「せっかくだから聞いとくか。」
 少し暗くなった場の雰囲気を物ともせず、セイは話題を変えた。
「で、まぁ結局、そこの勇者さんは良いとして、サーシャは何のために旅立つんだ?」
 セイの言葉に、サーシャは胸をはって言う。
「私、賢者になりたいの。悟りの書を手に入れてね、ダーマの神殿で転職したいのよ。」
 賢者の事は噂に聞いていた。ダーマの神殿で悟りの書を読み、認められる事でなれる上級職。 賢者となったものは、本来許されない魔法使いの攻撃呪文、僧侶の癒しの呪文の両方の魔法が使える ようになるという。
「へぇ。そりゃご立派だな。」
 そしてサーシャは祈るような表情でつけたした。
「それと、オルテガ様をみつけたいの。必ずどこかにいらっしゃると思うから。」
「死んだんじゃないのか?」
「噂ではね。でも、誰もご遺体を見ていないの。もしかしたら生きているかもしれない。だから探したいの。必ず。」
「父さんはサーシャの初恋の人だから。」
 トゥールがそう付け足した。
「なんだ、なら俺がその想いを忘れさせてやるぜ、サーシャ。」
「生憎様。忘れるつもりなんかないわよ。オルテガ様ほど素敵な方はいないんだから。」
 にっこりと笑うサーシャ。その自信満々な笑みに、すこしセイは苦笑した。


「さて、そろそろ出ないと旅立たないと。」
「あー、その前に、一個やり残した事があるんだが、付き合ってくれねーか?」
 セイが意外な声をあげる。サーシャが聞き返す。
「やり残した事って何よ?」
「つーか、何しにここに来たか、すっかり忘れてた。トゥール、お前の仲間ってことなら城に入れるか?」
「いいけど…どこに行くのさ?」
 トゥールが少し困惑しながら聞いた。
「ああ、ちょっと牢屋へ。」
「「牢屋!?」」


 地下にある牢屋への階段を降りながらトゥールは少し疲れたように言う。
「…そりゃそうだよ。」
「ったりめーだ。誰が牢屋の中に入りたいっつった。俺は面会したいだけだ。」
「…つかまるような知人がいる人間を仲間にして、本当にいいの?」
「…不安」
 サーシャの言葉に、リュシアがぼそりとつぶやく。トゥールが見張りの兵士に挨拶して、中に入る。
 セイはへらへら笑いながら、何人も居る囚人のうち、赤毛の囚人に親しげに話しかけた。
「よぅ、赤銅の。元気か?」
「白刃!てっめえ、何しにきやがった!!」
「そりゃ、つかまった間抜けな知人を笑いに来たに決まってるだろ?」
「っけ、帰れ帰れ!お前に話すことなんてなんもないね!!ああ、でもあれか、お前の悪事をこの場で 話せば、お前もここの仲間入りできるかもな!」
 赤銅と呼ばれた囚人がそう言うと、セイは自慢げに笑った。
「はっはっはー、そうはいかねえよ。なんたって俺はこの国ご自慢の勇者様ご一行だからな。 勘違いして城に入り込んだあげくつかまった間抜けな囚人と勇者様の仲間、 どっちが信用されるかなんて分かりきったことだぜ?何なら刑期5年くらい延ばしてやろうか?」
「え、ちょっと待てセイ。僕そんなこと…」
 トゥールの抗議はセイの視線に止められる。
「はぁ?白刃が勇者の仲間?…世も末だな。」
「失礼だな。俺は生まれてこの方、仲間を裏切った事はないぜ?んなことより、鍵だ。結局どこにあるんだ?」
「「鍵?」」
 トゥールとサーシャの声がはもる。だが、セイにも囚人にも明らかなことのようで、話はどんどんと進んで行く。
「っは、だーれがお前になんか教えるかよ。」
「まぁ、期待してなかったけどな。どうせ知らないから城に忍び込んで捕まったんだろうしな。俺は ただ間抜けな赤銅のバコタを笑いに来ただけだ。」
「だ、誰が知らないって?!んなわけないだろ!別に城にあると思ったわけじゃない!この城から入り込めるって…」
 怒鳴ろうとした囚人の言葉を笑って止めるセイ。
「あー、無理しなくていいぜー。まぬけなバコタに期待するほど俺は馬鹿じゃない。まぁ、せいぜい10年くらい入っといて くれや。俺は明日にもここを出て行くけどなー。」
「このバコタ様が知らないわけないだろ!鍵はこの城の地下からつながってる塔にあるんだよ!!」
 怒鳴ってから、悔しそうに口をつぐむ。セイはにやりと笑う。
「おう、さんきゅー。ま、何もできないがお前の囚人ライフが悪くない事を祈るぜ。さ、行こうぜ勇者様ご一行よ。」
「ちくしょーーーーー」
 囚人の怒鳴り声を背に、四人は城を出た。


「で、盗賊の鍵って何よ?」
 城から出たとたん、サーシャの厳しい視線にセイは方をすくめる。
「昔ど偉い盗賊が造ったっていう、伝説の鍵だ。簡単な鍵なら開けることができるらしいぜ。 それがこのアリアハンにあるってさっきのやつから聞いて、俺は場所を探ってたんだ。」
「で、それを使って盗みに入ろうって言うわけ?」
「いーや、俺の得意分野はどっちかというと遺跡の宝だからな。それにこれからの旅をするのに役立つと 思うぜ?なぁ?」
 セイはそうトゥールに問いかけた。トゥールはなにやら考えているようだった。なにやらまだ疑っている サーシャが、冷たく言う。
「それでそれを手に入れたら持ち逃げするつもり?」
「…僧侶ってのは、仲間を信じないのか?世界的にも勇者ご一行が管理してた方がいいんじゃねーの?」
 そう言われて、少し反省した顔をするサーシャ。トゥールはくすりと笑って頷いた。
「わかった。城からつながっている塔っていうのは、多分ナジミの塔だと思う。たしか半島の洞窟からも つながってるって聞いたことある。そっちから行こう。」
「了解。んじゃ、行くか。」


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