ロトシリーズ20のお題より
 アイテム編20のお題「5:王女の愛」








 アレフは腰を下ろした。どうやら竜王の城への道は、竜王によって封印されているらしかった。そして、 その封印を打ち破るアイテムの名は「虹の雫」。それを手に入るに値するものの証明として、 ロトの印とやらが必要なのだった。
 だが、その情報はない。自分を育ててくれた老人たちなら知っているのかもしれないが、 自分の記憶の中にはそれはなかった。どうやらここで手詰まりなのだろうか。

 そもそもロトの印とやらがどう証明になるのかが、理解できない。
 ロトの血筋とやらが、どれだけ偉いのだろうか。ロトの血筋である自分だからこそだろうか、そう思う。
 ローラ姫が気高いのは王家の血筋とはなんの関係もなく…そして自分が愚かなことに、ロトの血筋は 関係のないことなのだから。
(…わすれて、たんだがな。)
 思い出して苦笑する。思い出すたびにあのみずみずしいまでに美しい姫が胸の中にいたことを思い出す。 姫はいつも美しくて…気高くて。
 …あの恐ろしくも醜い洞窟の中の姫ですら、あれほどに美しかったのだから…
 月が美しいからだろうか。妙に感傷的な気分になった。半ば自虐的に、アレフは荷物を漁って、小さなアクセサリーを取り出した。
 少し幾何学な形をしたそのアクセサリーには小さな宝石がついていた。おそらく売れば高い値で 売れるのだろう、と心にもないことを思って笑う。
「…ローラ。…どうしてそれほど、貴方は強いのでしょうか?」
「それは、アレフ様、貴方という希望があるからですわ。」
 アレフの体が硬直した。ちゃりんと言う音を立てて、地面にアクセサリーが落ちる。
 誰もいないこの大地のどこからか、ローラの声が聞こえたのだ。アレフはとっさに周りを見渡す。
(誰も、いない…よな…?)
「…なんだ…幻聴…か?」
「いいえ、幻聴ではございませんわ、アレフ様。」
 アレフは目を見開いた。声は確かに、アクセサリーから聞こえた。
「ようやく袋から出してくださいましたのね。…ローラの声が聞こえまして?」
「ど、どういうことなのですか?姫!!」
「ローラの魔力とそのアクセサリーは共鳴しておりますの。それが外気に触れれば、ローラの声が空気を 震わすことができますわ。」
(…やられた…)
 この先二度と、これを取り出すことはしないとアレフは誓う。
「姫…もう、夜も更けております。まだ体もお辛いでしょう…どうぞお眠りください…」
「アレフ様…何か、お困りなのではありませんか?」

 ローラの言葉に、アレフは首を振る。
「いえ…姫様のお手を煩わすことではありません。どうか、安心してください。」
「いいえ…アレフ様がなさっていることは、アレフ様一人の問題ではありませんわ。この世界全ての問題ですもの。 よろしければ、お話くださいませんか?」
 ローラの言葉にため息をつく。どうやら諦めてくれそうにない。それに手詰まりなのは確かなのだ。王家の蔵書になら、 なにかヒントがあるかもしれない。
「実は…ロトの印というものを探しているのです。ですが、私にはそれが何かはわからず…」
「ロトの印…かつてルビス様をお救いになったロトの勇者様にルビス様が授けたお守りですわね。…それには 精霊の力が宿ったせいなる守りだと…」
「そうなのですか…どこにあるかは、ご存知ですか?」
「かつて資格なきものに触れられた時に、身を清めるためにどこかへ飛び去ったと伝えられております。」
「場所は伝わっておりますか?」
「少々お待ちくださいませ、アレフ様」

 何をしているのだろうと思った。もう触れてはいけない人。話すことも…してはいけないのだ、本当は。
 それでも、アレフはずっと待っていた。声を聞いただけで弾む胸に素直になれたのは…きっと夜闇の中だったから。
「アレフ様…ラダトームの星占い師の記録によりますと…光り輝くものが落ちた。 北に140、西に80なり…そう、伝えられておりますわ。もしかしたらそれかもしれません。」
「北に140、西に80…ありがとうございます。姫のおかげでロトの印の場所がわかりました。尊き方の お手を煩わせたこと、お詫び申し上げます。」
「そんな…アレフ様がなされていることはこの世界を救うこと。それに協力するのは当然のことですわ。… それに、ローラはアレフ様を、お慕いもうしあげておりますから…」
 ローラの声が震えているのを聞いた。
 手を差し伸べたくなった。愛しくて、恋しくて。目の前にいたら、また抱きしめていたかもしれなかった。
「…お休みください…姫…」
 そう言って、アレフは袋の中にアクセサリーをしまいこむ。
 アレフは立ち上がった。目的を果たすために…守りたいもののために。

 それが、王女への、愛。


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