しばらくの沈黙。それはそう重いものではなかったが、心地よいものでもなかった。 「…で、だ。最初の質問に戻るぞ。お前は、トゥールの事をどう思っている?」 「最初の質問の流れでいけば…、私がトゥールの気持ちに応える事はないわ。」 サーシャはきっぱりと言った。 「あっさりと言うな。」 「私は…トゥールだけには、想われたくなかった。」 きっぱりと言った。 「…トゥールの事、嫌いなのか?」 「嫌いじゃ、ないわ。幼馴染だし、尊敬もしている。感謝も。『トゥール』は嫌いじゃないの。… でも…。」 サーシャは手をぐっと握った。その手が震えているのを感じた。 「セイに以前聞かれた答え。私がトゥールを勇者だと認めないわけ。一つはトゥールに こう言いたいから。本当に勇者で良いのか。生け贄として辛くないのか。…誰も止めてあげないから、 私だけでも止めて上げたかった。貴方は勇者でなく、トゥールなんだと言ってあげたかった。…でもそんな 風には言えなかった。私は勇者の元仲間の娘で、アリアハンの子供だから。」 流れるように、吐き出すようにサーシャはまくし立てる。 「…それと、なぜなのか、私には分からない。…けれど、私、は…、認めたくなかった。トゥールが、『勇者』だと 言う事を、どうしても。だって、」 これは、言ってはいけないことだった。誰にも言ってはいけないことだった。…それでも 言わなくてはいけないことだった。 「私は、…私は『勇者トゥール』が…怖いの!」 最後は悲鳴のように、震える声でそう言った。 トゥールは、死人のような顔で別れ道へと戻る。レリーフは引き返す分には何も言わないようだった。 体が重い。静寂に取り殺されてしまいそうだった。それでも、もはや惰性で北へと向かう。 (何、やってるんだろう…僕…。) 誰もいないところで。ただひたすら歩き続ける。…何のために、誰の為に歩いているんだろう?誰のためにも なりはしないのに。 これを徒労というのだと、トゥールは知っていた。いや、道化、というのかもしれない。 (勇者も、同じだよな。誰も知らないところでこうして戦って…死んでいく。 人を楽しませるだけ、遊び人の方が偉いのかも…。) たゆたう闇の中で、そんな事を考える。そして。 ”ひきかえせ” すぐ横のレリーフから、またそんな声がした。 トゥールは一瞬体を振るわせる。 (…ひきかえして、しまおうか。) また、何もないのかもしれない。先ほどのレリーフも言っていたではないか。むやみに 進むのは勇者ではないと。これが勇気の試練なら、行っては失格かもしれない。 (違う…僕は、嫌なだけだ。そんなの、負けるようなものだ。) トゥールは首を振る。心が弱っているのが分かった。無理やり足を動かす。 ”ひきかえせ” 再び声が聞こえる。…その声が、何故か聞きなれた声に思えた。 (…気のせいだ…。気のせい…。) ”ひきかえせ” リュシアの顔が浮かぶ。最後に見た、泣きそうな笑顔。…傷ついた顔。 ”トゥールには無理、リュシアそう思う。引き返したほうが、良い。” 物心ついたときから、いつも一緒。毎日一緒に食事をして、毎日一緒に眠った。 血縁ではないけれど、妹がいたらきっとこんな感じだっただろうと思う。 可愛いし、守って上げたいと思う。でも、この可愛いは、容姿だとかそう言う意味ではなくて、保護欲で…。 嫌われて、しまっただろうか。 (もう、一緒に旅をしないとか…言われるかな…。) ”ひきかえせ” 今度はセイの顔が浮かぶ。最後に見た、怒りの表情。 ”お前には無理だろ、トゥール。もう諦めて引き返せよ、死ぬだけだぜ?” 成り行きで着いてきてくれたのに、自分たちの為に一生懸命になってくれている。もし兄がいたら、あんな 感じなのだろうか。 初見は軽くて驚いたけれど、サーシャの意思を尊重して助けてくれた事を、そしてはたから見ていただけなのに、状況を 正確に判断していた判断力を、トゥールは凄いと思ったのだ。 嫌われて、しまっただろうか。 (見限られたかな…僕の事…。) ”ひきかえせ” サーシャの顔が浮かぶ。…最後に見た顔は、どんな顔をしていただろうか。 「もう、やめてくれ、やめてくれ…」 トゥールはその場に座り込む。もう歩けはしなかった。 「もう嫌だ、もうやめてくれよ!!」 耳をふさいで、トゥールはそう叫んだ。 長いですね…これでも次回分と二回に分けたんですが。(計画的に無理がありましたね…。) トゥールにここまで絶望させたのは初めてですね。一人であのレリーフ怖すぎるのではないかと思ったり。 まぁ、ある意味天罰かもしれません。 その振られたリュシア、主役編なのにちっとも出てきませんね。もうちょっと頑張ります。 |
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