終わらないお伽話を
 〜一つの決断〜




” 妹はいつも家族にいじめられていました。
 なぜなら妹は捨て子で、血の繋がっていない父と母と姉は、妹のことを愛していなかったからです。
 それでも妹は家族のことを愛していたので、一生懸命働いていました。”



 朝食の前に起きだして、サーシャは宿を出た。上を見上げれば金の十字架が朝日に浴びてきらりと光る。 教会の家に生まれて16年、一度たりとて朝の礼拝を欠かしたことはなかった。
 もちろん、旅に出たら難しくなるだろうが、せめてできる間は教会で祈りを捧げようと思っていた。

「生きとし生けるものは、皆、神の子。ルビス様は大地から我らを包み込み、守ってくださっています。」
 見覚えのない教会の中で、自分の父が行っていたのと同じ祈りが行われる。その祈りの言葉を 口にしながら、心が安らかになるのを感じた。

 祈りを終えて、清らかな気分で教会を出て宿を出たとたん、聞きなれた声が耳についた。
「そんなことないぜ。ちゃんと覚えてた。そのきらきらのパンみたいな髪と目も、そのさくらんぼみたいな唇も 、すごく綺麗だぜ。」
 朝の神聖な空気が一散されていくのを感じながら、声のした方を振り向くと、パン屋の娘を口説いているセイが いた。
「お、悪い、仲間が来たみたいだ。じゃあな。」
「セイ、会えて嬉しかったわ。またここに来たら寄って行ってね。」
「もちろんだよ、またな。」
 そう手を振ると、サーシャの元に走ってきた。

「…早いのね。」
「いや、サーシャが外に出るのを見かけたからな。どこに行くのかと思って。」
「ついでに女の子口説いていたの?」
 サーシャが呆れながらそう言うと、肩に手を回しながらセイはにやりと笑う。
「妬いてるのか?違うぜ?知人にあったからちょっと挨拶してただけだ。」
「妬いてるように見えるなら、ちょっと目を洗浄した方がいいんじゃない?私は 朝の礼拝のあとの神聖気分を台無しにされて、がっかりしているだけよ。」
 そう言いながら、サーシャは背中に手を回そうとするセイの腕を掴みあげた。
「朝の礼拝な…あんな聖歌歌ったり、ろうそく捧げ持ったり、長時間『全ての生き物はルビス神の子供です』なんて 説教を受けるなんてよくやるよな。」
 腕を離しながらうんざりとしたように言うセイに、サーシャは意外そうに目をみはる。
「意外ね、セイが朝の礼拝に行った事があるなんて?それとももしかして家が教会だったの?」
「俺に過去の事を聞けるのは、本当に良い女だけだ、サーシャ。」
 セイは、あいまいな表情で笑う。その笑顔は、どこか拒否しているように感じた。

 立ち止まってじっとセイを眺める。銀の髪に、透き通るような白い肌。それが朝日に良く映えていた。
 苗字も、生まれも、境遇も、なぜ盗賊になったかも、何も知らない。
(そういえば、白刃…なんて呼ばれてたわね…)
 それがどういう意味なのか、サーシャは知らない。そもそも『セイ』が本名なのかもわからない。遠い人だと 感じた。
 セイは、そんなサーシャの様子に気づいてないそぶりであくびをしながら宿へと歩いていた。
「どうしたんだー。朝飯待ってんじゃねーの?あの二人ー」
「ああ、そうね。」
 サーシャはセイの近くに駆け寄って、並んで無言で歩く。
「…ま、似たようなもんかもな。」
「え?」
 顔をのぞき見ると、大笑いしているのか、それとも苦虫を噛み潰しているのか良く分からない表情で笑っていた。


 ちょうどその頃。朝食の席でトゥールとリュシアは、礼拝に行ったサーシャと、どこに行ったか分からないセイを待っていた。
「セイ、どこ行ったんだろうな…」
「一緒?」
「うーん、セイが礼拝に行くとは思えないけど…」
 宿屋の食堂は、アリアハンやレーベと違い、さまざまな人種、服装の人々が優雅に朝食を取っていた。 だが、その平和な光景に似つかわしくない、物騒な人々が外から入りこんできた。
「勇者トゥール=ガヴァデール様であらせられますか。」
 それは、軽鎧をつけた兵士達だった。皆が何事かと覗き込んでいる。
「はい、そうですけど、貴方たちはどなたですか?」
「我々は、ロマリア王からあなた方を城へご招待するように仰せつかったものです。」
 横で怯えていたリュシアが目を丸くした。トゥールも驚いて聞き返す。
「僕を?何のためにですか?」
「それは伺っておりません。ともかく、城へご招待するようにと。」
 その表情に曇りはなく、それが真実であることは見て取れた。
「わかりました。でも僕たち四人パーティーで、なによりこれから朝食なんです。皆が集まって、 朝食がすんだら伺います。それでいいですか?」
「かしこまりました。お待ち申し上げております。」
 トゥールはあっさりと引き下がり、頭を下げて去っていく兵士たちを唖然と見送った。


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