終わらないお伽話を
 〜 うつせみの 〜



 夜が明けて、ジパングは祭の空気に満ちていた。
 秋の豊穣の祭。長い間自分たちを苦しめていた化け物から解放された祭。そして、まやかし が晴れ、真実の目覚めを祝うお祭だった。
 日巫女…ヤマタノオロチが倒され、人々はまやかしから解放された。そして、屋敷に勤めていた者たちが 語ったトゥールたちの討伐劇は、まさに神話のように伝えられ、あっという間に国中の人々へと広がった。
 中央では篝火が焚かれ、瓶に酒が用意され、人々は着飾り、楽しげに歌を歌い、舞を踊る。
 全ての災いから解放された人々は、晴れ晴れとした表情で、酒を飲み、食べ物を食べ、 幸福に酔っていた。


「まぁ、大変お綺麗ですよ。」
「有難うございます。」
 着なれぬ衣装を着せられ、サーシャは少し不器用に笑った。
 ここは、元ヒミコの屋敷。一番立派な一郭は、ヤマタノオロチのせいではかいされたが、幸運なことに他の 場所は被害がなかった。今サーシャが着せられている紫紺の衣装もヒミコのための衣装だったらしい。
 すこし不思議な形に結い上げられた青い髪と、それに合わせて付けられた勾玉の飾り。異国風の装束はサーシャの美貌を 良く引き立てた。

 そのまま外に出ると、すでに着付けられたリュシアがいた。髪の長さの分だけ早かったのだろうか。深い緑の衣装が リュシアの愛らしさを引き立てていた。
「サーシャ、綺麗。」
「そう?ありがとう。リュシアも可愛いわ。…このキモノってなんだか変な感じね、歩きにくいわ。」
 そう言いながらもひらひらと動くサーシャは、まるで夜の海の波のように美しかった。
「あ、もう来てたんだ。二人とも早いね。」
 木の下に座っていたトゥールが立ち上がった。トゥールが身に付けているのは白地に青緑の文様がはいったキモノだった。 さすがに短い髪を結うわけにもいかず、頭はそのままだったが。
「…トゥール、かっこいい。」
 リュシアが見とれながらそう言った。
「そうかな?なんだか落ち着かないんだけど。リュシアも可愛いよ。」
「セイは?一緒じゃないの?」
 サーシャの言葉に、トゥールは首をかしげた。
「いや、セイ、どこかに行ってしまったから…色々あるんだと思うよ。大丈夫かな。」
「ここが、故郷だものね…。もしかして、ここに残るなんてこと、あるのかしら…。」
 サーシャの言葉に、トゥールは少し難しい顔をする。
「そうだね…弥生さんもいるし、そうなる可能性もあるのか。辛いね。…もしそうなっても、サーシャは一緒に旅をしてくれる?」
 トゥールはサーシャに顔を寄せて、真面目な顔をしてそう言った。サーシャは顔を背ける。
「当たり前でしょう?トゥール一人になんて任せて置けないわよ。頼りないんだから。それにオルデガ 様を探さなくちゃ。私は、まだ…諦めたりしてないのよ。」
 その言葉にトゥールは暖かな笑顔になる。
「…良かった。リュシアも、一緒に旅をしてくれるよね?」
 リュシアはこくんと頷き、その長い袖をつかむ。
「…トゥールは頼りなくない。…リュシアはずっと一緒。」
「ありがとう。」
 当たり前のようにそう言われた事が、リュシアには少し複雑だった。


「皆さん、ここにいらしたんですか。」
 その声に振り向くと、両手に袋を抱えて弥生が立っていた。
「弥生さん、セイは知りませんか?」
「もうすぐ来ると思います。それまでどうかこちらでお待ち下さい。」
 四人は篝火を見ながらセイを待っていた。間を持たせるためか、弥生が口を開く。
「…髪が空の色ですね。サーシャさん。着物を着ていらっしゃるとなんだか不思議な感じがいたします。とても お似合いですけれど。」
「やっぱりここにもセイのような髪は珍しいんだね。」
 トゥールの言葉に、弥生が頷く。
「はい、今は外から布教にいらしたガイジンがいらっしゃいますけれど、ここで生まれた人間で 兄様の髪のような者はおりませんでしたから。…父と母は気持ち悪いと言っていましたし…。」
 弥生は顔を暗くする。だが、サーシャがいたわるように優しく。
「けれど弥生さんはそうは思わなかったのね。セイが好きだったのでしょう?」
「はい、私は兄様の髪が羨ましかったんです。兄様の星のような髪色は、 鴉の濡れ羽色よりもずっと素敵なんじゃないかって思っていました。」
「カラスノヌレバ色?」
 リュシアが首をかしげると、弥生が笑う。
「濡れている鴉の羽のような艶のある黒い色という意味で、この国では髪の色に 対する最高のほめ言葉なんです。」
 弥生がそう言った時だった、村の中央から、歓声があがった。
 四人が振り向くと、そこには、着飾った弥生の両親と…ジパングのキモノに身を包んだセイがいた。


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