トルネコ一家の幸せな一日







「ありがとうございました!」
「ありがとうよ!」
 ようやく、客の波が引きました。
 世界が平和になって、魔族が世界から姿を消してもモンスターがいなくなったわけじゃありません。ただ、あの頃より モンスターもおとなしくなり、私達のような平凡な人間でも武器を持って立ち向かえるようになりました。
 おかげで、私の店も大繁盛です。お互いが少しずつ身を守るために武器というものはあるのですからね。
「貴方、お疲れ様。そろそろお昼にしましょう。」
 奥の扉から、私の妻、ネネが入ってきました。私がいうのもなんですが、本当に良くできた、自慢の妻です。
 なにせ美しく、気立てがよく、商才があって、我慢強い。それに…おっと、語りだすと夜になってしまいますね。
 ネネには私にはない才能があります。それは、武器の選択に悩む人々や、上達に悩む人々の話を聞いて、よりぴったりな 武器を選別したり、サイズに合わせた武器を見立てる、という特技です。
 もちろん、私を含めた、全ての商人は装備できるか否かを鑑定することができますよ。ですが、ネネはそれだけじゃなく、 その中で、今の体や状況によりふさわしい武器を選ぶことができるそうです。
 それがお客様には大好評でして、お礼にとお金を多めに置いていってくれるお客様も少なくありません。そんなわけで、 お昼からは妻と店番を交代し、私は仕入れとか契約だとかまた別の仕事をするのが私の日常です。
「ありがとう、ネネ。」
 私はそう言って、休憩中の札を出しました。するとネネは微笑みながら手に持っていた紙を見せます。
「貴方、倉庫の整理をしていたけれど、ちょっと武器の数が合わないの。よければあとで調べてくれるかしら?」
「わかったよ、ネネ。今日は急ぎの仕事はないからね。…ポポロはどうしたんだい?」
 ポポロは私の自慢の息子です。明るく賢く優しくて元気で可愛い。私に似ていないとよく言われますが、ネネに似たのでしょうね。
「さぁ…そういえば朝から姿を見ないわ。でもすぐに帰ってくるはずよ。」
 そうして二階にあがります。すると、ネネは少し顔をしかめました。
「…あら?お弁当、どこに置いたかしら…?」
 こういう仕事をしていると、途中で客に呼び出されたりすることがあります。だからネネは毎日お弁当を私に作って、お昼は それを一緒に食べることにしているのですが…そのお弁当がどこにもありません。
「もしかしたらポポロが持ち出したかな?」
 私はそう言うと、外に出てポポロを呼びました。すると、近所の人が不思議そうにこちらに話しかけてきました。
「おや、トルネコさん。ポポロなら朝、大きな荷物を持って、友達と外の方へ遊びに行ったよ。ピクニックじゃないかい? …てっきりトルネコさんが一緒だと思ったんだけどな。」
 不思議そうに首をかしげるのを見て、なんとなく嫌な予感がしました。
 …長い人生で、こういう予感を無視するとろくなことがありません。私はすぐに家に帰ると、支度を整えることにしました。
「…そんなわけで、ポポロを探してくるよ。入れ違ったらおとなしく家で待っているように行っておくれ。」
「わかったわ、貴方。ポポロをよろしくね。」
 そういうと、ネネはお弁当を手渡してくれました。おそらくポポロたちの分のお昼を適当に詰めたものでしょう。まだほんのり 暖かいお弁当がさめないうちにポポロを見つけたいものです。
 手を振るネネに手を振り返し、私はポポロを探すためにいろんな人たちに話を聞くことにしました。


 だって悔しかったんだ。
 父さんは本当に、本当に凄い人なのに。
 父さんは世界一の武器屋で、勇者の仲間で、世界を救った人なんだ。
 なのに、なのに皆言うんだ。
「ポポロのうそつき!」
「お前の父ちゃんが勇者の仲間なんてあるわけないよ!」
「そうだそうだ!でぶっちょの癖に!」
「商人が魔物を倒す役になんて立てるわけないよ!!」
 そんなことない、本当なんだ。そう言っても誰も聞いてくれない。本当なのに、ちゃんと本物の勇者にも会って、 そう言ってくれたんだと言っても誰も信じてくれない。仮に信じてくれても、意地悪な顔をしてこう言うんだ。
「仮にそうだとしても、どうせ足手まといだったに決まってるよ。お前の父ちゃんが戦ったって、足がもつれてこけるだけだよ。」
「そんなことないよ!父さんは、一人でも頑張っていろんなことをしたんだから!!僕、いろんな 話を聞いたんだもん!!」
 僕がそう言って泣くと、誰かがこう言ったんだ。
「じゃあ、お前が証明してみろよ。お前は勇者の仲間の息子なんだろう?だったらお前だって強いはずだ。」
「そうだそうだ、見せてみろよ!!」
「俺達に見せろよ!!証明しろよ!!」
 皆が馬鹿にしたようにそう言うから、僕は絶対に引くわけに行かなかったんだ。
「わかったよ、皆に見せてやるよ!!」
 僕は怖かったけど、うちからナイフとかいろんなものを持ち出して、皆と一緒に来たんだ。
 父さんが何度も話してくれた、女神像の洞窟に。
 いろんな仕掛けがあったけど、父さんが教えてくれたことを思い出して、僕は迷いもせずにその仕掛けをといた。
 皆の視線が気持ちよかった。モンスターはほとんど出なかったし、出ても僕達がわいわい騒いでいるのを見ると、 すぐにどっかに言ってくれたんだ。
 女神像のところまで行ったら、お弁当を食べて引き返そうと、思ってたんだ。

 皆震えてる。僕がなんとかしなくちゃって思うのに、僕も動くことなんてできない。
 僕達が登った階段の周りに、いっぱいのモンスターがこっちを見てる。このまま食べられてしまうんだろうか。
「ママ…。」
 誰かが涙声でそう言った。その声を聞いたら、僕も泣きたくなった。
「お父さん、お母さん…。」
 僕がつぶやくと、皆泣き出した。僕の目からもどんどん涙が出てきた。
 すると、涙でにじんだ向こう側に、何か綺麗な光が見えた。
 僕は驚いて、涙をぬぐうと、いたはずのモンスターの数が減っている。どんどん、光に消されていっている。
 皆もそれに気がついたみたいで、泣き止んで目を丸くしている。
 光はゆっくりとこっちに近づいてきた。そして、とっても聞きたかった声がした。
「ポポロ!!」
「お父さん!!」
 鉄のエプロンをつけて、正義のそろばんを振り回しながらやってきたのは、僕のお父さんだった。
「お父さん、お父さん!!」
 お父さんは周りのモンスターをあっという間に消すと、僕達のところまで走ってきてくれた。
「ポポロ大丈夫かい?」
「お父さん、お父さん、おとうさぁん…!」
 僕はお父さんにしがみついて泣き出した。とっても、とっても怖かったから。そして、安心したから。


 それから僕達は、お父さんにみっちり叱られた。大人に黙って子供だけで外に出たこと。お店の物を持ち出したこと。 使えない武器を持っていったこと。危ないことをしたこと。そして一通り叱られた後、お父さんは皆の頭を一人一人撫でていった。
「それじゃあせっかくだから、終点まで行ってお弁当を食べようか。」
 お父さんがそう言うと、皆のおなかが鳴った。もちろん僕も。すっかり忘れてたけど、僕達はおなかが減ってたんだ。
 僕がお父さんにもともとそうする予定だった、と言うと、お父さんは楽しそうに笑った。
「あっはっは、残念だけどあの女神像は私が持ち出してしまったから、もうないよ。」
 お父さんがそう言うと、皆笑った。そんなことすっかり忘れていて、僕は恥ずかしかった。
 そして皆で元々女神像があったところでお弁当を食べた。僕が持ってきたお弁当と、お父さんが持ってきたお弁当を 皆で食べて、とってもおいしかった。
 帰り道、時々モンスターが出たけど、お父さんがあっという間に全部消していった。
 無事にエンドールについて、お父さんは皆を家に送っていった。そして二人っきりになったとき、お父さんが聞いてきた。
「ポポロ、どうしてこんなことをしたんだい?」
「…皆が、お父さんがうそつきだって、勇者と一緒に旅したなんて嘘だって言うから…。」
 ぼそぼそとそう理由を言うと、お父さんは僕の髪をくしゃくしゃにした。
「あはははは、そう見えないのは仕方ないなぁ。」
 そう笑うお父さんには言えなかったけど、僕はね。
 さっき光の中から出てくるお父さんが、本物の勇者様に見えたよ。



 トルネコさん主役のお話です。星の導く〜の本編ではほぼ完成しているのでほとんど触れられなかった人ですが、 やはり難しかったです。
 10万ヒット記念のときにいただいたリクエスト…のつもりだったのですが、旅立ち前だったんですね。りりん様ごめんなさい。
 ちなみに蒼夢は不思議なダンジョンやったことがないので、ポポロとかこんな感じが危ういです。

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