終わらないお伽話を
 〜最初の一手〜




「あら、セイ君、トゥール君の仲間になったのね。」
「ママ!」
 酒場の扉が開き、ルイーダがそこから出てきた。
「ごめんなさいね、ギーツ君はちょっと苦手なの。いえ、ギーツ君はいいんだけど…」
 ルイーダはため息をついた。その様子を見て、セイは近くに居たトゥールにささやく。
「どういうことなんだ?」
「ギーツのお父さん、ギーツが小さい頃、お母さんに逃げられて。 それからルイーダさんに結婚してくれってずっと言ってるんだ…。」
「なるほど、性格も似てるわけだな。」
「…うん、まぁ…」
 二人がそうしている間に、リュシアの側に歩み寄った。
「ごめんなさい、ずいぶん奥深くにしまいこんでたから、探すのに手間取っちゃったわ。」
 ルイーダはそう言って、リュシアの前に手のひらほどの大きさの丸い木片を差し出した。


 古ぼけた木片を、リュシアは受け取る。
 その木片はペンダントか何かのようで、ヒモを通す穴が開いている。大きく彫られているのは、おそらく 手彫りの花の模様。そしてあちこちになにやら文字や文様が彫られている。
 見るとそれは古い物のようで、あちこちかけている。それどころか焦げたりして、あちこち彫られた彫刻が 消えている。
「これは、貴方が一番最初に持っていた物よ。貴方がここから出て行く日に渡さなければならないと 思っていたの。ほら、ここを見て。」
 指差されたのは、小さな文字だった。あちこちがこげてかすれているが、部分部分は読める。
「…リュ…シ…ア…ギ…ド…エ…駄目ね、これ以上は読めないわ。」
 横から覗き込んだサーシャが読み上げるが、それ以上が無理なのは、他の人間にもわかった。
「たくさん欠けてしまっているけれど、リュシアと読めるでしょう?きっと貴方の名前だと思ったの。 だから私は、貴方にリュシアと名づけたのよ。」
「…ママ…」
「忘れないで。リュシアは愛されて生まれてきたの。なぜならリュシアは生まれた親に名づけられたからよ。 いらない子供に名づける親はいないわ。リュシアの名前はリュシアの親がくれた、最大の愛という名の 贈り物の証。それを忘れては駄目よ。」
 リュシアは泣きながらルイーダに抱きついた。
「元気でいってらっしゃい。そして何があっても、元気で一度は帰ってきてね。ママは どんなことがあっても、リュシアのママなんだから。」
 リュシアはこくこくと激しく何度も頷いた。
「さぁ、もう泣かないの。笑顔を見せて頂戴、リュシア。」
 リュシアは涙を拭いて笑う。そのリュシアの頭をルイーダは撫でた。その目は潤んでいた。
「あら、ごめんなさいね。トゥール君、サーシャ君。それからセイ君。リュシアをよろしくお願いします。」
「こちらこそ、リュシアが居てくれるのが心強いです。」
 トゥールがそう答えると、ルイーダは一礼をして酒場に入っていった。


「なるほどね。よかったわね、リュシア。」
 サーシャがそういうとリュシアは頷く。その言い方がおかしくて、セイはサーシャに尋ねる。
「なんか変な言い方だな?」
「この国には人名に長音をつけるという習慣があるの。そのせいでギーツにも色々言われてたし。だから どうしてリュシアなのかしらって、少し思っていたの。」
「でも、オルテガにはねえじゃん。」
「それは父さんは外から来た人だから。」
 トゥールがそうフォローする。セイが何か言おうとした時、リュシアが妙な声をあげた。
「わ…わ…れ…」
「リュシア、どうしたの?」
 トゥールが覗き込むと、リュシアは先ほどの木片の裏側を見ていた。こちらも 相変わらずぼろぼろだったが、そこには不思議な文様…いや、 文字が刻まれていた。古代文字なのか、トゥールには読めなかった。
「…文字が書いてある?」
「ほんと。でも…知らないわ、こんな文字。セイは分かる?」
「いいや、俺もはじめて見た。」
「我…ら…いさ…いち…一族…?」
「リュシア、読めるの?」
 ぼけた古代文字を、とぎれとぎれの文字を必死でたどるリュシアに、サーシャは目を丸くした。
 だが、そこでリュシアの目が止まった。
「…わかんない…」
「そっか、ぼろぼろだし仕方ないか。」
 トゥールはそう言ってリュシアの頭をくしゃりと撫でる。リュシアはほのかに頬を染めて、少し黙った。
 ”我ら一族は、闇の一族なり。”
 読み取れた最後の言葉は、胸の奥へとしまって。


「そういや、ずっと疑問に思ってたんだが…もしかして、お前親を探すために旅に出るとかいうのか?」
 セイがリュシアにそう問いかける。リュシアは頷いた。
「本当の両親、探したい。」
 すると、セイはわざとらしくため息をついた。
「やめとけやめとけ。せっかく育ての親に愛されてるんだ。お前、捨て子なんだろう?さっき ルイーダはああいってたが、んなわけあるか。いらないから捨てられたに決まってる。」
 その言葉に、リュシアの目が一気に涙目になる。だがセイは容赦しない。強い口調で言い募る。
「まぁ、うまくすりゃ死んでるかもな。で、下手すりゃお前の存在が邪魔で実の親から命を狙われるか。 妥当な所では『いまさら何しに来た、金ならない、帰れ』コースだな。」
 涙目で言い返せないリュシアに、流れるようにセイが言葉をつむぐ。
「まぁ、黒髪のあまちゃんが考えそうなことは『ずっと貴方を探していたのよ。愛してるわ』って妄想 してたんだろうけど、なら最初から捨てるか」
「セイ、やめろ。」
 まだまだ話そうとしたセイを、トゥールが鋭い表情で止める。リュシアは泣くのを必死でこらえている。
「リュシアは僕の友達で、大切な人だ。僕がリーダーだとか偉そうな事を言うつもりはない。けどそれを 傷つけるつもりなら、仲間には入れられない。」
「俺は事実を言ってるだけだ。間違った事はいってない」
「それが事実かどうか、セイは本当にわかるの?リュシアの両親にあったのか?なら謝る。でも 違う。なら、それは妄想と同じだと僕は思う。」
「…悪かったよ。」
「僕に言われても困る。リュシアに言って。」
 トゥールの言葉に、すっかり後ろにひっこんでいたリュシアに、乱暴の言葉を投げる。
「悪かったな!」
 謝ってるのかどうなのか分からないセイの言葉に、リュシアは頷いた。


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