そうして、トゥール達は変化の杖を持って、再びこの地に訪れた。 「ほう…まさか本当に手に入れてくるとはなぁ…。」 トゥールが手にした変化の杖を見て、ワットは目を細めた。 「はい、ちゃんと王様から許可を得てきました。」 「ふむ、では…。」 ワットが手を差し出すが、トゥールは首を振った。 「これを貴方に渡すのはかまいません。…けど、約束できますか?これを、悪事に使わないと。じゃないと 渡せません。」 「渡さないとな?ならばこちらも、船乗りの骨は渡せぬぞ。」 「かまいません。」 トゥールはきっぱりと言いきった。 ワットは意地の悪い笑みを浮かべる。 「なかったら困るのではないのかな?」 「困ります。でもこれを貴方に渡すことで、悪事に使われるのはもっと困りますから、渡しません。 船乗りの骨を諦めて、別の道を探します。」 「ふむ、真に欲張りじゃのう。どちらかで妥協せんか?」 「しません。…勇者って、そういう者ですから。それが、正しいかは分かりませんけれど。」 トゥールとワットはしばらくにらみ合いをした。そして、 「はっはっはっは!せんよ!悪用なんぞ!わしは自分のためだけに生きると言ったろ?この場所で適当にギャルにでも 化けて楽しむだけじゃよ!!」 シリアスな空気をぶち壊したワットに、セイは頭を抱えた。 「…じーさん…。まぁ、トゥール、仮にも青眼のワットだ、他人から貰った道具使って悪事なんざしねぇよ。」 「セイがそういうなら、そうなんだろうね。…じゃあ、渡します。」 トゥールは変化の杖を渡す。中央の青い玉がきらりと輝いた気がした。 「じゃあ、これを持っていけ。」 ワットは手元に置いてあった布の袋を投げた。中を覗くと、そこにはなにやら文様がほられた人の骨。トゥールは 小さく笑った。 「ありがとうございます。」 「ところでなぁ…そっちの黒い髪の嬢ちゃん?」 ワットは好々爺の顔でリュシアを見た。 「リュ、シア?」 今まで他人事だと思っていたリュシアが、驚く。 「あんたは腕も細いし、見たところ気も弱そうじゃ。…辛くはないか?この勇者さんについて旅をするのは。」 トゥールはようやく気が付いた。これは『試し』だったのだと。 「…………辛い事もあるけど、楽しいから。」 しばらく考えた後、リュシアは控えめな笑みを浮かべた。 「そうか。いい答えじゃな。…トゥール。勇者の仲間たち。どうかよろしく頼むな。…セイ、死ぬなよ。銀はまだ 会いたくないと思うからな。」 ワットは頭を下げた。 結局、四人はそのままギーツの町に向かうことにした。 「イエローオーブあればいいんだがな。」 「そればっかりは分からないからね。でもそろそろ様子を見に行ったほうがいいと思う。」 リュシアは横で、ずっと悩んでいた。ギーツには会いたくないが、ここで待っているのも嫌だった。 「まぁ、さっと言ってすぐ帰ればいいだろう?いつまでもほっておくわけにはいかないんだ。」 「…うん…。」 「大丈夫だよ、リュシア。待ってても大丈夫だし、何か言われたら、ちゃんと守ってあげるから。」 さらりと言われたトゥールの言葉に、リュシアは一瞬呆け、そして頬を染めて頷いた。セイがため息をつく。 「…トゥール、あんまり甘やかすなよ。なぁ、リュシア。お前がギーツを嫌いなのは、 生まれになんか言われたからだろう? もう分かってるんだからいいじゃねぇか。それになぁ、リュシア。普通に考えて、多分お前の方が強いはずだ。」 「…強い?」 「嫌な事言われたら、死なない程度に呪文ぶっ放せよ。それでもう言わなくなるだろ。」 そう言われて、真剣に考え込むリュシア。眉間にしわを寄せている。 (…そんなに嫌いなのか…。) まぁ、正直好きだと言える人格ではなかったが、リュシアがここまで執着するというのはどこか珍しい。 「…なぁ、サーシャ、…サーシャ?」 見ると、サーシャはリュシアの横で、同じように眉間にしわを寄せて考え事をしていた。リュシアがやると どこか可愛らしいしぐさが、サーシャがすると世界の深遠を思うような、どこか美しく深い思いを抱かせる光景になる。 「…?サーシャ?どうしたの?」 トゥールもそれに気が付いたか声を上げると、サーシャはやっと考え事をやめた。 三人がいぶかしげな顔をして、こちらを見ている。 「あ、や、ごめんなさい。聞いてなかったの。何?」 「何って…いやたいした事話してないんだけど、何考えてたの?」 「…色々、オルテガ様の事とか…。」 トゥールは少し呆れた顔になったが、セイはその言葉に突っ込みを入れる。 「想い人を思ってたにしては、表情が険しかったが?」 「悩み?」 なおさらに詰め寄られ、サーシャは考える。今ここで口にして良い事かと。悩んで、口にする。 「…トゥールが、ワットさんに『勇者は欲張りだ。父さんもそうだった。』って言ってたじゃない。 あれは、どういうことなのかしら、って…。」 「あー、うん、あれか。うーん……。」 今度はトゥールが悩みだした。サーシャはどこか切なげな顔をしている。 勇者オルデガと言えば、世界の為に身を粉にして戦い、そして散っていった英雄というのがサーシャの、 いや、アリアハン全ての人々の認識だった。 それが欲張りだと言われても、ぴんと来ない。それこそ『勇者』にしかわからないことなのだろうか。 …平和のための生け贄にしか。 そんなサーシャと、そして同じく少し困惑しているリュシアの為に、トゥールは結局表の発言をした。紛れもない 真実を。 「自分の周りの平和だけじゃなく、世界中の平和を望むって、ものすごくわがままだと思わない?自分だけの 平和じゃ満足できないんだ。…これって、凄く贅沢でわがままだよね。」 にっこりと微笑むトゥールに、嬉しそうに笑うリュシアと、少し複雑な表情をするサーシャ。そんな 三人を見ながら、セイは頭を掻いた。 |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||