ちょうど山脈をはさんでアリアハン城の反対。もはや樹海と言ってもよい山奥。そこだけ ぽっかり開いた池のふちにある階段。どうやらそこが洞窟への入り口のようだった。
「城と距離的には近いんだけどね。ほら、あそこに塔のさきっぽが見える。」
「ったく、蜂は出るし、バブルスライムは出るしよ…なんでこんな不便なところに作りやがるんだ。」
「でもそのおかげで毒消しの呪文を覚えられたわ。森の中の戦いにも慣れたし。セイのおかげね。」
 サーシャが美しい顔でにっこりと微笑むと、一気にセイの機嫌が良くなった。
「ま、愛しいサーシャのためだ、これっくらいなんでもないか。」
「じゃあ、早く入ろう。そろそろ日が暮れそうだし。」
 トゥールはそう呼びかけた。
「そうね。日が暮れると冷えるわ。」
 サーシャがそう返事したのを確認して、トゥールは階段を降りた。


「よう来たの。」
「うわぁぁあああああああ!」
「きゃぁ!」
 暗闇の中に突然響いた老人の大声に、トゥールは悲鳴を上げた。サーシャも驚いたらしく 、声をあげた後固まった。リュシアにいたっては、しゃっくりをはじめた。
「おいおい、今度は誰だよ。」
 頭を掻きながら、一人冷静に暗闇に問いかける。
「んー、わしか?わしは王様からここの見張りを命ぜられてるもんじゃ。」
 大声でカカカ、と笑う老人に、トゥールは息をつく。冒険に出てから夢の中の老人だの、その子孫だので わけが分からなかったが、ようやく現実に会えた気分だった。
「僕はトゥール。トゥール=ガヴァデールです。父オルテガの意思をついで、この大陸を 出るために、魔法の玉を持って来ました。」
「あー、魔法の玉はもっとるかいのー」
「…はい、持ってます。」
「んじゃ、そこに使うとええ。」
 指差したのは、部屋の壁だった。なんの変哲もない壁に見えるが、良く見ると床より新しい 気がする。
「その壁の真ん中に魔法の玉を置いて、そこに火の魔法でもぶつけるがよい。」
 トゥールが言われたとおりに魔法の玉を置く。
「…?これで封印が解けるんですか?」
「あ、ちと離れとったほうがいいぞ。部屋の端くらいかの?」
 話がかみ合ってないながらもそう言われ、四人は部屋の端に寄る。トゥールは慎重にメラを唱えて、魔法の玉へとぶつけた。
 四人の悲鳴は、爆発音に消された。

「…なんだ、これは…」
 見ると壁は跡形もなく消え、その向こう側に通路ができている。爆発の呪文とはまた違う、別の 爆発だった。綺麗に壁だけが消えているところが魔法なのだろうか。
「…すごい、音、…」
 リュシアが耳をふさぎながら、そうつぶやく。
「おー、そうじゃ、耳はふさいどった方がええぞー。」
「もう遅いですよ!!」
 思わずトゥールがそう言い返す。耳の奥では今でも爆発音が響いているのだ。
「おー、すまんかったのー。わしゃ、最近耳が遠くてのー。代わりにこれをやろう。」
 老人がぽん、と放り投げたなげた紙切れを、サーシャは受け取る。
「何かしら…」
 そこには、いくつもの大陸が描かれた、世界の姿があった。
「…ここはいざないの洞窟。新たな世界へ誘う入り口じゃ。旅立ちに栄光あれ!ほっほっほっほ…」
「へー、結構いい値で売れそうな、緻密な地図だぜ。世界地図がこれだけいいのは珍しいぜ。」
 ひょいっと覗き込んだセイを避けるように、サーシャはそれを丸めてトゥールに渡す。
「…売らないわよ。」
「へいへい。行こうぜ。とっとと抜けちまおう。」
「だね。行こう。」


 その洞窟は、ひび割れていてまともに進むことができなかった。
「…誘い…っていうよりは、なんだか…少し怖いわね。今にも壊れてしまいそう…」
「…底、暗い。」
 モンスターと戦いながら、大幅に迂回して進んで行く。
「そこ危ないぜっと!」
 セイはそう言いながら、モンスターと化した魔法使いをひびに押し込む。
「…メラ…」
 そこにリュシアは魔法で駄目押しして、底へと叩きこむ。
 その横からスクルトを唱えようとするキャタピラーに、鎖をからめ、ついた鎌でで殴りかかる。そこに トゥールが横から切り裂いた。
「…本当なら、もっとスムーズに行くんだろうけど…手入れされてない洞窟だからかな。…最後に ここを歩いたのは父さんだもんね…」
「一応言っとくが、普通の洞窟は整備されてるわけないぜ。」
 トゥールの感傷に、あっさりとセイが水をさした。
「分かってるよ!!…と。道が三つに別れてる…」
 先頭に立っていたトゥールが立ち止まる。その先には三又の道。
「本当…まさかここで三つとも出口があるなんてこと、ないでしょうね…」
「とりあえず三手に別れるのは愚の骨頂だ。一個一個行くぜ。宝もあるかもしれねーし。」
 薄暗い通路をただ、ひたすら歩く。扉があったが、幸い盗賊の鍵で開くことができた。 …だが、その先は行き止まり。そこには何もなかった。そして、 次の通路にも、なにもなかった。
「…もしかして、三つとも行き止まりとか?」
 戦闘を繰り返しながら、切れ目のない通路をひたすら歩くことに少し疲れていた。何も宝箱のない通路に、セイも不機嫌だった。
「なんだって扉の向こうが行き止まりなんだよ…まさかひびの下になんかあるとかじゃねーだろうな…」
「とりあえず、文句言わずに歩きましょう。もう夜中なのかしら…」
 洞窟の中にいると、時間感覚が狂って来るのだ。少し眠い気がするが、これが深夜なのか疲れてるからなのか 分からない。
「あれ?」
 三度目の正直。開けた先に通路が広がっていた。その奥には、揺らめく泉。だがその泉の 水に触れる事はできず、指先は空を切る。
「…これ、何?」
「旅の扉だ。いっぺん入ったことあったな、そういや。んじゃ、先に行くぜ。」
 とん、と音を立てて飛び上がると、その泉にそのまま滑り込んだ。
 それは水音もなく、水しぶきもない。そして覗き込んでもセイは何時までも出てこなかった。
「…やっぱり、これが、扉、なの…?」
「だね。行かなくちゃ。僕は外に出るって決めたんだし。」
 大きく深呼吸したトゥールが、思い切って旅の扉に飛びこむ。
「…トゥール…待って…」
 続いて、リュシアが後を追うように飛び込む。
「…旅の扉ねぇ…」
 最後にサーシャが、ため息をついてその泉に飛び込んだ。


 ついた先は、小さな祠だった。
「意外と早かったな。しばらくびびってるかと思ったけどよ。」
 からかうように笑うセイに、答える余裕のない三人。
「…本当に知らない場所だ…」
「…変な感覚…うにょむにょ…」
「なんだったのかしら…あれ…水でもないし…」
 初めての感触に考え込む三人。
「…おい、見ろよ。ロマリアだ。帰ってきたか。」
 セイが指差す先。

 夜の闇に浮かび上がる、大きな城が見えた。


 アリアハン編、おしまいです。最後にサーシャのうまく家族が出せました。良かった良かった。
 というか、アリアハン、老人多すぎです!!原作だとどういう関係なんだ、あの三人!!(ナジミの 塔、魔法の玉、いざないの洞窟。その手前の祠もありますね…原作だと)いっそ全部同一 人物にしたろかい!と思った私はむちゃくちゃでしょうか。(でもそれもありだったな… 三つ子とかでも面白かったかと)
 次回から、多分ようやく冒険がスタートします。書くのを楽しみにしております。

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