」 「早く寝た方が良いと思いますけれど、どうしても眠れないのでしたら私たちと一緒にお茶でもいかが?」 少し考えて、ロザリーはミネアに隣りの椅子に腰を下ろした。 「ええ、喜んで。」 「ロザリーさん、これは私の家内が作ったクッキーです。よろしかったらどうぞ。」 トルネコが笑顔でロザリーにクッキーを勧める。 「おいしいです、ありがとうございます。あの…他の皆様は?」 「ブライさんはサントハイムの様子を見にいかれましたわ。姉さんは…きっとお酒でも飲んでいるのですわ。後の 方は寝てらっしゃると思いますけれど…」 「ラグさんも…ですよね…」 ピサロが生き返って以来、ラグはピサロはおろか、ロザリーも見ようともしない。 「やっぱり、私は生き返ってはいけなかったのでしょうか…」 「それは違います。」 トルネコがきっぱりと言った。 「ロザリーさんが死んでしまったのは、魔物に操られていたのもありますが、結局は私たち商人の 欲ゆえです。こんなこと言ってはなんですが…私は生き返ってくれてよかったと思います。 …もっとも生き返ったところで私達の罪は消えませんが…」 「いいえ、そんな…」 ロザリーは首を振る。 「私達の仲間は人間が嫌いな方も多いですが、私は、人間が好きです。ずっと前から惹かれていたんです。ずっと 何故だろうって考えていました。」 見据えるロザリーの目はとても澄んでいた。 「やっと判りました。私達のように誰ともふれあおうとはしないで生きていくのではなく、誰かとふれあって 一緒に何かを作っていこうとするその心が、とても暖かかったからです。それはとても 勇気のいる事ですし、時に誰かを 傷つけたりしますけれど、それ以上に心を癒してくれる事もあるからですわ。」 「ロザリーさん、そうですね。きっとそれこそが、人間の価値なのかも知れませんわ。」 ミネアの言葉に一瞬の照れて見せたロザリーだが、その後、また沈んだ。 「余所見するな!」 その男は剣を振るいながらラグリュートへ怒鳴った。 「はい!」 その男は強かった。自分も強いと自負していたが、自分とは比べ物にならないほど、剣の腕が立ち、魔法の バリエーションも豊富だった。 そして、あっという間にモンスターたちは沈黙した。 「ありがとうございました、助かりました。」 「まだまだ未熟だな。足場の確保は戦いにおいて、何よりも重要だ。それに剣の使い方が型どおりすぎる。 おそらくよく訓練された剣士としか戦っていないのだろうが、こういう敵と戦う時にはその型が通用 しない事もある。よく気をつけろ。」 少しむっとした。が、それは紛れもない事実だったので、もう一度礼を言う。 「僕はラグリュートと言います。本当にありがとうございました。貴方は…?」 「私は、ピサロだ。」 「ピサロさん、もう日も暮れてますし、良ければ二人で野営をしませんか?」 ピサロは野営にも慣れていた。あっという間に火をおこし、ラグリュートを感心させた。 「お前は、余りこういうことに慣れていないようだな。お前は何の目的で旅をしているのだ?」 ピサロが入れたホットミルクを飲みながら、ラグリュートは誇らしく答えた。 「僕は天界の勇者なんです!マスタードラゴン様の命で、エスタークを倒しに来ました。」 「お前もエスタークを?」 いぶかしげに答えるピサロ。その様子でぴんときた。 「貴方もエスタークを?」 「そうだ、あいにくだったな。私は誰よりも強くなる事を望んでいる。おそらくエスタークは、今最強の者だろう。 それを倒し、私はさらに強くなる。」 ピサロはラグリュートをぎろりとにらんだ。だが、悪意に触れた事がないラグリュートはのんきに答えた。 「じゃあ、目的は一緒なんですね?なら、一緒に旅をしませんか?ピサロさんみたいに強い人と旅が出来たら 嬉しいです」 一瞬にして呆けた表情になるピサロ。 「お前…何を言っているかわかっているのか?」 「僕は弱いですから足手まといになるかもしれません。だけど、僕も一生懸命強くなりますから!一緒に旅をしましょう。一人より 二人の方がきっと強いんですから!」 そのあと捨てられた犬のようにおずおずと聞く。 「それとも…僕じゃ、ピサロさんの足を引っ張るだけでしょうか?」 その言葉を聞き、ピサロは爆笑した。 |
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