四人は再び船に乗り、大河を遡り始めた。
「…で、セイ、どうする気なのさ?」
「まぁ、ライサが言ってた幽霊船を見つけるアイテム、取りに行こうかと思うがな。…そのじーさんが 上手い事渡してくれるといいんだが。」
「え、でも…いいの?」
 サーシャが言いよどむ。
「なんだ、サーシャ、いまさら怖気づくのか?」
「そうじゃ、ないけど…。とっさに体を動かしてしまったけど、セイの言う通りサマンオサに進む予定でしょう? 私の我がままで、その予定を狂わせるのは心苦しいもの。先にサマンオサに行くべきだと私も 思うわ。…国がおかしくなっているらしいけど…。」
「…でも、会わせてあげたい。…お父さんも、恋人さんも。」
 リュシアの言葉を、三人は脳内で変換する。
「えーっと、…ああ、オリビアさんと、あの戦士さんか。」
 トゥールの言葉に、リュシアはこくんと頷いた。
「そりゃけっこうだが、リュシアお前もうちょっと考えて話せよな。」
「頑張る。」
 リュシアが小さく頷いたのを見て、トゥールは目を細めて笑った。
「じゃあ、えーっとグリンラッドに行くの?」
「そうなるな。ま、後の事は任せとけ。」
「…ありがとう。」
 控えめな声で、サーシャがそう言う。セイは小さく手を振りながらその場を離れ 、そして小さくつぶやいた。
「その前に、そのじじいだな。…いやーな予感はしてるんだよなぁ…。」
「…やな予感?」
 その言葉を聞きつけ、リュシアは首をかしげる。セイは頭をぐっとつかんで、そのかしげた首を元に戻した。
「いーんだよ!おら、とっととメシ作れメシ。食事当番リュシアだろ?」
 リュシアはこくんと頷いて、台所へと向かう。その背中にサーシャが声をかける。
「リュシア、私することないから手伝わせて。」
「昨日、下ごしらえ終わったの。だから、すぐなの、平気。」
 リュシアは微笑んで、台所へと歩いて行った。


 徐々に寒くなっていく空気に身を振るわせながら、四人は歩く。
「なんで、こんな、ところに、住んでるんだろ…。」
 冷たい空気が体内に入らないように小さく口を開けながら、トゥールはそう愚痴る。
「あんま、人に来て欲しくねぇんだろ。」
「こんなところ…寂しくはないのかしら。」
「まっしろ、怖い。」
 先頭のセイが鷹の目を使いながら歩いていくと、徐々に小さな小さな小屋が姿を現した。

 暖炉とソファに机。小さいながらも、居心地のよさそうな居間の後ろ側に、山のように積まれた様々な道具。 その小屋の主は、小さな普通の老人だった。
「ふむ…客人とは珍しいとは思っていたが…お前だったか、白刃。」
「…ライサが物を他人にやるなんておかしいとは思ってたんだが…やっぱりそうだったか…久しぶりだな、青眼のじじい。 言っとくが、俺はもう盗賊じゃねーからな。まぁ、じーさんなら知ってると思うけどよ。」
 二人の挨拶に、三人は二人を見比べる。普通の老人だと思っていたおじいさんの目は、只者とはとても思えないほど 鋭い。
「で、なんの用じゃ?ついに娘にプロポーズする気になったか?」
「するか!あー、実は頼みがあるんだが。」
「断る。」
 きっぱりと言われ、四人は目を丸くする。
「ま、待ってください、まだ僕達、何も…。」
「いーやーじゃー。わしの娘を振っておいてよくものうのうと頼みごとなんてする気になるのう。」
 ぷい、とすねたように顔を横に向ける。トゥールは困ったようにセイを見た。
「…とりあえず、色々説明して欲しいんだけど。」
「このじじいは、青眼のワット。あの海賊団の先代お頭でライサの育ての親になる。俺がライサのところで世話になってた頃、もう 隠居してたが、まだあの館にはいたんだがな。」
 トゥールが思わず目を見るが、老人の目はくすんだ茶色で、青いようには見えなかった。何か理由があるのだろうか。
「あれは、ライサにはまだまとめきれんかったからじゃ。じゃが、白刃、お前が来て、ライサも色っぽくなってのぅ。わしも こう、そそられるほどじゃよ。まーだまだ肩に力ははいっとるが、なんとかまとめられるようなっての。 わしはむしろ邪魔だと思ってな。こうして隠居しとる。」
 そう言って、ワットはセイを見た。
「わしは白刃とライサがくっついて、二人であの盗賊団を治めてくれたらとおもっとったんじゃがの。…お前がいなくなって、 どれだけライサが泣いたとおもっとるんじゃ!その上この間追い討ちをかけおってからに。…で、そこのお嬢さん。」
「私?」
 突然話を振られて、サーシャは戸惑いながらもワットに近づいた。じっと目を見つめられ、少し戸惑いながらも 視線を返す。
「なんでしょう?」
「ふーむ…確かにライサとおんなじくらいに綺麗な娘さんじゃな。ま、色気はライサの方が勝ちじゃが。どうじゃ? セイを娘に譲ってくれんか?」
 ワットはサーシャを見つめた。サーシャもワットを見つめた。そして笑う。
「…ワットさん。駄目ですよ?…気づいていらっしゃるんでしょう?私とセイは恋仲ではないって。」
「ほほぅ、それに気づきなさったか。年老いても青眼の名は伊達ではないのでな。」
「それではどうすれば、私たちの頼みを聞いてくださいますか?」
「賢い美人に頼まれると、わしも悪い気はせんなぁ…。」
 サーシャの言葉に若干気をよくしたのか、ワットはそう言って、初めてにやりと笑った。




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