螺旋まわりの季節
〜 神の帰る日 〜

「姉さん、姉さん、姉さん!!!」
「ミネア…無事だった?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
 抱き合う双子を見ながらほのぼのとなる。
「いいのよ、そんなこと。それよりなんか襲われたって聞いたけど?」
「平気。アリーナさんやクリフトさん、ラグが助けてくれ…あ。」
 ライアンを見上げてミネアが口を止める。落ちていた鉄の棒を思い起こしながらライアンがため息をついた。
「剣術をそんなことに使うのは良くないが…」
 だが、ラグは堂々と言う。
「大切な人を守れない技術なら、それは必要のないことだと思います。」
 後悔してませんと笑うラグはとてもまっすぐだった。
「ああ、そうだな。」
 全く持ってそのとおりだとライアンは思う。事実教師でありながら自分は人を殴ったのだから、余り いえる筋ではないだろう。
「マーニャ様がお世話になりました。」
 オーリンが進み出て、ライアンに頭を下げる。
「いや、こちらこそ私の生徒が世話になりました。…できれば今日の事は内密に願いたい。」
「いえ、こちらこそ、そもそも私達の会社の問題でしたから…」
 大人が大人の話をしている横で、マーニャは相変らずミネアを抱きしめながら、四人の方を向いた。
「ありがと、あんたたち。ずっと何も言わなかったのに、助けてくれて…って、あれ?」
 見覚えのある、一人の女生徒。だが、名前の知らない少女。

「初めまして…って言うのも変ですね、マーニャ先輩。私剣道部のマネージャーでシンシアって言います。」
 はにかんで微笑むシンシア。それを見て、とっさに叫んだ。
「あ、あんたたち、もしかして!!」
「そうよ、ごめんなさい、マーニャさん。私たち探ってたの、マーニャさんがどうしてるか。」
「プライバシーだとは思ったのですが…それでシンシアさんにもご協力していただいたんです。」
 アリーナとクリフトの言葉に続いて、ミネアが耳元で囁いた。
「バルザックの車をパンクさせたのも私なの。」
 ごめんね、姉さん。そう言って泣き笑ったミネアを、マーニャはもう一度抱きしめた。
「ありがとう。ほんとに。」
 たった一人だと張り詰めていた自分に、こんなにも救いを差し伸べてくれる手があった。
「もし、いつかあたしがあんた達のためにできることがあれば、あたしは全力を尽くすわ。約束する。」
 その言葉に、アリーナの顔も歪んだ。
「…そんなことより、無事で良かった…マーニャさん…」
 そう言って抱き合っている二人を、その体ごと抱きしめた。それを優しく見守るラグとクリフト。
「ちょっと悔しいかな。」
 シンシアがつぶやく。ラグは視線だけで続きを促す。
「もし、もっと早かったなら、私もあんな中に入れたのかな。…ちょっと羨ましい。」
 その言葉はとても不明瞭だった。ただ、そこに一つのあきらめを、ラグは感じた。


 それは、晴れ渡る日曜日だった。昼間での部活が終わり、ラグはシンシアに断って一人で学校を出た。
「いい天気…」
 少しだけ寄り道をして、本屋へ寄り、目的地を目指していた。
 それは、本当に良い、秋の午後だった。
「調子のッてんな!てめえなんざ、ただ利用されてるだけなんだよ!」
 そんな怒声が公園から聞こえるまでは。
 そして、それは聞き覚えのある声だった。ついこの間、二人を守りながら、戦ったあの時の声。ラグは公園を覗いてみた。
(…やっぱりあの人たちだ…)
 一人二人いないようだが、八人ほどの私服を着た、あの男たちが、一人の男に突っかかっていた。
「ざけんな!なにもしねぇくせに、えらそばってんじゃねぇ!」
「てめぇなんざ本気の俺らにかかりゃ、クズなんだよ!」
「俺達がこうして頭さげてるってぇのに、なんだんだよ!!」
 すでに殴りかからんとする雰囲気だ。ラグは身を乗り出す。
 だが、つかみ掛かられている男はそれを脅威には感じてはいないようだった。むしろ余裕すら感じられる。
「ならば何故、私に庇護を求める?私はもうじき居なくなるだろう。そして、私はお前達を求めた覚えは無い。 勝手にすればいい。」
 男がその言葉を言い終わると同時に、一人の男が拳を振るった。だが、男はそれをしゃがんでよける。男の拳は反対側に いた別の男にあたった。
(凄い身のこなしだ…かっこいいなぁ…)
 その男は長い銀の髪を流した男は、同性であるラグから見ても美男子だったが、 その外見に似合わず随分と慣ているようだった。
「このように近い場所で拳を振るえば、同士討ちもあるだろう。」
「ざけやがって!」
 そう言いながら別の男が放った拳を、銀の男はすっとよけ、別の男の拳をしゃがんでかわす。
 それはまるで踊るような身のこなしだった。そして銀の男は落ちていた樹の枝に目をつけ、拾い上げる。
 それだけで、男の動きは変わった。正道の構え。見ただけで、相当な剣道の腕を持っているとわかった。
 そこからはまるで子供と大人の対決だった。けっして丈夫ではない枝なのに、その男の腕にかかれば、まるで 竹刀よりも丈夫なようだった。
 容赦なく、面で相手の顔を叩き、胴で相手を吹き飛ばす。その枝一本だけで渡っていく、すさまじい戦いだった。 剣道は基本的に一対一の闘いのはずなのに、この男の手にかかれば、それだけあれば 他には何も必要ない、剣道のみの闘いだった。それだけ、この男の腕が優れているのだ。
 次々と、男達の体に枝を叩きつけ悶絶させる、容赦ない戦い方だった。 剣道は多数相手に戦う事は向いていないとはずなのに、それを男の腕だけで押さえ込んでいた。
 だが。それにも限度があった。
 吹き飛ばされ、去ったはずの一人の男が、銀の男に向かい遠くから割れた瓶を投げようとしているのに、 銀の男は気がついていなかった。
 ラグはとっさに踊り出た。そして持っていた鞄で男の瓶を思いっきりはたく。
「なにしやがんだ!!死ね!!!」
「こんにちは。」
 ラグは笑わずに挨拶してみせた。男はあとずさる。
「てっめ、この間の!まさかつるんでやがったのかよ?」
 その言葉に、他の男達も立ち上がり、後も見ずに逃げ出した。

「…誰だ?」
 銀の男が訝しげにこちらを見る。
「あ、手を出して申し訳ありませんでした。僕、ちょっとあの方々に恨みがあったものですから。」
 ラグが謝ると、男は笑った。
「いや…助かった。手を煩わせたようだな。」
「いえ、お強かったですね。…あ、じゃあ僕、そろそろ行きます。失礼します。」
「ああ、すまなかった。今度会ったら礼でもしよう。」
「いえいえ、それでは。」
 ぺこり、と頭を下げて、公園を去っていくラグ。銀の男はそれを見送ると、公園の反対側へと歩みだした。




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