間近で見ると、それは本当に豪華で、巨大な屋敷だった。 「サーシャ、会いたかったよ!」 「ギーツ、…驚いたわ。本当に凄いのね。」 ギーツは館の入り口で、両手を広げてサーシャを迎え入れた。 「さ、こんなところじゃなんだろう。散らかってるけどこっちに来いよ。…ま、お前等も一緒に来てもいいぜ。 オレはケチじゃないからな!」 サーシャの肩に手を回しながら、ギーツは屋敷の奥へと誘う。 「急な話で粗末なメシしかないが、食って行けよ。こんな奴等と一緒にいるよりは、上手いメシが食えるからな!」 「え、ええ、ありがとう、ご馳走になるわ、ギーツ。」 「会いに来てくれて、本当に嬉しいよ、サーシャ。オレの話はそこでゆっくりしよう。本当は二人きりがいいんだけどな。」 嫌味を込めた目で、ギーツは後ろの三人を見た。トゥールは苦笑し、リュシアは怯え、そしてセイは感心なさそうに周りを 見回す。 (なんともまぁ、趣味の悪い…) 宝石のごたごたついた王座、金の女神像。 とにかく豪華、無駄に付いた装飾品。ただただ高価なものを集めたのだろう、統一感がまるでない。ごてごてして うっとうしいとしか言えない。 相当頭が良くないと町など治められないはずだが、権力者と言うものはこういうものなのだろうか。セイは心で舌を出した。 予想通り、驚くほど豪華な食事が並べられる。上質な食事は舌でとろけるようで、トゥールたちを魅了する。 そして、それに付いてくるギーツの話は…意外な事に面白かった。 自慢話や苦労話は話半分に聞くとしても、開拓、人集め、住宅計画など、徐々に町を作り出していく話は興味深く、面白かった。 だが、残念な事に、それは初期までの話だった。 「それでな、『ギーツ様、お願いいたします!』だとさ、そんな面倒なもんオレに押し付けるなって思うけどな、ま、これも 有能故って奴か?結局両方取り上げて、俺がおのおの金を払うことで治めたんだけどな。そうするとまた別な問題が 出てくるわけよ。今度は土地の日当たりの配分が不公平だってな。もういい加減にしろって怒鳴りつけてやったぜ。」 「結局そいつが、オレに女を差し出してくるわけよ。女がどうしてもって涙を 浮かべるわけよ。それから毎日、別の男が、娘を差し出して来て、困っちまうよな。やっぱりオレは一人だけに 縛られるのは罪なんだろうな。」 「今度、きちんとした港を造ろうと思ってるんだ。そうすればもっと物資の交流の行き来が簡単になるだろ?でも、スーにいた奴が うるせーんだよ。こっちの気もしらねーで、自分の事ばかりいいやがって。個人の職がなくなるとか、そんな細かい事 気にしてられるかっつーんだ。あの長老がいなくなってからオレは自分の采配でこの町を大きくしたんだからな。」 途絶えることなく出てくる愚痴と自慢話を、サーシャは苦笑しながら受け止めるしかなかった。 だが、分かった事がある。 この町は、スーの長老が引退してから、本当に ギーツ一人によって支えられているのだった。町の建造計画、治世、税率から、騒動の判定まですべて ギーツ一人で請け負っている。 人々はギーツのやり方に不満を覚えながらも、全ての困難をギーツに押し付けて生活しているのだ。 「でも凄いのね、ギーツ。一人でこの町を支えているなんて…大変でしょう?」 「ま、たいした事ないぜ、オレには才能があるからな。オレにははっきり分かるんだ、オレには王になる 才能があるってな!この町をもっともっと大きくして、もっと人を集めればオレはきっと認められる!アリアハンになんか 負けない国にして、ギーツバーグの伝説の王になってやるんだ!」 野望に燃えるギーツ。それを見て、トゥールはどこか複雑な気分になった。 「ギーツ、でもそのためにはちゃんと皆の事考えないといけないと思う。」 「なんだと?!何も知らないお前に何が分かる!お前は勇者だとか言われて、泥臭い野山でモンスターと 戦って砂と血にまみれとけばいいんだよ!!」 ギーツの言葉に、トゥールは目を閉じた。 「ギーツ、やめて、そんな言い方!」 サーシャの声に、ついこの間のことを思いだす。 ”勇者の手は、人を仇なすモンスターと魔族を切る手よ。人を切る手じゃないと思うわ。” ふっとトゥールは笑った。 「…そうだね、それが僕の役目だ。僕はそうやって世界の平和を取り戻す事が役目なんだ。じゃあ、ギーツは?」 「オレはこの町を大きくする事が目的だ!!」 「違うよ。…いや、そうかもしれない。僕達が、サーシャがギーツにお願いした事はそうだったんだから。でも町の 人たちが望んでいる事は違うよ。」 ギーツは笑う。 「知った事かよ!有象無象の奴等なんて気にしてられっか!まぁ、皆オレを崇めてるし、オレにはむかう奴なんて いないだろうけどな。」 「そう思ってるのは、上の人間だけだろうな。」 今まで黙っていたセイが、ぽつりと言った。ギーツは一瞬にらんだ後、鼻で笑う。 「庶民は黙ってろよ。」 「ギーツが守らないといけないのは、その庶民のはずだろう?…はっきり言うよ。皆不満に思ってる。反乱の 計画まで立ってるんだ。」 「っは?!反乱の計画?まぁ、一部で税だのなんだのの不満が出てたのは知ってるが、ごく一部だぜ?本気で 反乱しようなんて奴はいないね。オレに従う奴の方が多いし、オレに逆らうのは愚かだって皆分かってるからな!」 勝利の高笑いをするギーツ。リュシアはただ呆れるように眉をひそめ、サーシャは困惑し、セイはすでに見離していた。 だが、トゥールは。 「褒められて、崇められて、当てにされて…そんな人しかいなかったら、同じ人間だと思えなくなるのは 当然だと思うよ。自分が凄い人間だと思って、相手を見下したくなる気持ちは良く分かる。 でも、守らなければならないのはそう言う人なんだよ。ギーツの求められているのはそういうことなんだから。」 「うるさい!お前に何が分かる!!もういい、出て行け!!」 「ギーツ…反乱の事は本当なのよ、私も聞いたの。町の人が計画しているのを。」 サーシャがなだめるように優しく口にした。。ギーツはサーシャの顎をそっと持った。 「何もさせやしないぜ。どうせ何もできやしないんだ。…サーシャ、こんな奴等の側にいる必要はない。 サーシャはギーツバーグの伝説の王妃にもっともふさわしいからな。」 「ギーツ、私は、」 「ギーツ様!ギーツ様大変です!!」 召使だろう、男が大きな足音を立てて部屋に入ってきた。 「…なんだ?」 「町の者たちが、武器を持って屋敷を取り囲んでおります!!」 嵐の夜が、始まろうとしていた。 |
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