「な、なんだよ、勇者になれたのだって、父親のコネのくせに!お前みたいな弱虫が勇者になれるなんて、絶対 おかしいんだ!偽者!!」
 少しひるんだように言うギーツに、トゥールは平然と言葉を返す。ギーツのこんな悪口にはすっかり慣れていた。 ギーツはトゥールが嫌いなのだ。
「僕は偽者じゃない。それに意義を唱えるなら王様に言うべきだ。王様は確かに僕を勇者だと認めてくれたんだから。」
 ぐっと言葉に詰まる。そしてふてくされたように、ギーツは吐き捨てた。
「…じゃあ、仕方ないからお前と旅をしてやるよ。それならいいだろ?サーシャ? ただし!オレがリーダーだからな!忘れるなよ!!あと、化け物が仲間なんてまっぴらごめんだからな! リュシアは捨てろよ!!」
 さすがにサーシャが怒鳴ろうとした時、後ろから別の声がした。
「おっと、勝手に決めてもらっちゃ困るな。俺も仲間だからな。」


 振り向くと、そこには先ほどの盗賊、セイがいた。セイは平然とサーシャの肩を抱きながら答えた。
「いやー、すげーな。この馬車。中に乗ってるものも高い値で売れそうだ。これなら強盗じゃなくても取りたくなるぜ。 山賊を呼び込んでるようなもんだ。」
「誰だ!オレのサーシャから手を離せ!!」
 ギーツがにらみつけるが、セイは何も感じないように軽口をたたく。
「ああ、俺はセイ。盗賊ってとこだな。言ったろ?そこの世間知らずそうな勇者さんの仲間だよ。な、サーシャ?」
 親指でトゥールを指差しながら、サーシャの髪に顔をうずめる。サーシャは顔をしかめて抱えた手を退けようと 力を込めて抗議する。
「誰か仲間」
 そのサーシャの口をさりげなく手でふさぐ。そして耳元でささやいた。
「とりあえずそういうことにしとけよ。こいつと旅には行きたくねーだろ?俺は綺麗な女性の味方だからな。」
 サーシャはしばらく考えて頷いた。しぶしぶ手の力を抜く。
「そうよ、セイが仲間なの。だからギーツ、悪いけど諦めて。それにリュシアをはずす気はないわ。ねぇ、トゥール。」
 泣いているリュシアの頭を撫でながら、トゥールは頷いた。
「そうだ。リュシアは僕の仲間なんだ。」
「じゃあ、オレも行ってやるよ。」
 なお食い下がるギーツに嘲笑を向けるセイ。
「馬鹿か、お前。旅は四人までって決まってんだろ?教会なんかにある冒険者用の部屋もたいてい四人用だし、 仕事募集も四人一組が多いんだぜ?平野ならともかく、山道を歩く時にぞろぞろいたって戦いにくいだけだ。まぁ、 キャラバンしかしたことない、ボンボンの商人の坊ちゃんにはわからねーかもしれないけどなー」
 後ろに控えている馬車を揶揄しながら笑う。ギーツの顔は真っ赤になった。
「つーか旅立つってこと、分かってるか?お前が役に立つとは思わないね。俺は5年間、ずーっと旅をしてきたんだ。 旅慣れた人間っていうのも必要だろ?勇者さんよ?」
 そのとおりだったので、トゥールは頷いた。
「と言うわけだ。とっとと引き下がれや。振られ男がみっともないぜ?」
「ふ、振られ…」
 言い募ろうとしたギーツに、サーシャは毅然とした声を書ける。
「ギーツ。貴方のは父親の店を継ぐという仕事があるはずよ。それを捨てる気はないでしょう?さぁ、 この馬車を片付けて。」
「…サーシャ…」
「聞き分けのない男は嫌いよ、私。さぁ、自分の家に帰って。」
 ついっと横を向かれたサーシャの様子に、ギーツは肩を落として去っていった。


 終わったとたん、サーシャは強引にセイの体を引き離す。セイはそれほどその行為を気にしてないようで、 去って行ったギーツの方を呆れた目で見ていた。
「なんだあいつ。」
「あれで毎回懲りないんだから嫌になるわね。下手に商才があるところがまた困ってしまうの。 とりあえず、セイ、助かったわ。」
「いいぜー、オレのサーシャの為だしな。それにこれから仲間になるんだしな。」
 三人は目をみはる。トゥールが問いかける。
「それはさっきのお芝居じゃ?」
「俺も面倒くさいと思ってたんだけどなー、サーシャ以上にいい女はいなさそうだし、他に するあてもないしな。それなら一緒に旅をしてサーシャを落とそうかと思ってな。」
「ギーツと同じ動機ね。」
 冷たく言うサーシャの視線を物ともせず、セイはしれっと言った。
「そりゃ、サーシャが良い女なのが悪い。っと、まぁそれだけじゃない。すぐ出るって事は、この閉鎖大陸から外に出る 算段があるってことだろ?それにご一緒させてもらおうと思ってな。少なくともそっちの子…リュシアだったか? やな色の髪の女でも追い出そうと思ってないだけ、あいつよりはましだと思うぜ?」
「ふざけないで。私たちは魔王を倒す旅なのよ?そのつもりがあるの?いつ裏切るかも わからないのに、仲間になんてできないわ。貴方、洞窟の敵が強かったらそのまま仲間置いて逃げ出す タイプだもの。」
 そういうサーシャのあごを、人差し指で持ち上げて、セイはぐっと顔を近づけた。割って入ろうとする トゥールにも聞こえるように、セイはまじめな顔をした。
「俺はプロだ。そんなことはしない。考えてもみろ、そんな強い敵の前で一人で逃げ出したら、外にも 出られず途中で息絶えるのがオチだ。そんな無謀な真似はしない。まぁ、強そうな洞窟に無謀に 挑もうとするなら、はなっから一緒には入らないぜ?俺は命を共にする気なんかさらさらないからな。でもまぁ、 それなら近くの町で新しい仲間を探すなりなんなりしたらいい。特にデメリットはないだろ?」
 至近距離に我に返ったサーシャに殴られる前に、セイはサーシャを解放して両手をあげる。
「あんたら旅に出た事がなさそうだ。旅慣れた俺が居たほうが良いと思うね。せめて旅慣れる間だけでも プラスになるんじゃないか?それでどうしても信用できないなら、仲間から外せば良い。 リーダーはそこのトゥールなんだし、仲間なんだろ?三人で相談して決めたほうがいいんじゃねーの?」
 そういって、少し離れた場所に腰を下ろした。


「私は反対よ。確かにギーツの事は助かったけど、こんな信用できないの仲間にするのは 絶対やめたほうがいいわよ。」
「でも、セイの言ってる事はもっともだ。僕たちは知識でしか旅するって事を知らない。 そんな僕たちと気まぐれでも仲間になってくれるんなら、良いと思うけど。少なくとも ギーツよりは良いと思う。裏切るって言っても、仲間になって逃げて得するほどのお金は 持ってない。ちゃんと武器防具も持ってるみたいだ。」
 トゥールは真剣に考えていたようだった。あの騒ぎの中、セイの観察をしていたらしい。
「まぁ、サーシャを口説くって言うのは…あんまり良い気持ちしないけど。だから、 サーシャがどうしても嫌だって言うなら考える。」
 サーシャは矛先を変える。
「リュシアはどう?リュシアだって嫌いでしょ?ひどい事言われてたもの。」
 リュシアは少しだけ考える。
「…嫌いじゃない。」
 その言葉に、サーシャはのみならず、遠くで聞いてたセイも驚いた。
「ど、どうして?」
「…言わなかったから。」
「は?何をだ?」
 思わす聞き返すセイ。どうもこの少女は言葉が足りなくて、短気なセイとしては少しいらいらする。
「似てないって、言わなかったから。ママと…」

 血のつながりがないルイーダとリュシア。酒場によその国の人が来て、ルイーダを口説くのはいつもの こと。そしてリュシアという子がいてこういうのもいつもの事だった。
『なんだ、似てない親子だな』そう言われるたびに、切なくて悲しくて。 仕方ないと諦めていたけれど、そう言われなかったことが少しだけ嬉しかったのだ。
「なんだ、当たり前だろ。血がつながってても似てない親子なんて、いくらでもいるんだ。狭い社会だな、 おい。」
 そう言われて少しだけうつむくリュシア。それでも搾り出すように言う。
「トゥールがいいなら、いい。」
「じゃあ、サーシャだけだ。どうする?」
 トゥールに言われて、ちろりとセイを見る。セイは相変わらずひょうひょうと笑っていた。
「…分かったわよ。詐欺師ではなさそうだし。未熟者の勇者見習いの言う事、聞いてあげるわよ。」
 その言葉を聞き、セイはにこやかにこちらに歩いてきた。
「ま、そんなわけで、セイ、盗賊だ。よろしくな。」
「うん、よろしく、セイ。」
 トゥールは笑顔でそれに答えた。

 四人の旅の、始まりだった。


 第一話。どうしても説明が多くなってしまいました。一気に四人、登場人物紹介なんですもん…
 タイトルに偽りありですみません。四人の旅立ちは2話の予定です。。
 それでは、長いお伽話の始まりです。どうぞごゆっくりお楽しみくださいませ。

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