台所では、アレシアが忙しそうに動いている。
「ほら、これも食べて。あら、こっちが減ってないわ、おいしくないかしら?」
「こら、アレシア。ちょっとは落ち着きなさい。そんなには食べられないよ。」
「…おいしい。だから大丈夫…。たくさん、食べる。」
「ごめんなさい、なんだか自慢の料理をたくさん食べて欲しくて…。」
 幸せの涙をこらえながら、リュシアは食卓に大量に並べられた食事を口にする。
「エリューシア、僕達のこと、困っていないかい?」
 エニアスの言葉に、リュシアは首を振る。
「違う。その、リュシ、私、あんまりお話、得意じゃない…元からなの。」
「そうなの。ゆっくり話してくれていいのよ、エリューシア。」
 アレシアが、笑いながらリュシアの隣に座った。その二人を見て、リュシアは小声で ずっと気になっていた事を尋ねた。
「…お父さん、お母さん…。あのね。その、どうして、…私の事、捨てたの?」
 その言葉を聞き、二人の顔からすっと笑みが消える。アレシアが椅子から立ち上がり、リュシアの前に跪いて目線を合わせる。
「…ごめんなさい、恨んでいるでしょうね。」
 リュシアが首を振る。
「…事情があったって、思ってた。…でも、どうしてなのか…。」
「まず、信じて欲しい、エリューシア。僕達が君を愛していた事を。生まれて来る事をどんなに待ち望んでいたかを。」
 エニアスの言葉に、リュシアが頷く。それを確認して、エニアスは語りだした。


「あれはちょうどエリューシア、君が生まれた日の夜の事だった。…山脈のの向こう側、 ネクロゴンドから、バラモスの手下が 攻めてきたんだ…この村を滅ぼすために。」
「この村はね、魔法使いの血筋で魔力が強い人が多いの。だからそのモンスターはすぐにやっつけられたんだけれど… 次から次にとやってきたわ。…本来ならば、私たち女子供は隠れて逃げるはずだったのだけれど、そうは行かなかったの。」
「…どうして?」
 二人の顔は、とても辛く、苦しい顔だった。
「話せるモンスター達は、ずっとこう言っていた。『132』と。…最初はなんのことだか分からなかった。だが、やがて気が付いた。 この村人の人数だと言うことに。モンスターはこの村を根絶やしにするために、数を調査していたんだ。 逃げても追いかけられて確認して殺される。僕達はそう悟った。」
「けれどね。唯一つ例外があったの。それがエリューシア、貴方よ。私のお腹の中にいた貴方は、その数には入っては いなかった。」
 アレシアは涙を流す。そっとリュシアを抱きしめる。
「生まれたばかりの貴方は、本当にかわいらしくて。一生懸命私の乳を飲んで。例え一時でも手放したくはなかった。 私の手で守りたかった。育てたかったわ。けれど、貴方は生きようとしていた。大きな声で泣いて弱々しくも、一生懸命 生きようとして。私達は少しでも貴方が生きられるように、その可能性にかけて、貴方をバシルーラで飛ばしたの。 …どこに飛ぶか分からなかった。探しに行く事もできないことはわかっていたの。 それでもそのほうが、少しでも生き延びられると思ったの。村はもう、炎に包まれていたのだもの。」
 アレシアの腕に力が入る。痛いはずのその力が心地よい。
「それでも、エリューシア、僕達は君を育てられなかった事は事実だ。辛かっただろう?すまなかったね。本当に。」
 リュシアは首を振る。
「そんなことない、ママ、私を育ててくれた人、とっても良い人だった。トゥールやサーシャもいた。ここに来るのに、 セイも一緒。皆良い人。…私幸せ。お父さんも、お母さんも、良い人だから。嬉しい。」
「エリューシア…。」
「本当にいい子になって…。ねぇ、エリューシア。私、貴方の事が知りたいわ。勇者さんとお友達なんでしょう? たくさんお話して?」
 アリシアは涙をぬぐって笑顔になった。リュシアは頷いて、ゆっくりとアリアハンの事を語りだした。


 ルイーダの事、トゥールの事、サーシャの事、旅の事、セイの事…途切れ途切れてつたない言葉を、 二人はとても嬉しそうに聞いてくれた。
「…そろそろ、疲れただろう?エリューシア?」
 うとうととしているリュシアを察して、エニアスが話を止めた。
「…あら、本当ね…ごめんなさい、エリューシア?」
 リュシアは首を振る。
「楽しかった。だから。」
「…もう、寝なければね…。明日、長老にエリューシアを会わせたいしね。勇者さんたちも案内しなければ。」
 エニアスの言葉に、アレシアが微笑む。
「ねぇ、恥ずかしいかもしれないけれど、良かったら一緒に寝ましょう?エリューシア。私貴方と一緒に 眠る事が夢だったの。」
「おや、ずるいな、アレシアは。」
「…川の字。三人で、一緒に。きっと、私、幸せ。」
 リュシアのその言葉に、エニアスとアレシアがリュシアを抱きしめた。
「ありがとう、エリューシア。」
「そうね、三人で寝ましょう。」

 そうして、三人はベッドに入る。
「おやすみなさい、エリューシア。」
「エリューシア、おやすみ。愛しているよ。」
 二人からそれぞれひたいにキスをされる。ほどなくして、幸せな温かみに包まれて、リュシアが眠りに入った。
 その寝顔を二人は見つめる。
「言えなかったな。本当に、駄目な親だ、僕達は。」
「…ごめんなさい、エリューシア。貴方を傷つけるとわかっていたのに…どうして、私…。」
「…でも、幸せだったね。僕達の娘がこんなに良い子に育ってくれて。勇者と一緒にやってきてくれるなんて。」
「きっと運命だったのよ。…この子は精霊に愛されている子供ですもの…。ああ、朝が、明日が来なければいいのに…。」



 目が覚めると、まとっていた布団が、とんでもなくぼろぼろだった。
「なんだ?!」
「うわぁ!!」
 横でトゥールが飛び起きる。ほどなくして。
「きゃーーーーーーーーーーー!」
 サーシャの悲鳴が聞こえる。壁と天井からは朝日が差し込み、床はあちこちが腐っていた。
 セイはすばやく装備を整え、寝ていたベッドを降りる。
「…どういうことだ…?」
 ぎしぎしと音をたてて、サーシャがこちらに飛び込んできた。
「どういうことなの?!」
 トゥールがすばやくマントを羽織り、勢いよく窓を開ける。 …目に飛び込んできたのは、毒の沼地とぼろぼろになった建物。傾いた十字架。燃え落ちた 家。…誰もいない村だった。
「…廃墟…?」
「テドン…よね…?」
「なんで、だ…?」
 三人は一瞬顔を見合わせて、そして走りだす。
「リュシア!」
「…もしかして、村の人たち全部…幽霊?!」
「なんでもっと早く気が付かなかったんだ!!」
 若すぎる両親、読めるようになっていた文字。気づく事はできたはずなのにとセイは自分を責める。
 三人は誰もない村中を走り…、そして、村の東の廃屋の中で、ぼんやりと座っているリュシアを見つけた。

 一番早くたどり着いたセイが、恐る恐る声をかける。
「…リュシア…。」
「リュシア、ここにいたんだね。」
 トゥールの声に、リュシアはゆっくりと振り向く。口がゆっくりと動こうとする。
「リュシア、大丈夫?なんともない?」
 サーシャが息を切らして、飛び込んできた。リュシアはうつむく。

 すぅっと、リュシアの体が持ち上がり、天井の隙間からそのまま空と舞い上がった。
「リュシア?!!」
「どこ行くんだ、リュシア?!」
「リュシア!!!」
 三人が急いで廃屋を出ると、リュシアが空中に浮いていた。リュシアを中心に、ゆっくりと風が吹く。
「リュシア、どうしたの?」
「何があったんだ?!」
 空が暗くなる。リュシアの黒髪が伸び、その黒が空をゆっくりと覆いつくそうとしていた。


 ”どうして…”


 なんか色々ごめんなさい。長いし、ややこしいし、不幸だし。特にリュシアファンの方。あと こんなところで終わってばっかりでごめんなさい。
 ちなみに「若い」の話ですが、ありえない話じゃないのですが、まぁ一般的な話として とらえていただければ幸いでございます。

 テドンシリーズは長くなります。(ジパングと同じくらい?)どうか最後までお付き合いお願いいたします。


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