小さな歌に導かれるように、四人は奥へと進んでいく。そして、その途中、赤い服を着た青年が、 オールを動かしているのを見つけた。
「あんたがエリックか?」
「オリビア…もう船が沈んでしまう…キミにはもう、永遠に会えなくなるんだね…。」
「船が沈む?何言ってるんだ?」
 セイの声に答えず、男はひたすらぶつぶつつぶやいている。
「でもぼくは永遠に忘れないよ…キミとの愛の思い出を…せめてキミだけは…幸せに生きてくれ…。」
『オリビア』との名前を聞き、エリックだと言うことは分かったが、なぜかこちらを見ようとしない。
「エリックさん、エリックさん。あの私達、オリビアさんにお会いしました。…どうか、私達と一緒に 来てください。船は沈んだりなんかしません。来てくださればきっと、オリビアさんも喜ぶと…」
「…ああ、オリビア…愛している…キミとの愛の思い出は、この胸の中に…。」
 サーシャの声に耳を傾けないエリックは、ひたすら何かをつぶやいている。
「…魔法で、連れて行く?」
「それがいいかもな。…恐怖で狂っちまったのかもな。こんなところで働かせられてな。」
 リュシアとセイがそういう横で、トゥールが一歩踏み出した。
「そんなこと、できるわけないよ。…失礼します。」
 トゥールはそう言うと、突然エリックの胸をさぐり、服のポケットからアクセサリーを取り出した。
「トゥール、おま、何やってるんだ!」
 あせるセイ達を尻目に、トゥールはそのアクセサリーを掲げ、
「これから、これをオリビアさんの元へお届けします。もしできるなら、どうか一緒に。」
 トゥールはそう言うと、そのアクセサリーをしまいこんだ。エリックは何も反応せず、オリビアへの愛の言葉を ささやいている。

 少し心配そうにエリックを見ながら、サーシャはトゥールをとがめるように口にする。
「トゥール、返したほうが良いわよ。たしかにちょっと、病んでいらっしゃるみたいだけど…このままほっとくなんてできないわよ。」
「…返せないよ。このままほっとくことは僕もしたくないけど…どうしたらいいのかなぁ?」
「…トゥール、なんか変。」
 端的に言うリュシアの言葉に、他の二人は頷くが、トゥールはむしろ首をかしげた。
「おかしいのは3人だと思うけど…もしかして、僕がおかしいのかな…?とにかく、帰ろう。」
「帰るって言っても…。」
「お前、いいのか?」
 ためらう三人を尻目に、トゥールは歩き出した。三人はエリックとトゥールを見比べながら、しぶしぶついていく。
「もしかして、モンスターにメダパニでも食らったか?」
「…どうなのかしら…幽霊船に入ったときからよね?」
「でも、目、まとも。」
 三人でぶつぶつつぶやいていたが、そこに、人影が姿を現した。


 それは、どこか太った商人風の男だった。
「おや、あんたらご同業かい?この船の奴らじゃないみたいだが。」
 一瞬トゥールたちを見て驚いたようだったが、やがて人懐っこい笑顔に変わる。
「同業ってなんですか?」
 トゥールが聞くと、男は声を小さくした。
「盗賊だよ、盗賊。…こんな立派な船だろ?客の物とか積荷とかにいいもんありそうじゃねぇか。 忍び込んできたんだよ。」
「ああ、なるほどな。…まぁ、ちょっと違うさ。」
 セイが納得したように言うのを、トゥールは一瞬ぽかんと見た後。
「…そうか、やっぱり僕がおかしかったのか。」
 そう言って、少し考えはじめた。
「トゥール、どうしたの?」
 リュシアが心配そうにトゥールを見る。トゥールはしばらくすると、かばんの中から船乗りの骨を取り出した。
「これ、触ってみて。」
「??…きゃっぁ!」
 リュシアは不思議そうに触った後、驚きの声を上げた。
「どうしたの?」
「なんだなんだ?」
 サーシャとセイが不思議そうに寄ってくる。トゥールとリュシアは骨を触るように身振りする。そして二人は骨に触れた。
「うわ!!」
「嘘!!どういうことなの?」
 今まで見えていた、少し古いけれど立派な船が消えてなくなり、そこには腐りかけでぼろぼろの船が現れたのだった。


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