終わらないお伽話を
 〜 The Flying Dutchman 〜



 イシスとロマリアの間の海。トゥールの手の中の骨がカタカタと震える。
 四人の目の前で、ゆっくりと幽霊船が霧を切りながら現れた。

「思ったよりはぼろくないな。」
 セイの率直な感想。
「そうかな、僕は最初からこんなイメージだったけど。」
「そう?私はもっと小さいのを想像していたわ。…こんなに大きいなんて思わなかった。」
 こくこくと頷くリュシア。確かに少し古さを感じるが、しっかりと張られた帆。まっすぐ空を目指す柱。なかなか堂々とした立派な 船だった。
「奴隷船だって聞いてたが、もともと客船だったかもしれねぇな。」
「…そうかな?あ、足元気をつけて、セイ。」
 トゥールがそう注意を促したとたん、セイの足元の床板が割れた。
「うわ、あぶね!…やっぱなんだかんだ言っても幽霊船か。腐ってやがるな。」
「そうね、気をつけないと。」
 どこかぐらぐらする足元を探りながら、四人は慎重に足を進めた。


「大丈夫だ!俺の船は絶対に沈まんからな!!」
 おそらく船長らしき人物が、上機嫌で操舵輪をまわしている。サーシャが傍に寄って一礼した。
「…あの…この船の中に、エリックさんという方は…。」
「エリック?ああ、そういや最近乗せた奴隷にそんな名前の奴がいたような気がするな…。奴隷は皆 最深部だ。」
「ありがとうございます。」
 にっこりと微笑むと、初めてその美貌に気がついた船長がにやりと笑う。
「なぁ、あんた綺麗だな。良かったら俺の船にずっと乗ってくれないか?」
「サーシャ、行くよ!!」
 トゥールが強引なまでに大きな声を出す。
「あ、ごめんなさい。…なによ、トゥール?」
「…いいの?」
 不思議そうに言うトゥールに、不思議そうに首をかしげるサーシャ。
「いいもなにも、トゥールが行くって言ったんでしょう?」
「いや、いいならいいんだけどね…。」
 妙にあいまいそうにトゥールは言って、その場を離れた。


 どこかおどろおどろしい雰囲気を感じながら、トゥールは慎重に下へ降りていく。
「…トゥールなんかおびえてないか?」
「別に怯えてないけどさ、足元がいつ割れるかと思うと怖いじゃないか。」
 トゥールの言葉に、セイは笑う。
「大丈夫だろ。それより幽霊いねぇな。もっとこう、うじゃうじゃいるもんだと思ってたけどな。」
「そうね。下の方にいるんじゃないかしら?」
「…さっきの船長さん、びっくりしたの。」
 トゥールの耳に、ばきばきと床が割れる音がする。
「急ごう。船、壊れそうだよ。」
「大げさね。大丈夫よ。」
 サーシャの言葉に苦笑しながら、それでも慎重にトゥールは下へと降りた。

 地下では大勢の人間が、悲しげに歌いながら船を漕いでいた。
「…ん、あんたら新しい奴隷か?かわいそうに。」
 奴隷の一人が手を止めてこちらをみた。
「いえ、僕達は違います。」
「…エリックさん、という方を探しているんです。ご存知ありません?」
 サーシャの言葉に、男がしばらく考えて口にする。
「…ああ、あの騙されてここにつれてこられた奴だな…俺は罪を犯したわけだから自業自得だが…あいつは可愛そうになぁ…。この奥に いるよ。赤いシャツを着てるからすぐわかるさ。」
 後ろ手で通路の奥を指差す。そしてオールをつかんだ。
「俺たちゃ奴隷だ えーんやこーら」
 暗い口調で歌いながら、力を込めてオールを漕ぎ出した。よく聞いてみると、皆小さな声で同じ歌をくちずさんでいた。


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