螺旋まわりの季節


 
 ――――――――― 巡る夏があった。

 ふう、と息をついて座り込む。
 そのとたん、後ろから音がした。
 パチパチという音。
「凄いね、強いね。」

 それが、はじまり。


―――――――――― ある、夏の日があった。 

 高い、高い子供の泣き声。
 森のような広い庭。
 大きな木から落ちてきた、子供の泣き声。

 …それが、最初の記憶。


――――――――― 暑くて暖かな、夏の記憶。

 父のおつかい。小さな私と、大きなあの人。
 二人は手を繋いでアイスを食べた。
 …もう、そんな年齢じゃないのに。
 それでも、繋いだ手の汗を、どこか嬉しく思った。


――――――――― 襲い掛かるような巨大な入道雲と、どこまでも澄んだ、蒼い、空。
「…嘘…」
 事実は、2つ。父のサンプルがなくなっていること。
 そして、初恋の人の荷物が綺麗になくなっていること。
 誰か、嘘だと、夢だといって欲しい。
 セミの声が、うるさかった。

 それが、最後だった。


――――――――― 風と共に来る、夏の憂鬱。
 コツン、とペン先で机を叩く。
 判りきった進路の紙。第二、第三なんて用意されてないのに。
 それでも第一に、疑問を持ったことはないから、さらさらとペンを走らせる。
 ふと、ペンを止める。
 …気が付いたら側にいた、あの人。
 今年卒業するあの人は、これから一体、どうするのだろう?


―――――――――ノスタルジックな、セミの声。
 夏は、一番好きな季節だった。
 まだ幸せだった、あの頃を思い出す。
 …そして、今は夏が一番嫌いな季節だった。
 …あの幸せな頃が、憎くて、苦しくて。
 ただ守りたい、人がいるから。それだけのために、生きている。


 
 ―――――――――――――― 風はいつも吹く。

 季節は、巡る。紅がまぶしい秋がきて、白が冷たい冬が来る。
 春に始まる物語。止まった時を動かすストーリー。


 カラーン。
「あ、失敗。上手くいくと思ったんだけど。」
 ごみ箱をめがけて蹴ったコーラの缶は、見事外れて横へとそれる。
 カラカラと缶は道を転がっていく。
 そして、それに気が付いて、追いかける一人の少女の姿があった。

「まったく、あやつはいつまで経っても子供のままなのだ。」
 自らの父と言ってもいい人が、不安そうに愚痴る。
「アリーナ様はあの溌剌さが魅力の一つでもありますし…色々と考えていらっしゃるようですよ。」
 クリフトの言葉に、なおも社長はいいつのる。
「だがな、あのような子供では、アリーナの婚約者が果たして気に入ってくれるかどうか…」
 その言葉に、クリフトの世界は、一気に閉ざされた。

 幼い頃は隣りに歩くのが、夢だったような気もする。
 マーニャはバルザックの腕にするりと腕をまわす。
「…どうしたんだい?マーニャ?」
 バルザックは笑う。その笑みが、マーニャの身体に泥のようにまとわりつく。
「愛してるわ、バルザック。」
 ・・・へどが、出るほど。

 本当は、こんなことをしている暇はないのに。
「あいつら俺らに生意気なんすよ。手を貸して下さい、ピサロ様!」
「たのみますよ、ピサロ様!」
 そういい募られ、ピサロは今日も剣を担ぐ。
 こいつらが欲しいのは、自分の「強さ」と「名前」
 そんな力に踊らされる人間達を、自分は憎んでいたのに。
 確実に感じる「あいつ」の血を、その血が含まれている自分を憎んで、憎んで、憎んだ。

「どうして…」
 泣き崩れた、自分らしくない自分が嫌だった。
 こんなにも、好きなのに。
 側で過ごした時間は、確かに自分の身体に、心に、全てに溶け込んでいるのに。
(もう、一緒にいられない…?)
 その過ごした時間が憎かった。大人になったから、こんなことになるなんて。
 たった一人以外、要らない。たった一人で良いのに。隣りに、いて欲しいのは。
 …それでも、望まれないなら、ただの抜け殻になるしか、ないの…?

「わからないの、どうして、どうしてあんなこと!!!」
 ミネアはたった一人だった。生まれた時からの片割れが、見えない。心も、身体も。
「ねえ、オーリン、姉さん、どうしちゃったの?私、私…許せないのに!!!」
 あの男も。その横で笑う、自分と同じ姿をした姉も。
 縋りついた手に…少しだけ、幸せを感じている、自分も。


「ねえ、お父さま、教えて欲しいの。…クリフトってどんな人なの?」

「…最近は物騒だわ、ちゃんとまっすぐ帰りなさいよ。」

「私、姉さんが好きですから。」

「ほんとは、仲良くして欲しいの。…あの夏に帰れればいいのに。」

「…アリーナ様の幸せが、…私の、幸せですから。」

「お前に、一体何がわかる?!ぬくぬくと大切に育てられながら、偉そうな口を利くな…その顔で!!!!」

「…好きなのに…皆好きなのに…止められない…私…死んだって、きっと一緒ね・・・」

「君を守りたいと思っては、いけない?」


 さやさやと、草が揺れる。ここは、どこか懐かしい場所に似ていた。
「ある意味…貴方は、僕の師匠なんだと思う…」
「…その私に、それを向けるのか?」
 そう言うピサロにはまさに王者の威圧があった。
 それでも、ラグはピサロに木刀を向ける。
「だから、こそ!!!僕は、貴方を越えて見せるよ…今、ここで!!!!」

 夏がきて、秋がきて、冬がきて、春が来て…また、夏が来る。
 くるくると、くるくると。それでも同じ時は二度とないのだと、少年達がそう悟るまで、あと、もう少し。


 そんな訳で長期連載恒例?の予告です。「星の導く…」よりは 短いと思いますけれど。相変わらず予定は未定という事で変更等ございます。ご容赦ください。
 今回はラグ君は主役ですが、脇役的主役です。ラグというキャラクターが勇者の役割である以上「星の導くその先へ」 を連想させると思いますが、ラグのキャラクター以外は無関係だと思ってくださいね。「星の導くその先へ」の 現代パロディ…では、ない予定です。
 今回の主題的主役はラグ以外の高校生の面々になります。マーニャ&ミネア、それと クリフト&アリーナです。(…この世界ではピサロは高校生なのです…でもラグとのからみなので 余りで番少ないかもしれません…)うまくドラクエと現代の融合がはたせたらな、と思っています。また ブライ、トルネコ、ライアンは先生達となって脇役になります。ファンの方、ごめんなさい…

 テーマはべたべたの青春ドラマ、です。では次回より、どうぞご覧になってくださいね。


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