四人はまとめて牢に入れられた。囲んでいた大勢の兵士たちが地下牢を去り、見張りの兵士だけが入り口をふさぎ、 ぼんやりと佇んでいる。 セイはトゥールを見下ろし、静かに口にする。 「…トゥール、反省しろ。」 「うん、ごめん。」 トゥールは素直に頷いた。サーシャも胸中で横で反省しながら、 「…でも、まさかまったく話を聞いてくれないなんて思わなかったわ。」 「…変だと思う。」 「おかしなやつってのはどこにでもいるもんだ。…でもまぁ、その場で打ち首とかじゃなくて助かったな。」 「…でもおかしいわね。どうして四人一緒なのかしら?それも武装も取り上げられてないし。」 「とにかく、とっとと出るぞ。最後の鍵で開けられるだろ。」 荷物を探り、最後の鍵をつかみだす。そしてあっさりと扉を開けた。 「でも、出るって言っても、見張りがいるし、お城の中から出られるかな…?」 「どっか適当な窓から出てルーラでとりあえず脱出すればいいだろう?見張りはさっきの商人みたいに眠らせればいいだろ。 ほら行くぞ!」 セイが牢から飛び出し、見張りの背後へと音もなく走る。そして手を振り上げるその時、 「私は眠っている。」 「?」 セイの動きが止まる。後から追いかけてきたトゥールたちも動きを止めた。 「これは、私の寝言だ。…最近の王は何かおかしい。だが、我等は王には逆らえぬ。私は眠っているためここから動く ことは出来ないが、噂では牢の奥に抜け道があると聞く…。」 ぼそぼそと言うと、そのまままたぼんやりと立ち始めた。 「…ありがとう。」 トゥールは笑顔で小さくつぶやいた。 小さく足音を響かせて、四人はやたらと広い地下牢を歩いていく。 「…やっぱり、この国をこのままほっておくのは嫌だ。…なんとかしたいよ。」 「…反省したんじゃなかったのか?それとも、王様に剣を向けるのか?」 「………最悪の場合、そうなるね。」 意思の強い眼で、きっぱりとそう言った。それは生半可な覚悟ではないのだと、セイも分かる。 「…皆、苦しんでるの。このままだと、駄目なの。…助けて、あげたい。」 リュシアがトゥールに同意する。セイはため息をつく。 「あのなぁ、」 「馬鹿トゥール。やっぱり立派な勇者には程遠いわね。」 セイの言葉を切るように、サーシャは悪態をついた。 「サーシャ…。」 リュシアは若干非難の眼でサーシャを見る。サーシャはそれに気が付いて、目線を下げ、口調を変えた。 「勇者の手は、人を仇なすモンスターと魔族を切る手よ。人を切る手じゃないと思うわ。 …おば様はトゥールを革命家にするために、旅出たせたんじゃないと思う。」 「…驚いたな。お前も助けたいと言うんだと思った。」 言いたい事はたくさんあったが、セイがようやく口にしたのは、その一言だった。サーシャはセイに向きなおる。 「助けたいわよ、見捨てるのは嫌。でも、…もし、王様に剣を向けるなら、それはこの国の人でないと 駄目よ。私たちがやったんじゃ、助けたことには、ならないわ。 ジパングの時だって、私達はヒミコじゃなくてヤマタノオロチを倒しに行ったんじゃない。」 「…結果的には同じだったけどね。」 トゥールが、明るく笑ってそう言った。なおも言葉を続けようとした、その時。 「…誰か、いるの?」 背後から声がした。 振り返ると、そこには薄汚れたメイド服を来た女性と、ベッドに眠る、顔の見えない人物がいた。 「…君は、ここの人?」 「はい、いえ、正確に言うと、他の牢に入れられて、ここに入り込んだんですけれど…。」 清楚そうな女性の視線の先には、さびた鉄格子がゆがんでいた。ここは広い地下牢の奥まったところにあるから、 あまり使われていないのだろう。 「他の牢から逃げてきたのか?なら一緒に出るか?なんか抜け道があるって話だが…。」 「抜け道は、この通路の付き当たりの牢屋の中です。何度も出ていますから。」 しっかりとした口調で道を教える女性に、四人は驚きを隠せない。 「じゃ、なんで、こんな所に…?」 「…私は、…ラーの鏡のことを口にしたとたん、牢に入れられました。」 「は?」 意味が分からず、セイは思わず聞き返す。 「…外国の方ですよね?ラーの鏡はサマンオサの古代三国宝で、真実を映す鏡と言われています。 自国の人間もただの伝説の宝と思い、実在を信じている者もほとんどいない、忘れられたような宝なんです。…それがある時、旅の 吟遊詩人が、ラーの鏡のことを口にしただけで王はその吟遊詩人を処刑しました。…それで、おかしいと思って、 私も口にしたら…。」 「やっぱり入れられた、ってことなの?でも、貴女は牢を抜け出して、出口も知っているのに、どうしてまだ地下牢にいるの?」 「それは…。」 メイドは目線をそらす。セイはその牢屋の鍵を開けた。入ろうとするセイを、メイドはとっさに止めようとする。 「誰か、庇ってるのか?」 「……。」 黙りこむメイドの目をトゥールはじっと見つめた。 「大丈夫、…僕達にこのことを話してくれたのは、何とかしたかったからなんですよね?僕達を信じてください。」 「……………こちらへ…。」 やけに手馴れた様子で、トゥールたちをベッドの側へと案内した。 そこに眠っていたのは、やせこけた壮年の男性。 「…そこにおるのは、誰だ…?」 「この方こそ、本物の、サマンオサ王、その方です。私は、この方のお世話をするために、ここに残っていたんです。」 トゥールは、王の側へと跪いた。 「僕は、アリアハンから来た勇者で、トゥール=ガヴァディールと申します。」 「…おお…勇者…よ、何者かが、変化の杖を奪い、わしに化けおった…どうか…。 ラーの鏡は、南の洞窟に、安置しておる…どうか、わが国を、助けてくれ…。」 「わかりました。必ず。それまでどうか、お体をお大事にしてください。皆、貴方を待っていますから。」 トゥールがそう言うと、王はそのまま意識を失った。その顔が安らかであることを確認して、メイドはほっと息を付いた。 「…勇者様でいらっしゃいましたか…。私からもお願いします、どうかこの国をお願いします。」 馬鹿勇者な回。いや勇者は馬鹿じゃないとつとまらないかと思われます。しかし次回はおそらく もっと馬鹿です。ごめんなさい。 四人の性格の違いがよく出ていますね。一番可愛そうなのはやっぱりセイかもしれません。強そうで弱いなぁ。 メイドさんは捏造です。…いや、どう考えてもあんなところにいたんじゃ、王様餓死してるよね…とか 思ってしまったので。 次回は洞窟探索編。他の洞窟よりは書きやすそうですよね。 |
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