「二人してなにしてるのさ?」
 予想通りのトゥールの声に、セイはリュシアの頭から手を離す。
「いや、サーシャの話を聞いてたんだよ。やっぱり口説き落とすには情報を集めないとな。」
「…無駄だと思うよ、僕。」
 トゥールが笑いながらそういう。セイも笑う。
「で、どうしたんだ、トゥールは。」
「うん、僕食事当番だからこれから食事作るんだよ。」
 その言葉に、リュシアが小さく手を上げる。
「あ、リュシアも手伝う。」
「サーシャがお礼に手伝ってくれるっていうから今日はいいよ。最近僕の当番の時はずっと手伝ってくれてたし、 言っておこうかなって。」
「…そう。」
「ありがとう、リュシア。リュシアはいい子だね。」
 そう行って頭を撫でると、トゥールはそのまま笑顔で台所へと入って行った。


 リュシアは撫でられた頭を抑える。そのまま静止しているリュシアに、セイは声をかける。
「どうした?痛かったか?」
「セイも、さっき頭撫でた。」
「嫌だったか?悪いな、小さい頃弥生をよくそうやって撫でたし、癖なのかもしれねぇな。」
「…やっぱり、…リュシアは妹…?」
「あ?」
 見るとリュシアは少し、泣きそうな顔をしていた。
「…トゥールは、…妹だって思ってる…かな…、リュシアの事…。」
 消えてしまった背中をじっと見つめながらリュシアはそう言う。
 その声に、にじみ出る恋心を感じる。少しの切なさ、そして愛おしさ。聞いているだけで胸が 詰まるような声だった。
「…リュシアは、そうじゃないのに…。一番になりたいのに…。」
「大丈夫だろ。」
 泣きそうなリュシアの声が辛く、セイはその言葉を搾り出した。
「…そう、かな。」
 不安げな表情を浮かべるリュシアに笑って欲しくて、無責任だと分かっている言葉を口にする。
「だろ。今だって一番近くにいるじゃねーか。サーシャだって照れてるだけだって言ってたぜ? トゥールもきっと同じ風に思ってるって。少なくともリュシアのことを大事に思ってるのは確かだしな。」
 リュシアの顔がぱっと明るくなる。頬が薄紅に染まり、黒い瞳はきらきらと輝く。それはそれは愛らしい笑顔だった。
「本当?もし、好きって言ったら…応えて、くれる、かな…?」
「きっとな。そう思うぞ。大丈夫だ。」
「ありがとう、セイ!リュシア、頑張る!きっと、ずっとトゥールの一番側にいられるようになる。」
(何を言ってるんだ、俺は…。)
 きゅ、と両手を握り締めているなにやら決意を新たにしているリュシアの横で、セイは自己嫌悪 しながら胸を痛めた。



 エジンベア城。堅牢にして雅。装飾と実用を兼ね備えた歴史ある城だった。
 民衆に広く親しまれていたアリアハン城は、昼にもなると様々な人間が出入りしていたが、この城には 出入りしようという気さえ怒らないほど静まっていた。
「なんだか威圧感があるわね…。」
「まぁ、王の居城としてはむしろこっちの方が正しいんだよ。」
「そう言うものなのかなぁ…?」
 トゥールはそう言って、門の前でいぶかしげにこちらを見ている兵士へ足を進めた。
「すみませーん、城に入りたいんですけど…。」
 トゥールの言葉に、兵士の眉があがる。
「ん?王の許可はもらってるのか?」
「いえ、ないですけど…。」
 トゥールの全身をなめるように見つめ、兵士は言いはなつ。
「ここは由緒正しきエジンベアの城、田舎者は帰れ!!」
「はーいはい、すみません、こいつが失礼を。ほら行くぞ!」
 セイがトゥールの首を腕でしめ、耳元でささやく。
「無理だって言っただろうがよ。」
「やって見ないとわからないじゃないか。それに無断で入るのも失礼だよ。」
「んなこと言ってたら盗賊ができるか!二人ともこっちこい!」
 トゥールの肩を押さえ込んで、物影へずりずりと引きずっていくセイ。サーシャとリュシアが微笑しながら後を追った。

 近くの木陰で押さえ込まれながら、トゥールはセイを見上げる。
「なんだよ、僕もセイももう盗賊じゃないじゃないかー。だいたい城の中に入って知らない人間が歩いてたら 怪しまれるんじゃないの?」
「入っちまえばなんとかなるもんなんだよ!お前は勇者なんだしいくらでも言いつくろえるだろうが!」
「それって嘘つきじゃないか。というか不法侵入だよ。」
「勇者ってのは古来からそう言うもんなんだよ、諦めろ。」
 セイはトゥールの荷物袋から強引に消え去り草を取り出す。
「ドキドキする。消えるの。」
「本当に消えるのかしらね。」
 ちょいちょい、と小さく手まねくセイに誘われ、リュシアはトゥールにぴったりとくっつき、サーシャは そのリュシアにぴったりとくっついた。
 セイの手からさらさらと粉末が流れる。四人の体を包んでいくのが分かる。
「んー、良く分からないね。消えてる?」
「普通に見えてるわ…よね?」
「一つの消え去り草を四人にかけたからな。多分俺達は見えるんじゃねぇの?これで駄目なら忍び込まないとな…。そんじゃ 行くぞ。」
 息を殺して忍び足。そろりそろりと兵士の前を通るが、こちらに意識を向ける気配さえない。
 四人はそっと兵士の横を通り、急ぎ足で城へと入った。


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