終わらないお伽話を
 〜 Terror 〜



 おだやかな昼下がり。ぽかぽかと体を暖める太陽。立派な城が見下ろす城下町、サマンオサは…静かだった。
「…どうして、こんなに静かなの?」
「確かに、何かただ事でない気配は感じるよね…。」
 町の入り口に、人っ子一人いない。声を張り上げている売り子どころか、店すら閉まっている。
「王様のせい?」
「多分そうなんだろうな。しかし祠の管理人が人変わりしたっていうのはどういうことだろうな?女にでも現をぬかしたか?」
「静かに。」
 三人の雑談を、トゥールが止める。視線の先には、真っ黒な服の集団と、それを引き立てるように咲く白い花束…葬列だった。
「お葬式だから?」
「…それにしては、あまりにも人通りがないけれど、そういう風習なのかしら?それともよほど高位の方がお亡くなりに なったのかしら?」
 やがて葬列は墓場にたどり着き、運ばれてきた棺が降ろされる。静かにすすり泣く女性。おそらく家族なのだろう。その横で、 不思議そうに佇む子供。大声でなく男…とても人に愛されていた人物が亡くなったのだろうと分かる。神父が 祈りの言葉を唱える後ろで、サーシャも小さく祈った。
「ブレナン…いい奴だったのに。」
「王様の悪口を言っただけで死刑だなんて…あんまりだ!」
「静かにしろよ、聞こえたらお前まで…。」
「だってもう何人目だ!?こうして王様に殺されるのは!!ただ、王様のやり方に疑問を唱えただけで…」
「もうやめとけ。ブレナンもよろこばねぇよ。」
 その叫びを聞いて、四人は顔を見合わせる。
「聞きしにまさる独裁だね。」
「アリアハン王の偉大さが良く分かるわ…。考えてみればこれだけ旅をして、まともな王様ってアリアハンと…イシス くらいなんじゃない?」
「王族なんてそんなもんだろ。搾取するだけで何にも与えやしねえ。」
「…王様ひどいの。」
 町がこれだけ静かなのは、皆が怯えているのだと分かる。国民を守るはずの国王が、国民を脅かしているのだ。


 そっと葬列から立ち去ると、セイが口を開く。
「それで、どうするよ?イシスの時みたいにはいかなさそうだが?」
「とりあえず、会ってみないとどうしようもないね。」
 トゥールはそう言うと、城の方へと歩き出した。三人は急いで後を追い、セイが腕をつかんで引き止める。
「馬鹿野郎!それで死刑になっちまったらどうするんだよ!?」
「ロマリアの時も言ったけど、アリアハンの王様… ひいてはアリアハンの国に選ばれた勇者を簡単に死刑には出来ないんじゃないかな。」
 あっさりと笑うトゥールに、セイは頭を抱える。
「この町の雰囲気をみたら、まともじゃないって分かるだろう?」
「…でもセイ、このままにはしておけないわ。それに予言の通りなら、ガイアの剣はどうしても必要よ。」
「…怖いけど、でも…、悲しいから…。町が、なくなっちゃう…。」
 アリアハン三人組が、口をそろえて甘いことを言う。そしてそれが予想できたことに、セイは遠い目をして空を眺めた。
「…帰りてー…。」
「…セイ、諦めが肝心なんじゃないかな。ほら、朱に交われば赤くなるって言うし。」
 にっこりと笑うトゥールの顔が、どこか悪魔じみて見えた。
 実の所、ここを放置してもどうしようもないことは事実なのだ。しかし町に蔓延するおかしな空気の 発生源に近づくのも憂鬱なことは確かだった。
「あー、くっそ!多分行っても入れねーぞ!!」
「ありがとう、セイ!」
「わーい、セイ、んじゃ行こうか。」
「お城、あっち。」
 三人の輝くばかりの笑顔に、セイはため息をつきながら引きずられた。
「俺も、大概甘いよなぁ…。」


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