大陸と大陸の隙間。大河を進み、岬の近くの宿屋に船を泊めた。 「宿場みたいだな。」 「サマンオサはほとんど空輸に頼ってるからね。陸路で行くには、ここしかないんだ。」 トゥールの言葉どおり、ささやかで小さな宿屋だった。人気のない森の中では立派な物だろうが、儲けはあるのだろうか。 「でも、ここならアッサラームやロマリアにも船で行くなら近いから、商人は良く利用するのかもしれないわね。」 「静かで落ち着く。リュシアは好き。…あっちにある湖も綺麗。」 そんな事を言いながら、宿屋に入ると、三人の男がいた。宿屋の親父と吟遊詩人と戦士だった。 「おや、お客さん、めずらしいね、このご時世にこんな所まで。観光かい?」 宿屋の親父に声をかけられ、トゥールは苦笑いする。 「いえ…。」 「はっはっは、ショックだったろう、湖に行けなくてな。」 「いえ、湖に来たわけではなくて…湖に行けない?」 言いかけて、トゥールは聞き返す。先ほどまで来た大河は、そのままこの先の大きな湖につながっている。おそらく、そこは 観光名所なのだろう。…なにか障害が合ったようには見えなかったのだが。 「行けねーんだよ。」 やさぐれたように戦士がそう言い捨てる。 「なんでだ?別に何もなかったぜ?」 「じゃあ、通ってみろよ。俺は何日も足止めされてんだ。…あのオリビアのせいでよ。」 「オリビア…って、女が邪魔しているのか?」 見ると戦士は飲んだくれているようだった。それをいたわるように、吟遊詩人が補足する。持っていた小さな竪琴をささやかに 鳴らす。 「…それは悲劇の恋物語。あるお館のお嬢様、か弱き少女のオリビアと、 額に汗する労働者、青年エリックが恋に落ちた。二人はそれは仲睦まじく、麗しき恋人たち。だが、ある時にオリビアの父親の 耳に入り、その父親の策略で、エリックは無実の罪で、奴隷船へと送られた。そしてその船は嵐に遭い、沈んだことを知るや 否や、オリビアはこの岬から飛び降りたのです。…しかしやはり死にきれず、通りゆく船を呼び戻すのです。」 吟遊詩人の指が、最後に美しい旋律を奏でるが、サーシャは眉間にしわを寄せる。 「そのオリビアさんとお話は出来ないのかしら…?」 「ちょっと待て、サーシャ!!」 セイに怒鳴られ、サーシャは 「だって、そんな辛い想いを…、現世にそれほど干渉するなら、よほど苦しい想いをしているはずよ!」 「むやみに深入りするなよ。だいたい俺達はこれからサマンオサに行くんだろう?!」 「「「なんだって!!」」」 宿屋にいた、三人の声が重なった。トゥールたち四人はその迫力に目を丸くする。セイがいぶかしげに聞いた。 「なんだよ?」 「やめろ、あんなところへ行くのは!!死にに行くようなもんだ!!」 戦士が青い顔をして叫ぶ。あまりにも大げさな言葉に、トゥールは首をかしげざるを得なかった。 「死にに行く?どういうこと?」 「…俺は、あの国の出身だ。旅をしていて…久々に帰ったら、王に仕えていた父がこの先の湖の真ん中にある孤島…祠の牢獄に 送られたと聞いた。」 「祠の牢獄?」 「極刑に処せられた…たとえば王の命を狙った者などが送られる牢獄だ。…父は真面目で実直で…とても そんなことをするとは考えられない…。何があったのかと城へ戻って見たら、皆王に怯えていた。…いや、城だけではない 国中の者全てが、下手な発言をして王に殺されるのを恐れ、俺に何も教えてくれなかった…。だから、 せめて父に聞こうと思って、ここまで来たんだが…。」 戦士がそう言うと、吟遊詩人は寂しげにうつむく。 「今や、サマンオサには恐怖しかありません。一度入った者は出られず、いつ王の機嫌を損ねるかでびくびくしております。」 「とにかく!絶対にサマンオサには行かせないぞ、お前等みたいな若いもん、見殺しにするわけにはいかねーからな!!」 宿屋の親父がはっきりとそう言った。立ちふさがるように仁王立ちする。 正直なところ、強行突破すればおそらく通れるだろうが、それは少し気が引けた。トゥールはセイにささやく。 「誰か、サマンオサに行ったことある知り合いいない?」 「…まぁ、探せばいるだろうが…そうだなぁ…。とりあえず、諦めるか。」 あっさりと言いきったセイに、思わずリュシアが突っ込みを入れる。 「…いいの?」 「どーしても何があっても行きたいわけじゃねぇし。命あっての物種だろ。な!トゥール!」 思いっきり強くトゥールの肩を叩く。一瞬顔をしかめるが、とりあえず何かを察して頷いた。 「んー、そうだね。まぁ、他当たろうか。」 「そうだね、そのほうがいいよ。何の目的で行こうとしてたか知らないが、命を捨てる事はない。」 うんうん、と満足げに頷く宿屋の親父。そしてその横で吟遊詩人がサーシャに声をかける。 「それとそこの美しいお嬢さん。貴方はもしかして、神職の方ですか?」 「…昔は…やっぱりほってはおけなくて…。」 「その心は大変麗しいですが、やめておきなさい。今のオリビアではどんな声も届かない。…私も歌を作りに オリビアに会いに来たのですが、オリビアはただ鎮魂歌を謳い、湖から引き剥がそうとするだけ。…せめて恋人 エリックの縁の物でもあれば違うのでしょうが…。」 その言葉に、サーシャは首をかしげる。 「それほど事情に詳しいのでしたら、エリックさんがどこに住んでいらしたかご存知なのでは?」 「…オリビアの父親が、全て捨ててしまっています。もし残っているとしたら、エリックが乗せられた奴隷船くらいでしょうね。 …ですが、その船も噂ですが、幽霊船となってさまよっているそうですし…。」 吟遊詩人は重いため息をつくが、聞き覚えの単語に、サーシャは顔を輝かせた。 |
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