家を出て、トゥールは魔法の玉を凝視した。
「結局なんだろう…、これ。」
「まぁ、俺は商人じゃないから詳しい事は分からないが、珍しいもんであることは確かだな。」
「外、出られる。トゥールのおかげ。」
 にっこりとトゥールに笑いかけるリュシア。その横でサーシャは少し複雑な顔をした。
「でも、結局なんだったのかしらね?あの人たち…」
「まー、いいんじゃねーの?とっととこの大陸から出ようぜ、な、サーシャ。」
 そう言って、サーシャの背中に手を回した。
「っっ」
 とたん、サーシャが顔をしかめ、セイの手を払いのけた。
「…どうした?サー…うわ!」
 とたん、セイが視界から消えた。バタン、とものすごい音がした。すぐ横に神父がいた。
「てっめぇ、何すんだ!!」
 セイが頭を押さえて起き上がる。神父に足を引っ掛けられ、倒されたのだった。
「ひどいな、サーシャ。朝の礼拝の最中にいなくなるなんて。」
「父さん…。」
 それは確かに、アリアハンにいるはずの、サーシャの父親だった。

「…どうしてここに?」
 トゥールの言葉に、サーシャの父が苦笑する。
「サーシャがね、いってらっしゃいも言わせてくれずに行ってしまうものだから。うまく行けばまだ間に合うと 思ってね。」
 サーシャは少し顔を赤くして、ばつの悪そうに父親に言う。
「お別れは夜に言ったはずよ。もう…。」
「私にステラと同じ思いをさせたかったのかい?まぁ、サーシャ。君は神様の子供だから心配はしていないよ。 けどね、親として旅立ちを見送ってあげたいものだよ。まったくルイーダさんもメーベルさんも見送ったのに、 私だけ駄目なんてひどいじゃないか。」
「ママに会ったの?」
 リュシアの言葉に、サーシャの父親は笑う。
「忙しそうにしていたけど、満足そうだったよ。良い挨拶したんだね。」
 その言葉に、リュシアは嬉しそうに頷いた。サーシャはその横でため息ひとつ。そして。
「…父さん、いってきます。」
「いってらっしゃい。立派に自分の使命を果たしておいで。」
 そう言って手を振った。


「…いたたた…この俺が思いっきり地面に頭叩き付けられたぜ…何者なんだ…」
「父さん、若い頃オルテガ様にいろいろ教わってたから、結構強いのよね。もちろんオルテガ様には 全然適わないんだけど。」
 セイの頭にホイミをかけながら、サーシャがそう説明した。何か違和感を感じながら、事情を 聞いてみる。
「なんだ、オルテガの仲間だったとか?」
「それか母さんの方ね。母さん、賢者だったんだけど。オルテガ様がアリアハンにいらした時、 一緒にやってきたのが母さんだったの。はい、おしまい。」
 ぽん、と頭を叩いて治療を終える。
「二人で旅をしてたってことは、恋人だったのか?」
 セイの言葉に、トゥールが笑う。
「母さんが言ってたな。父さんが来た時は国中の女の人が騒いだのよって。でも、すぐ横にいる ステラさん…サーシャのお母さんなんだけど、それがあんまり美人だったからすぐ 諦めるしかなかったのよって。」
 リュシアも頷く。
「ママ言ってた。サーシャとあんまり似てない。でもすごく優雅な人。 でも、優雅なステラさんでも、ママでもなくて、清楚なメーベルさんだったって」
 ぎこちなく話すリュシアにいらだって、セイは怒鳴りつける。
「リュシアの言葉は、わけわかんねぇんだよ!!しっかり話せ!!」
 怒鳴りつけられたリュシアは、トゥールの後ろに隠れた。サーシャはそれをフォローするようにまとめる。
「まぁ、つまり、母さんもルイーダさんもオルテガ様に憧れてたけど、結局選ばれなかったってことよ。」
「はー」
 あの妖艶なルイーダを振るのはいい度胸だと思いながら、セイは生返事をした。
「リュシアだって一生懸命なんだから、あんまり怒鳴らないで欲しいな、セイ。」
「俺は黒髪の女がこの世で一番嫌いなんだよ。 …まぁ、ともかく、日が登りきる前に、いざないの洞窟に向かうぜ。」
 吐き捨てるように言ったセイの言葉に、三人は頷いた。


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