リュシアのスカートがふわりと翻り、とん、と小さな音を立てて着地する。
「…ここから奥に行けば王の自室につながってるらしい。」
「バルコニーなのね、ここは…。警備はいないみたいね。…良い夜ね。」
 サーシャが見上げた夜空には、細い細い爪のような月が、四人をささやかに導く。
「リュシア大丈夫?暗い所嫌いじゃなかった?気を付けてね。」
「平気。闇はリュシアの場所だから。」
 トゥールの言葉に微笑んで、リュシアはそっと三人の後に続いた。

 セイが音もなく、王室への扉を開ける。地響きのようないびきを建てて、王が眠っていた。… 地下牢の王を見た今なら良く分かる。太りきった王と痩せた王。だが威厳の違いが明らかに眠っているこの王が 偽者だと告げていた。
 トゥールはラーの鏡を取り出す。鏡を覗きこむと、そこにはこの世の物とも思えないほどおぞましいモンスターだった。
 鏡は、太陽のように輝きだす。その光は目の前に眠る王へ収束し、やがて王の姿はそのモンスターへと変わっていった。
「みーたーなぁ?鏡も王も、地下に隠して置いたのに…。」
「どんなに隠しても、悪事はお日様が明らかにするんだよ。よくもこの国の人を苦しめてくれたな!!覚悟は 出来てるんだろうな!!」
 トゥールは剣を構える。その額にある青い宝玉をモンスターはじろじろと眺めた。
「それーーーーーーー、そうだ、お前勇者だな?そうだな?!けけけ、ならばなおさら生かしては帰さんぞ!! ボストロール様が手柄をたててくれるわ!」
 ボストロールは笑いながら巨大な棍棒を振り上げた。


 力強く振られた棍棒を、セイはやすやすと避けた。
「ほざけ馬鹿!遅いんだよ!!」
 セイは床を蹴り、爪を薙ぐ。だがボストロールはにやりと笑う。
「効かんぞ、よわっちいやつめ。」
 蹴ろうと踏み上げた足を、セイはやすやすと避ける。
「イオラ!!」
 リュシアの呪文が、ボストロールの顔面に大爆発を起こす。…だが、爆風の後には、平気な顔をしたボストロールがにやりとリュシアを見た。
「おーまーえーだーなー?」
 じろりとにらんだ眼に、リュシアは体を振るわせる。
「だったら私からもあげるわよ!イオラ!!」
 自分の呪文では無駄だと思ったが、唱えてしまった呪文はもったいなく、サーシャはボストロールの鼻めがけて呪文を 投げる。
「さっきより、痛くないぞ?」
 案の定効かず、今度はサーシャの方を向き、にやりと笑った時だった。
「ぐ、ぐぐ、ちょっと痛いぞ!!」
 初めてボストロールが苦悶の顔を浮かべた。
「痛くしたんだよ!」
 トゥールが、両手を脇腹に剣を突きいれたのだ。
「やったなぁ!」
 ボストロールは棍棒を振り上げる。その単純な動きをかわそうと、トゥールは剣を抜こうとして…皮が引っかかって抜けず、 棍棒が頭上に迫った。
「トゥール!」
「スカラ!」
 まさに棍棒にトゥールが飛ばされる直前、リュシアの魔力がトゥールを覆った。

 壁に撃ち付けられたトゥールは、なんとか起きあがった。
「…さすが、リュシア、かな…。骨折れてないし…。」
 ダメージはあったようだが、それでも何とか剣を構える。
 その横から、セイが飛んだ。すばやさを利用して、死角から爪を振り上げる。
「バイキルト!」
 サーシャの声と共に、腕に力が宿る。セイは力一杯爪を突き立てる。
「ぎゃああああああああああああああ!」
 悲鳴が部屋に響いた。期を逃さず、トゥールは叫びながら走る。
「リュシア!!」
 リュシアはその声に応えて、呪文を謳う。
「バイキルト!」
 体に力が入ってくるのが分かる。トゥールは剣を先ほど斬った腹へと薙ぐ。
「ま、まだだ!」
 ボストロールはそこに棍棒をぶつける。剣は棍棒の中ほどまで切り裂いて止まった。
 セイが後ろから迫る。だが、その爪にボストロールがこぶしをぶつける。爪はこぶしに食い込むが、 ボストロールは大きく笑った。
「おまえらになんか負けない!」
 トゥールは額に汗を流しながら力一杯押すが、棍棒はびくとも動かない。セイもまた同様だった。爪を 抜けば、そのこぶしがセイを襲うだろう。
 このこう着状態は、バイキルトが切れた時が最後。それまでにはなんとかしなければ、とサーシャとリュシアは呪文を 唱える。
「メラミ!」
 トゥールたちを巻きこまないように、リュシアは顔をめがけて大きな火球を投げる。だが、髪のない頭は 燃えることなく、火はすぐに消えた。
「きーかーなーいーぞー。」
「バイキルト!!」
 その背中に、力強い一撃が斜めに走る。ボストロールは棍棒を落とした。そしてゆっくり振り返ると、剣を構えて 息を付いている、サーシャがいた。
「おーまーえー。」
 ボストロールはこぶしを振り上げるが、その腕を、爪が深々と切り裂く。
 そして、トゥールは飛び上がり、その脳天に剣を突き入れた。


 町中幸福ムードに包まれていた。
 城からは、偽王が溜め込んでいた食料や酒などが民衆に無料で振舞われ、人々は亡くなった者たちに哀悼を捧げた後、全ての 憂いを吹き飛ばすように、人は酒を飲み交わし浮かれた。
 そんなにぎやかな城下町とは裏腹に、城は静まり返っていた。
 弱った体を休めながら、本物の国王はトゥールたちと面会してくれた。
「勇者、トゥール殿…良くぞ、やってくださった…。」
「いえ、陛下。ご無事で何よりです。どうか体をいたわり、サマンオサの皆様に笑顔を見せて差し上げてください。 それは、陛下にしかできないことですから。」
「…トゥール殿は、世界を救おうとしておられるのだな?このサマンオサに巣食っていたモンスターが、世界を 覆おうとしているのだと…。それから、救おうとしてくださっておられる…。何か、できることは、ないだろうか?」
 サマンオサ王の言葉に、トゥールは頭を深く下げた。
「このようなことを言うのは、気が引けるのですが…変化の杖と、ガイアの剣をいただきたいのです。この国の 宝だと言う事は重々承知しておりますが…。」
 サマンオサ王は、まじまじとトゥール達を見つめた。そして口にした。
「変化の杖を…、どうかトゥール殿に。だがトゥール殿。ガイアの剣はもはやここにはない。…あれはかつての 忠臣、サイモンに授けたものだ…。そしてサイモンは…あの悪しき魔物の姦計にかかり、牢獄へ…。」
 王は身を振るわせた。顔色が悪い。それは体調のせいもあるだろうが、サイモンへの思いやりもあるのだろう。
「わかっております。…それを取りに、祠の牢獄まで行くつもりです。」
「…ガイアの剣は、大地を開く剣…おそらくそれを使いし時、そなたの道が開かれるであろう…。どうか世界を、よろしく頼むぞ、 トゥール殿…。」
 すっと眠りについた王は、どこか傷ついたような顔をしていた。


 …なぜこんなにトゥールは馬鹿なのだろうか。うん、きっとそこも君の魅力だ、多分。 史上初!落とし穴で死にかける勇者!!
 しかしどうして、世界観とは違う神様の名前がアイテムの名前に使われているのだーー。神話 違うし…。捏造捏造。真に受けてはいけませんシリーズです。
 ちなみにタイトルはグリム童話から。「くもりないお日様がことを明らかにする」…多分こんなタイトルだったかと。 丸々使いたかったのですが、長過ぎて断念しました。
 次回は多分、商人の町編です。

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