一度真実が見えると、もう骨を持ってなくても平気らしい。トゥールは骨をしまいながら話す。
「おかしいと思ったんだ。皆こんなぼろぼろなのに、足元に気をつけないし、船のこと褒めるし。サーシャは目の前に 幽霊がいるのに普通に話してるし。」
「言ってくれよ!!」
 セイのまっとうな突っ込みに、トゥールは憮然と言い返す。
「僕と皆が違う物が見えてるなんて思わなかったんだよ。もっとぼろぼろかと思ってたって、想像の中身なんて見えないんだからさ…。 エリックさんがとっくの昔に死んでるなんて、皆知ってるだろ?」
 トゥールの言葉に、皆衝撃を受けている。
「…そう言えば…知ってたはずなのに、ちっとも思い出さなかった…。」
「そもそもなんだって、こんな違う風に見えてたんだ?」
「…そうか、あんたら、生きてるのか?」
 そう声をかけてきたのは、先ほどの商人だった。そして、先ほどまで生きていると思い込んでいたその男は、今は 紛れもなく、幽霊にしか見えなかった。
「なぁ、何でだよ?俺は善良な盗賊だったんだ。ちょっと忍び込んだだけじゃねぇかよ。なのに…あいつらに…。」
「あいつら?」
 ぞわりと、気配を感じた。四人はいっせいに振り向く。
 そこには、巨大な霊の塊が、恐ろしい形相で四人を飲み込まんと襲い掛かってきた。
「お前らも、俺達と同じになれ!!」
 盗賊の幽霊の声を聞くが早いか、四人は反射的に走り出した。

「ニフラム!」
 四人の中で一番冷静だったトゥールが、後ろに向かって呪文を放つ。一番手前の一部は消えたが、まだまだ幽霊はあふれんばかりに 襲い掛かる。
 腐った床板を踏み抜き、穴の開いた階段を避けながら、四人は自分の船に向かった。
「…どうして…こんなことをしても、何にもならないのに…。」
 さすがのサーシャもこの状態で、一人一人の悩みを聞いて救いたい、とは言えなかった。が、その気持ちは今も ある。歌を口ずさみながら、一生懸命船をこいでいたひたむきなあの人たちが、今自分達を こうして苦しめようとしていること。そしてそれ以上に苦しんでいることが辛かった。
「気がすむってやつだろ。苦しい思いをしてるのが自分だけじゃ我慢ができない。こいつら…違う、この 船はそんな情念の塊なんだろうな!!」
 セイの言葉に、トゥールが頷いた。
「多分、罠なんだと思う。自分ひとりで死んで、きっと寂しくて、だから綺麗な船に見せて、さっきの商人みたいな人をおびき 寄せては仲間にしてたんだよ。」
 トゥールとサーシャは浄化呪文を交互に撃ち、なんとか自分の船に転がるようにして飛び乗った。

 船からは出られないのか、幽霊達は恨みがましげにこちらをにらみつける。
「燃やしちまえ、こんな船!」
「いいのかしら…?苦しくないかしら?」
「これ以上被害が出るよりましだろ。それに多分こいつらは、この船と一体化しちまってるよ。それこそ 上にあげてやればいいんだ。」
 セイの言葉に、サーシャが呪文を唱え、リュシアが旋律を奏でる。そして、ほぼ同時に呪文を放つ。
「「メラミ」」
 大小の火の玉が幽霊船にぶつかる。湿っているのか燃え上がらないようなので、二人は何度も呪文を唱えた。
 そして、何度目かの呪文で、ようやく船は赤々と燃え始めた。沈み行くその船の向こう側で、小さい炎が ちらちらと浮かぶ。
 サーシャはその場で跪き、人々への祈りをささげる。
「慈悲深き、精霊女神ルビス様。どうかこのかたがたの御霊を、空の彼方、貴女の内なる夜へとお納めください。安らかな 闇で安らぎを与え、そして新しき朝への道を歩めるよう、どうかお願いいたします…。」
 その祈りに答えてか、大きな炎から、美しい金色の光がぽつぽつと飛び出し…ゆっくりと空へと向かっていく。
「…良かった。」
「うん。」
「ひどい目にあったな。」
「びっくりしたよ。」
 そういうトゥールの前に、ふわりと一つ、黄金色の光がゆっくりと旋回し…かばんの中に消えた。
「なんだ?」
 驚いたセイの隣で、トゥールが微笑する。サーシャも気がついたようで、立ち上がりながら言った。
「エリックさんね。…ありがとう、トゥール。返せなんて言ってごめんなさい。」
「分からなかったんだから無理ないよ。」
「…トゥール凄いね。」
 リュシアはいまだ燃え行く船を見ながら、そう言った。やっぱりそうとしか言えないなと思いながら。
「ありがとう。…さ、早いところオリビアさんと会わせてあげようよ。」
 そうにっこり笑う笑顔に、リュシアは今までと別の満足を覚えた。


 捏造捏造。いやあの商人どっから来たんだ、と思ったもので。幽霊船もずいぶん(地図のドット上では) 綺麗なので。あの船乗りの骨はその「罠」を止めてもらうためのアイテムという設定です。
 …オリビアの愛の思い出のある場所、エリックさん言ってくれないんですね。なんかもうちょっとまともに会話 できたイメージがあったのですが。火事場泥棒かよ!と思ったので引きずり出していただきました。 トゥールも「僕も幽霊の男の人の服なんて探りたくないよ…」とか思ってたことでしょう、きっと。
 タイトルはワーグナーのオペラから。エリックってこっからとったんでしょうか。

 次回も死者との会話?は続きます。

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