螺旋まわりの季節
〜 朧の未来 〜

「私が、ですか…?」
「うん、そうなの。その場の展開で、つい、お父さまに言っちゃって。」
 アリーナが旦那様に呼び出され、しばらくした後。突然アリーナが自分の部屋に尋ねてきたのだ。 そして、言った事は…旦那様に自分とアリーナが想いあっていると告げたという事実だった。
「それでね、お願いなんだけど少しの間でいいからお父様の前で、私と付き合っているって言って欲しいの。 そしたら、お父さまもお見合い諦めてくれると思うの。」
 アリーナにはその自信があった。父はあのあと笑ってこう言ったのだから。

「…そうか…クリフトとか…はっはっは、それは気が付かなかったな。考えてみれば 若い男女がいつも一緒にいるのだ、それも当然だろう。」
「そうよ、私、本当はずっとクリフトのことが好きだったのよ。だから…」
 そう言って見合い話をなかった事に持ち込もうとするアリーナに、父はにやりと笑った。全てを見通すように。
「…だが、それはお前の独りよがりではないのか?…二人は想いあっておるのか?」
「そ、そうよ…」
「まぁ、私も鬼ではない。お前達が真に想いあっているのなら、この縁談は断ろう。今度クリフトと二人で 私の前でそう言いに来るがいい。…だが、アリーナ。もしそれが虚言だというなら、なんと言おうと 見合いをしてもらおう。」

 これはチャンスだった。一度断ってもらいさえすれば、少しの間だけそう言ってもらいさえすればいいのだ。 その後ばれたとて、同じ相手に見合いをもう一度申し込むわけにはいかないだろう。
「ね、クリフト、お願い。クリフトだって私が売られるなんて酷いと思うでしょう?」
 アリーナが頼み込む中、クリフトはただひたすら唖然としていた。いくら優秀なクリフトとはいえ、すでに飽和 状態だ。アリーナの見合い。その相手のライザットの情報。そしてアリーナの頼みごと。
「…アリーナさまはどうしてお嫌なのですか?」
 そんな中搾り出したのは、自分の中から出てきた理性。そして常識だった。
「どうして…って…」
 戸惑うアリーナに優しい声で問い掛ける。
「旦那様はアリーナ様の幸せを願っていらっしゃいます。相手はきっとよい方ですよ?それでなくても、逢っていないのに 判らないじゃありませんか。せめて見合いだけでもされたらいかがですか?」
「いやよ!私、お父さまの道具になるのは嫌!他のことならともかく、結婚なんて!!」
「旦那様のことをそんな風におっしゃるのは良くありませんよ。」
 あくまで正論なクリフトに対して、アリーナは頭に血がのぼってくる。
「クリフトはお父様の味方なのね!わ、私がお父様の道具になって、誰と結婚したっていいって言うのね?!」
「アリーナ様…そうではなく…旦那様には旦那様の考えがあるはずです。それが、アリーナ様を不幸 にさせる事では決してありません。よく、お考えになってみて下さい。」
 もしそうなら、自分と好きあっていると嘘をついても見合いを続行させるはずなのだから。だが、思わぬ 見合い話に怒り狂っているアリーナには話が通じない。そして、こういうときの女性に理屈で語っても 無駄だとわかるほど、クリフトは女性に精通してはいなかった。
「クリフトは私より、お父さまを選ぶのね!!!!」
「アリーナ様、そうではありません…」
「じゃあ、クリフトはどうなの?お父様が見合い相手を探してきたら…なんの疑問も持たずに結婚するのね?!」
 そう言われて少し考えた。自分を息子同様に扱ってくれている旦那様が、そう言う話を持ち出してきても、おかしくない。
 胸に、重いものがのしかかるのをクリフトは感じた。だが、その原因に気が付かないクリフトは、故意にそれを無視した。
「それならば、旦那様が私のためを思って整えてくださった縁談でしょう。…相手に私などが お気に召すかどうかはわかりませんので一概にどうとは言えませんが、お見合いはしてみると思います。」
 その言葉は、何故かアリーナの心を、見合い話以上にえぐった。
 ほとんど泣きながら、大声で叫んだ。
「クリフトの馬鹿!もう絶交よ!!!!!!!」


「…今度はクリフトさんとアリーナさんですか…」
 ぷりぷりと怒りながらお弁当を食べている横に、クリフトはいなかった。
「…何が原因かは語ってくださらないんですけど…」
 ラグの耳元で、ミネアがため息をつきながらそう言った。
「クリフト先輩は、今どうなさっているんです?」
 あの事件以来共に昼を食べるようになったシンシアがつぶやく。
「ああ、なんか教室で食べてるみたいね。クラスの女子に囲まれて、机の周り凄い事になってたから。」
「ふふ、クリフト先輩は人気ありますから。」
 シンシアの言葉がアリーナの耳に届いた。関心のないふりをしながら、聞き耳を立てる。
「あ、やっぱりそうなんだ。」
「そうよ、ラグ。クラスメイトの中にもひそかに想っている人、多いみたいだもの。私も何度か聞かれたわ。」
「なんて聞かれたの?」
「クリフト先輩はアリーナさんやミネア先輩と付き合っているのかって。」
「…なんであたしが入ってないのよ?なんかむかつくわね。別にいいけどね。」
「姉さんはクリフトさんのファンのおめがねに適わなかったのね。」
「…ミネアのファンにオーリンの事ばらそうか?」
 マーニャの座った目からミネアはふいっと目をそらす。
「…クリフトさん、今ごろ凄い事になっているでしょうね。体育祭の後も、クリフトさんの机の中にはちまきがたくさん 入れられてたっておっしゃってましたし。」
「はちまき?…なにか意味があるんですか?そう言えば、僕の机の中にも入ってましたけど…?」
 不思議そうに言うラグの言葉に、シンシアが少しあせった。
「それ、どうしたの?」
「全部名前の刺繍がしてあったから、机の中に返しておいたよ。なんだったのかな、って思ってたんだけど。」
 マーニャ、ミネア、シンシアの三人が沈痛なため息をついた。相手の気持ちを思いはかってのことだった。
「ねえ、それなんなの?」
 今まで聞いてないふりをしていたアリーナが話に入ってきた。
「あら、アリーナも知らないの?」
 ミネアがにっこり笑って言った。
「あれは、一種の告白なんですよ。」




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