螺旋まわりの季節
〜 紅葉のさす影 〜

「どうしたのかしら、ミネアさん…」
「さあ?夏休みの終わりから、様子がおかしいのよね。」
 ぼんやりとお弁当を食べているミネアを見ながら、ぼそぼそと話すアリーナとマーニャ。 だが、すぐ近くの二人の声も、ミネアには聞こえていない。
「…眼も腫れていらっしゃるようですし…心配ですね。」
 クリフトの言葉に、マーニャが苦笑いをする。
 本当はなんとなく予想していた。おかしくなったのは、あのお祭りの後だったからである。
「ま、女には色々あるのよ、きっと。」
 お弁当をぱくつきながら、言ったマーニャの言葉に、ラグは頷いた。
「僕たちに話したかったら、きっといつか話して下さいますよね。」
「…そうね。」
 そういいあう言葉にも反応せず、ミネアはぼんやりと空をみつめている。
「…ただ、揚げ物だけは作らないで欲しいのよね。あたしが作ってもいいんだけど。」
「あ、マーニャさんって料理できるの?」
「一応ね。結構おいしいのよ。ただ、ミネアが『見てて怖い』って言ってあんまり作らせてくれないのよ。」
「でも、今でしたらマーニャさんが作られたほうがよろしいのでは…」
「そうしたいんだけど、最近結構遅くまで学校にいるからね。」
 クリフトの言葉にマーニャがため息をつく。
「そうね、あの取材陣、大変だものね。」
 新学期になって、マーニャへの取材が学校へ殺到している。登校時、授業時間の取材は認められていないので、 必然的に取材は夜となり、帰りが遅くなるのだ。
「そろそろおしまいだと思うんだけど…うっとうしいわ。」
「でも凄いですよね、マーニャさん。新聞にも載ったんでしょう?」
「…あんたもね、ラグ。」
「そうなんですか?」
 ラグが首をかしげる。
「おもいっきり来てたわよ、あんた気がつかなかったの?」
「…そういえば、二、三回、知らない人が剣道場に来て、色々聞かれたような気はしましたが…」
「それが取材って言うんじゃない?」
「あれ…僕の取材だったんですか?全然気がつきませんでしたけど…」
 ラグの言葉に皆が笑った。
「今度新聞を切り取って持ってきて差し上げますよ、ラグさん。」
 クリフトの言葉にラグが礼を言った。

「そう言えば最近マーニャさん、お化粧薄めよね?取材の為?」
「うーん、まあ、それもあるんだけど。」
 曖昧に笑う、マーニャの耳元で、銀のピアスはささやかに鳴った。


 空の色。今は夕昏が一番嫌いだった。
 捨てる事も、つけることもできない、買ったばかりのアクセサリー。
 それでも、見つめずにいられない。
「姉さん、これ、持っていってくれない?」
 父の着替えを姉に渡す。姉はため息をついた。
「…火の元にだけは、気をつけてよね」
 そう言うと、姉はそっと扉を開けて出て行った。
(姉さんはなんとなくわかってるんでしょうね…それとも、 オーリンに恋人がいたことも、知っていたのかしら…)
 気持ちがずん、と沈む。泣いて泣いて、一晩中泣いて。それでも忘れられない恋慕を どうしたらいいのだろう、と。
 夕昏の指輪を取り出す。見るたびに泣きたくなる。放り出したくなる。…それでも、 捨てられなくてそっと、宝箱の中にしまった。

「ただいま」
 どこか皮肉めいた、姉の声がした。
「お帰り、姉さん。お父さんどうだった?」
「…困ってたわよ。部下が一人使いものにならないって。」
「ね…」
「で、ごはんなあに?」
 皆まで言わせず、マーニャは声をあげる。
 ゆっくりと悩めばいいと思う。
(それが、姉心ってもんよね。)
 聞きたそうにしている妹の髪をくしゃくしゃと撫で、マーニャは食卓についた。




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