星の導くその先へ
 〜 運命ほしの導く、その先へ 〜




「あの…ラグさん。」
「どうしました?ミネアさん?」
 天空城の前。ルーラで辿り着いた後、入ろうとするラグをミネアは呼び止めた。
「息を吸ってください。」
「え?こ、こうですか?」
 疑問に思いながらも深呼吸をする。
「そうです…そして、自分の外側に膜があるイメージを作ってください。…そうです、自分の全てを中に 治めるように…」
 ラグが言われるとおりにすると、ラグの強大な気が、徐々におさまって来たのがわかった。 それでも、かつての微弱な気とは比べ物にならないほどの気が溢れているのだが、それは 今のラグの実力に相応しい大きさだった。皆はホッとした。
「ラグさんの気は清くて、大きくて、そのままにしておくと驚く方もいらっしゃいます。気を抑えるのも訓練の一つですから、 しばらくそうしていてください。」
「そうじゃな。癒されるものもいるじゃろうが、逆に毒となるものもいよう。また魔族の標的と なる可能性もあるじゃろうしな。」
 ブライの言葉にラグが恐る恐る聞く。
「え?で、でもずっとこんなことを考えながら歩くんですか?」
 ラグは気のコントロールに慣れていない。ずっと抑える事を考えながら行動する事に戸惑った。
「大丈夫よ、ラグ。そのうち慣れるから」
「うむ、気の訓練は重要な事だ。」
 アリーナとライアンが戸惑うラグに激励を送る。
「でも、なんだかホッとしました。…いつものラグさんですね」
 クリフトの言葉にラグが嬉しそうに言う。
「ええ、ありがとうございます、皆さん。わわわわわ!」
 礼を言ったとたんに気が溢れ出す。
「「あははははははは」」
 強大な気を持ちながら、それをコントロールできない様子に皆が笑う。
「えーとえーと…」
 必死に気のコントロールをするラグ。トルネコが、優しい表情で述べる。
「そうですね…ラグさん、こう考えてください。気を守ってくれたシンシアさんがいつも側にいると。 シンシアさんが作ってくれていた優しい風が、いつも自分を囲んでいると。」
「はい。」
 そういうと、ラグの気が、とたんにおさまった。
「…もう大丈夫です。側にいてくれたシンシアを、僕は忘れたりしません…」
「そうね、きっと上から見守ってくれてるわよ。」
 天空城よりなお高い…大気からずっと、自分のことを。
 ラグはうなずいて、今度こそ天空城へ入っていった。


「私はマスタードラゴン、居ながらにしてここよりこの世界の全てを知ることができるもの。 天空人と人間の血を引きしラグよ!そなたらの働きで進化の秘法はエビルプリーストとともにこの世界から消滅した。 最早人々がおびえることなく、世界に平和が訪れたのだ!」
 マスタードラゴンが、玉座の間で朗々と語る。そうして七人に次々に礼を言っていく。
「ライアンよ。自ら世界の危機を感じ取り、王で忠実であるおぬしが世界を救った。…とてもよくやってくれた。」
 ライアンはひざまずき、頭を下げる。
「アリーナよ。王を失い、国が荒れた状態でありながら、決してあきらめることなく王族の誇りを持ち続け、 良くぞここまでやってくれた。…おぬしは国を見事に守り通したな。」
 アリーナは王宮風の挨拶をして深々と頭を下げる。
「ブライよ。…おぬしの知恵と行動がアリーナを、仲間全てを導いた。おぬしこそ、 地上一の知恵ものであろう…見事であったぞ。」
 ブライは一礼して、満足そうにうなずく。
「クリフトよ。神に仕え、神の教えを理解しながらも、自らの信念を貫き通し、 自らの主を支え、守り通したその行い。素晴らしかったぞ。」
 クリフトは、ひざまずき、マスタードラゴンに礼を言う。
「トルネコよ。身を守る物を売るそなたが、強い意志を持ち、世界のために戦い平和を勝ち取った。 …全ての愛するもののために。そなたのような 者こそ、平和な世の中必要な者なのだ。これからも世の為人のため、商売にせいを出すのだぞ。」
 トルネコはいつものお客様への対応のように、とっておきの笑顔でそれを請け負った。
「マーニャよ。絶望から這い上がり、自らの心の闇と勝ち抜き、世界に光をもたらした。 確固たる信念、素晴らしかったぞ。これからも人々に希望と喜びを与える者となろう。」
 マーニャはとても上品におじぎをした。
「ミネアよ。自らの意思を貫き決して絶望せず、姉と共に亡きお父上の意思を立派に果たしたな。 運命を知るものでありながら、その運命に決して身をゆだねるだけではなかった。 今のそなたを見れば、お父上もこころから安堵するだろう。」
 それは、とても誇らしかったが、なぜか一度、どこかで同じ事があったような、そんな複雑な気分だった。 そう言えば…ここに皆で立った時、なにか、何かがあったような・・・そして、あれほどに 畏怖を感じたマスタードラゴンに、なぜか奇妙な親和感があるのは何故なのだろうか?

「そして…あの魔族の王、デスピサロ。あの者の力がなければ、真の巨悪を倒す事はできなかったであろう。 とても皮肉なものだ。だが…あの者の魂には相応しいのかもしれないな。」
 そうつぶやく。そしてもう片割れの勇者を見た。
「そして…天空人と、人間の血を引きし勇者ラグ・・よ!」
 ラグが顔をあげる。マスタードラゴンは、今、自分の名前を呼んだ。ラグリュートではなく。そのことが 信じられなかった。
 全員が息を飲んだ。妙に次の言葉が気にかかる。
「そなたのおかげで人々は再び陽に照らされる事ができた。…そしておぬし自らの復讐心を捨て、まっすぐな 心を持ち続けた。そなたのその心で、全てが救われたのだ!ラグよ、地上に戻らず、これからは私とともに この天空城に天空人として住む気はないか?」
 それは、マスタードラゴンにとって奇妙な問いかけであった。答えがわかっている問いかけだったからだ。
 案の定、ラグは首を振った。
「ありがとうございます、マスタードラゴン様。ですが…僕には地上でやらなくてはならないことがあるのです」
 その答えは、以前聞いた答えより、とても健康的だった。
 七人はなぜかホッと息を吐いた。
「そうか…。そうだ、ラグよ。実は妖精族の絵師が、おぬしで絵を描きたいといっておるのだ。それほど時間はとらせぬ。 デッサンだけでいいらしいのだ、協力してはくれぬか?」
「ぼ、僕がですか?」
 あせるラグにマスタードラゴンは笑う。
「世界を救った勇者を描いておきたい、この地上に住む絵師ならば当然の事だろう。協力してやってくれ。」
「は、はい…」
 そう言って立ち上がろうとするラグをマスタードラゴンは呼び止める。
「そうだ、ラグよ。…おぬしの首につけている、その鍵は私が預かっておこう。」
 ハッと首を抑える。そこにはこの旅を開けた、自らの戒めの鍵があった。これは絶望の鍵。
「おぬしには、もうそれは必要ないだろう?」
 気がつくと、頼らなくなっていた鍵。そして、今では判っているから。シンシアは、自分の側にいること。
「はい。」
 ラグが鍵を差し出すと、その鍵は空に浮き、マスタードラゴンの元へと飛んだ。

 これは最後の一つ。心となるもの。胸の側にずっとあったもの。死してなお、ずっと側にいたもの。
 絶望の鍵は、希望を開ける鍵となる。ラグ自身の強さによって。


 ラグは、兵士に導かれ、別室へと赴いた。
 おもむろに、独り言のようにマスタードラゴンは七人へと語りかける。
「良くやったな、人間達よ。」
 その言葉は先ほどと少し違った響きがあった。
「私は、愚かだと思っていた。そんな事をしても、何にもならないのにと。それと同時に… 少し期待もしていたのだろう。だが・・・」
 いぶかしげな七人。それにも気にせず言葉を続けるマスタードラゴン。
「お前達は、立派に魂の響きを感じ、勇者を導き、星の軌道すら変え、 私が用意した運命のその先へと歩んだのだ! おぬし達は既に導かれし者ではない。…導きし者なのだ。」
「あの…それはどういうことでしょうか?」
 ミネアの言葉にマスタードラゴンが笑う。
「いや…繰言だ。お前達にはわからぬだろう。…導きし者達よ、もう大丈夫だ、案ずる事はない。 もう、おそらく壊れることはないだろう。それだけは覚えておくがいい。」
 なんのことかは判らない。だが
(もう、大丈夫なのだ)
 そのことだけが、妙に魂に響く。
 正しい道を選べたかは判らない。ただ、自分らしく道を歩んできただけだから。

 それでも…『何か』を為せたというのなら。
 自分たちは『魂』に何かを刻めたのだと。
 ここでかつてマスタードラゴンと争った、過去の自分たちが自分たちを褒めていただろう。
 それは…決して本人達には伝わらない「想い」だったが。


「それじゃあ、還りましょう。」
 少し照れくさそうに笑って、ラグが玉座の間に戻ってきた。
「ご苦労だったな。迷惑をかけた。」
「いいえ、マスタードラゴン様。それに…ありがとうございました。いつかまたここへも遊びに来ます。」
 ぺこん、と頭を下げる。
「ああ。」

「ねえ、ラグ。ありがとうってなんなの?」
 玉座の間を出て、マーニャが耳元でつぶやく。
「絵を描き終えて外に出ると、以前ここで会った天空人の女性が、話し掛けてきてくれたんです。『元気でね。また、遊びに来て ちょうだい』と。」
「それが…?」
 首をかしげるマーニャにラグは笑う。
「その人は、僕の実の母だと言いました。」
「どうして今ごろにそんな事言うのよ?!」
「多分…許されてなかったんだと思います。だけど…僕達がしたことで、マスタードラゴン様も 軟化して、だんだん天空の掟も変わってくるだろうって言ってました。だから、僕に名乗る事が出来たんだと思います。」
地上(した)に降りてもいいんですか?」
 ミネアが心配そうに言う。しかしラグは笑う。
「…僕には、やらなくてはならないことがありますから。」
「そうですわね。。」
 それは最後の儀式。最後の村人としての仕事だ。
 そして、その機を逃さず、ライアンは言う。言わなくてはならないから。
「では…それがおわって落ち着いたらラグ殿、バドランドに来る気はないか?ラグ殿ならきっとすぐに 私と同じ位に…いや上司になれるやもしれぬな」
 やっと言えた、とライアンは思った。なにが『やっと』なのかは本人にもわかっていないが。
「あ、じゃあじゃあ、サントハイムに来るって言うのはどう?」
「そうじゃな…いまやこれほどに強くなった姫の教育係がわしだけと言うのは辛いじゃろうて…」
「ラグさんが来てくだされば、私も嬉しいのですが。」
 アリーナのわがままを珍しく1も2もなく賛成する二人。
「そうですね…考えておきます。」
 故郷がないと心配しているみんなの気持ちが嬉しく、てラグは苦笑してそう言った。
 バシン、とラグの後頭部が思い切りひっぱたかれる。
「な、なんですか?」
 後ろを振り向くと、マーニャが笑っていた。
「さあさあ、そんな辛気臭い顔してないで!」
「そうですね。帰りましょう。私達の故郷へ。」
 トルネコがいつもの優しい顔で気球を引き寄せた。


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