星の導くその先へ
 〜 そこに在る鏡。 〜




   黄金の日が高々と昇る頃。十人はついに、デスパレスに着いていた。
 リバーサイドからこの城に着くまでにも何度か戦闘があった。どうやらピサロの姿を見ても、 モンスターは偽物と判断したらしい。
 そしてピサロも躊躇はしなかった。ただ黙々と、降りかかる火の粉を払っていた。
 朝がきても、ラグはピサロを見ようとしなかった。戦闘でも相変わらず指示も出そうとしなかった。 そこにいないものとして扱っているようだった。ロザリーなどは居心地が悪そうだったが、何も言わなかった。仲間達もだ。
 おそらく、それがラグの精一杯の対処の仕方なのだろうと、判っていた。ロザリーも ただ物言いたげに、ラグの方をみつめるだけだった。
 誰も気がつかなった。
 もっともピサロの技は豊富で、とても強かったから、本当に誰も気がつかなった。
 どうして、戦闘でピサロが一度もラグの邪魔にならなかったか、誰も気がつかなかった。
 二人は会話なくとも、お互いの戦いがわかっているようだった事に、誰も気がつかなかった。
 ただ聖魔、そして強弱が正反対でありながらも良く似た気を持った二人を、全員が不思議そうに感じていた。

 入り口近くの森。そこでピサロは立ち止まった。
「ロザリー、お前はここで待っているんだ。」
 だが、ロザリーは意外なほどしっかりと首を振った。
「いいえ、ピサロ様、私もお連れください。」
「お前が来て、一体何になると言うのだ!?危ないだけだ、ここで隠れていろ。」
「御願いです、ピサロ様。もう、私は祈っているだけだと言うのは…嫌です。」
「危険なのだぞ、判っているのか!」
「でもピサロ様…あの安全なはずの塔でも、結局は発見されてしまいました。ここが安全と言えますか?」
 ロザリーはにっこりと笑った。
「それは…」
 ピサロはひるむ。
「きっと、一番安全な場所は、ピサロ様の側だと思います。お連れください。」

 それを遠巻きにみつめる七人。
「強くなりましたな、ロザリー殿は。」
 ライアンがしみじみというと、
「そんな事ないわよ、ロザリーは最初から強かったわ。ただ、強さの質が変わっただけよ。信じて 待ち続けるって言うのも、あたしは強さだと思うわ。」
「それに当たり前ですわ。恋をすると、女は強くなれるのですもの。」
 マーニャとミネアがにっこりと笑う。
 相変わらず、カップルの会話は続く。
「足手まといにならないように頑張ります。戦闘がはじまれば、できるだけ遠くに離れます。 私は見届けたいんです。それに…もう遠くで待ってるなんて嫌なんです。」
「だが、あの中では何があるかわからないのだぞ。いい子にしているんだ。」
「では、ここに私が待ってる間に何があるか、ピサロ様はお分かりになるのですか?」
「うむ…」

「あのピサロが負けておるわい。」
 ブライが妙に嬉しそうに言う。
「男は女性に振り回されるように出来てますから。その中でたずなを握れるかが安泰の鍵ですよ。」
 既婚者のトルネコが妙な自信を持って言う。
「そうですね。女性は本当に強いですから。」
「そうよ、クリフト。女が弱いなんて勝手に見くびらないで欲しいわ!」
 クリフトの言葉にアリーナが腕を振り回す。
「いえ、姫様、それは少々意味が違います…」

「ここにいても、私は何も為せません…連れて行って下さい。」
 ピサロは少し考え込んで首を振る。
「いいや、おそらくエビルプリーストは既にお前を守りながら倒す事は出来ない相手だ。 配下のモンスターがお前を人質に取るかもしれん。」
「…それは…ここでも同じですわ。どこにいたって同じです。私は、ピサロ様の戦いを見たいのです。 この戦いの結末を、見届けたいのです。御願いします…ご一緒させて下さい。」
 強く言うピサロに、おどおどとしながらも一歩も引かないロザリー。

「本当に恋する女性は強いですな」
 夫のためにモンスターの出る洞窟をくぐった勇気のある女性を、ライアンは思い出した。
「そうですね、女性は恋をすると強くなるんですのよ。」
 ミネアが少し自身ありげに言う。
「ふーん。そうなんだ。私も、恋をしたらもっと強くなれるのかな?」
 振り上げていた腕をじっとみつめる。ミネアがすこし苦笑いをしながら言う。
「そう意味じゃありませんわ、アリーナさん。意思の問題ですから。」
「ふーん。でも、そうね。もし、何もかも捨てても、その人のために何かしたいと思えたとき、 恋をするのかもしれないわね…」
 そのアリーナの言葉に、クリフトがぎょっとする。
「ま、まさか姫様その、その、その様な方が!!?」
「ううん、でも。」
 ロザリーとピサロをほほえましそうに眺めるマーニャとミネアをアリーナは眺める。
「そうなった時、きっと私はもっと強くなれると思うから。」
 その二人は、いや、ロザリーも含め三人はとても強く、綺麗に思えた。

「さて、と。そろそろかな。」
 マーニャが唐突につぶやく。
「私が一番安全にいられる場所は、きっとピサロ様の側です。御願いします!」
「お前の為に言っているんだ。危ないだけではない、おそらくとても醜いものを見ることになるのだ!やめておけ。」
 そう言ったピサロに火の玉が迫った。とっさにピサロは手で払う。
「何を!!」
「あんたね、昨日言った事、もう忘れたの?」
 メラミをぶつけたマーニャがため息をつきながら言う。
 ”人を言い訳にして戦おうとするなら、その人の気持ちを考えてから行動してちょうだい。”
「そうだな…」
「ピサロ様?」
 ピサロの顔が少し和んだ。
「戦う時は、安全な場所へ逃げろ。それだけは約束できるな?」
「はい!」
「魔界の皇子も、女性には結局適わないじゃなあ…」
 しみじみと言ったブライの言葉があんまりおかしくて。見ないようにしてたピサロの顔が 余りにも、意外で。
「はははは」
 ラグはピサロが仲間になってから、初めて人間らしい表情をした。
 声を立てて、少しだけ笑った。


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